官僚のこれからのキャリアを考える:リボルビングドア人材を目指して【Pubcariイベントレポート】

イベント

官僚として培った経験や能力を、これからどう活かす道があるのか――?

2019年8月22日(木)、マカイラ株式会社が運営するパブリックアフェアーズ人材のための転職支援サービス「 Pubcari(パブキャリ)」の主催イベント「官僚のこれからのキャリアを考える:リボルビングドア人材を目指して」を開催しました。

今回ゲストとしてお迎えしたのは、元官僚から民間へ移った経歴を持ち、現在それぞれの世界で活躍する4人のパブリックアフェアーズ・プロフェッショナルです。

マカイラ代表の藤井宏一郎が司会を務めた、パネルディスカッションの様子をダイジェストでお届けします。

■「Pubcari(パブキャリ)」とは
パブリックアフェアーズ人材のための転職支援サービス「 Pubcari(パブキャリ)」は、パブリックアフェアーズを産業として日本に根付かせ、「社会課題解決と企業の成長が連動する」世の中を、公共・非営利・民間企業のトライセクター連携により実現することを目指します。

働き方、家族、自己成長…官から民へ移ったきっかけ

藤井宏一郎(以下、藤井):本日は「リボルビングドア人材」などの新しいキャリアパスを考えるべく、官僚出身で、現在、それぞれの領域で活躍されているみなさんに集まっていただきました。

まずはお一人ずつ自己紹介も兼ねて、官僚から民間企業へと移った経緯をお聞きしたいと思います。では、吉川さんからお願いできますか?

吉川徳明さん(以下、吉川):私はヤフーを経て、現在はメルカリで働いています。その前は公務員を8年間やっていました。

官僚をやめる直接的なきっかけとなったのは、実は家族なんですよね。特に内閣官房でTPP交渉に関わっていた時期は、毎月2週間ほど海外出張があり、国内にいても連日深夜に帰る生活でした。

夫婦ともに仕事を続けながら、育児もしていくには難しい環境でした。もちろん他にも理由はありましたが、実態はそんな感じでした。

吉川 徳明(よしかわ のりあき)
メルカリ 社長室 政策企画 マネージャー。2006年、経済産業省入省。2008年、日本銀行金融市場局に出向したのち、2010年、経産省に戻り、情報経済課でIT政策全般、震災対応を経験する。2012年、内閣官房へ。その後は民間に転じ、2014年、Yahoo! JAPANを経て、2018年、メルカリに入社。現在、フィンテックやEC分野でパブリックアフェアーズ(PA)業務を担当する。
>吉川徳明さんのインタビューはこちら

 

河本孝志さん(以下、河本):私は外務省、国連事務局などで働いてきましたが、その間にコンサルティング会社にいたこともあるので、よく「何をやっているかわからない」と言われます。

基本的には問題解決をしたい気持ちが強いんですよね。だから「官僚になる」「民間に出る」と考えるよりも、自分が向き合う問題を解決するためにベストな場所、力が付けられる環境を探し求め続けて今に至ります。

河本 孝志(かわもと たかし)
ブランズウィック・グループ アソシエイト。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。米国大学院修了後、外務省にて勤務。2014年、デロイトトーマツコンサルティングに入社し、戦略部門のシニアコンサルタントとしてビジネス戦略立案、マーケティング、政策連携(ルール形成戦略)に深く関わる。その後、世界経済フォーラムを経て、ベルギーの国連防災機関(UNDRR)に官民連携担当官として参画し、主に欧州委員会、欧州企業とのコラボを担当。2018年11月、ブランズウィック・グループに参画し、主に日米ビジネスをリードするポジションで2020年より米国支社へ転籍予定

 

深宮智史さん(以下、深宮):僕の場合は経産省に15年勤めて、2年前に民間企業に移りました。官僚を辞めたのは、新しい技術やサービスを社会実装しようとしたとき、規制緩和などの制度面だけでは十分ではなく、民間のビジネスサイド、自治体サイドの経験も必要だと感じたからです。役所だけでは完結できないなと。
深宮 智史(ふかみや ともふみ)
フリーランス。2002年、経済産業省入省。人材・教育、医療・介護、ロボット・ドローンなど、新しい技術・サービスの社会実装に向けた政策立案を担当。その他、広報、スペインへのMBA留学、在インド大使館での日系企業支援も経験。2017年、ビジネスの世界に転じるため、日本電産入社。グループ会社の業績管理や事業再編、中国地元政府との優遇措置交渉、会長兼社長秘書、働き方改革、グローバルでの情報セキュリティ体制整備を担当した後、今年5月に退社。現在は、高齢・障害社会の変革に挑戦する中小・ベンチャー企業へのコンサルティングを実施。

 

城譲さん(以下、城):私は国土交通省に12年勤めたあと民間に出て、楽天とメルカリで4年ずつ働き、今のマカイラに至ります。もともと国内の住環境を良くしていきたいと思って官僚になったのですが、8年目にケニアの国連組織に飛ばされて(笑)。

でもそこで、さまざまな国の人たちと出会い、日本の官僚の働き方や生き方に疑問を感じはじめたのをきっかけに、人生長くないし、一度民間に出て、何ができるか挑戦してみようと思ったんです。

城 譲(たち ゆずる)
マカイラ株式会社 執行役員。公共セクター(国土交通省、内閣府、国際連合UN-HABITAT)での12年の勤務と国内IT企業(楽天、メルカリ)での8年の勤務経験を持つ。国土交通省では地域振興や航空政策等、内閣府では防災政策、また、国連では各国で深刻化する都市問題に対応するための調査分析を担当。楽天では法務課長、メルカリでは法務・政策企画マネージャーとして、IT分野における各種法律を運用。官民の両セクターの経験から、両者の協働による発展的な政策立案の必要性を実感し、その推進のためマカイラ株式会社に参画。

 

藤井:思った以上に、働き方の問題で官僚を辞める人は多いですよね。僕も実は、文部科学省時代に結婚したことが、民間に出るきっかけになりました。

一人ひとりにとっては個人の家庭の問題かもしれないけど、こう話を聞いてみると、やはりそれが優秀な人材の活躍の場を奪い、日本全体の活力を削いでしまっていると感じざるを得ませんね。

藤井 宏一郎(ふじい こういちろう)
マカイラ株式会社代表取締役。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授。テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。東京大学法学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営学院卒 MBA(マーケティング及び公共非営利組織運営専攻)。PHP総研コンサルティングフェロー。国際協力団体・一般社団法人ボランティアプラットフォーム顧問。NPO法人情報通信政策フォーラム(ICPF)理事。日本 PR 協会認定 PR プランナー。

 

藤井:ただ一方で、官民の間で人材が活発に動くのは良いことだと思います。民間でのビジネス経験がある、役所で働いていた、NGOで働いていたことがある、大学でも教えたことがある……あらゆるバックグラウンドを持つ人が集まってチームになる。

パブリックアフェアーズの世界では、そうした多様なチームができてはじめて、できることが非常にたくさんあります。だからこそ我々は、リボルビングドアを推進していきたいと思っています。

ビジネスシーンで発揮できる「官僚として培った能力」

藤井:とはいえ、パブリックアフェアーズ業界はまだまだ人材不足なのが現状です。ここで元官僚のみなさんにおうかがいしたいのは、民間に出て、それぞれどんな経験が活きているか。官僚として培った能力を、ビジネスシーンでどのように発揮しているのでしょうか。

深宮:僕は、ある意味“スーパージェネラリスト”であることが強みになりましたね。

例えば大企業でグループ事業を再編しようとすれば、本社の管理機能、税務部、法務部、さらには外部の会計ファームなど多様なステークホルダーをまとめなければならないことがあります。みんなそれぞれの領域のスペシャリストではあるけれど、専門家たちの意見を全て統合し、論理的にまとめあげ、プロジェクトを着実に前に進めることができる人はあまりいないんですよ。

藤井:わかります。日々、難易度の高い案件に取り組んでいるからこそ、官僚は調整力ありますよね。

吉川:現在も採用の面接等を通じて若手の官僚の方に会うと「民間で活かせるスキルがない」「自分はジェネラリストで武器がない」と思い込んでいることが多いなと感じますが、そんなことはないんですよね。スキルや能力は相対的なものだから。霞が関では、ありふれたコモディティのようなスキルや能力も、民間では希少なことが結構あります。

民間への転職前後は、私自身も特別なスキルがないことをコンプレックスに感じたこともありましたが、転職した直後、最初の上司から「視座が高い」と評価されて驚いたことがありました。

また多様な関係者の利害を調整したり、官僚としては当たり前の仕事でも、一歩、霞が関の外に踏み出すとそれが希少な力になることが大いにあります。

河本:確かに官僚を経験した人は、マクロの政策視座を持っていることが多いですね。私自身もコンサル会社に入って事業戦略策定などに携わったとき、それが強みになりました。

吉川:それからもう一つ。論理的かつ簡潔な文書をまとめ、意思決定者が即座に理解・判断できるよう情報を整理するスキルも、企業の中ではすごく活きますよね。

:他のみなさんも、文章力を評価されたことありますか? 吉川さんだけが特別なわけではないですかね?(笑)

深宮:吉川さんはすごいですよ!(笑) でも僕も確かに、文書作成に関してはかなり評価を受けていました。官僚時代の感覚ではそんな大層なことをしているつもりはないけど、けっこう驚かれます。

吉川:官僚は日常的に、時間がない政治家などに対して端的に説明することを繰り返していますからね。経営者と政治家は似ていると思います。一見複雑な課題から余計な情報を削ぎ落として、意思決定に必要な本質だけをまとめて「5分で説明しますから、決めてください」ということがすぐにできる。この力はいろいろなビジネスシーンで生きるのではないでしょうか。

事業への貢献と目指す社会の実現、両輪で考える

藤井:官僚としての経験や能力を活かせる一方で、役所で長く働いていると、民間のビジネスパーソンが普通に接していることがわからないケースもあるかと思います。官僚はB/SやP/L、株価のことはほとんど考えないし、売上と利益率のバランス感覚もない。みなさん、そのあたりのディスアドバンテージを感じたことはありますか?

深宮:そうですね……。僕は民間に出て勤めた会社で配属になった部署が、バリバリ業績管理をするところだったんです。すごく数字に厳しくて、毎日毎日数字を追って、最初はノイローゼになるかと思ったくらいでした。

でも数か月のあいだ必死に食らいついていくと、それなりにキャッチアップできるようになりました。今では必要もないのに、常に電卓を持ち歩くのがクセになってしまったくらいです(笑)。取り組んでみれば慣れることもありますから、そんなに不安に思う必要はないと思います。

藤井:なるほど。ただそこで一つ気になるのは、公務員や官僚を目指す人って、基本的にお金儲けに興味があるわけじゃないですよね。社会政策的な視座の高さが、民間に出てビジネスに携わったときにハードルになったことはありませんか?

吉川:特にそれはなかったですね。ものの考え方は、官僚だった頃とほとんど変わっていません。企業側で政策に携わる際も、「自社の話だけをする」より、「こういう社会を実現するために我々のビジネスを活用してください」と自社を越えた社会像を示さないと説得力が出ませんから。

とはいえ、理想論だけ掲げるばかりで会社にどれほど貢献できるのかを説明できないと、パブリックアフェアーズを実践するチームとして、会社内での確固とした足場を築くことができません。

だから他の部署から回ってくる「渉外でどうにかしてほしい!」というビジネス交渉を拾って、どうにかする。目の前にある課題を解決して、短期的なビジネスに貢献するための泥臭い仕事をやることも大変重要です。

:確かに事業会社に入った当初は、提案に対して何度も「それって採算とれるの?」と問われましたね。

河本:私はそうしたビジネス面の力をつけるために、一度コンサル会社に入りました。社内で合意形成をするとき、ビジネスのことをわかったうえでの提案であれば説得力が生まれます。

どんなに想いが強くても、それだけでは社会は変わらないですからね。ある程度の利益が出るビジネスでないとスケールしていかないし、社会も動いていかない。そういうことだと思います。

今の環境だからこそ築ける人間関係を大切に

藤井:これからの官僚のキャリアパスとして、長年にわたり官僚として働く、民間に移る、民間に出て再び役所に戻るなど、さまざまなケースが考えられます。そうした選択肢を念頭に置いたうえで、どのように日々の業務に向き合い、どのようなキャリアを積んでいくのが良いのか。最後に、現職の若手官僚の方に向けてぜひアドバイスをお願いします。

吉川:官僚として働いていると、数年に1度くらいのスパンで非常に困難な課題や大事件に直面することがあります。それを共に乗り越えた人間関係はずっと残るんですよね。だからありきたりではありますが、いま自分が担当している仕事の中で、地道に信頼を積み上げていくことがすごく大事なことだと思います。

河本:吉川さんのおっしゃる通りで、複数のセクターや役職を超えた人間関係はかなり重要なアセットになります。特に外国政府の方とのコネクションなどは、民間にいるとなかなか手が届きません。官僚だからこそ築ける関係性はたくさんあって、それが思わぬところでビジネスに転じることもあります。

深宮:人間関係に加えて、もう一つ大事なのは謙虚さを忘れないことでしょうか。僕、はじめて会社の株主総会に出たときに「態度が横柄だ」と指摘されたことがあったんです。

官僚は「お客さま」も「株主の方」も意識しないじゃないですか。だから自分は対等に接しているつもりでも、ビジネスの世界では上から目線に見られてしまうことが多々あります。

自分の感覚よりずっと謙虚に、姿勢や態度で示す。そうすると会社のお客さまや株主の方などとも目線が会うのではないかと思います。

:確かに今、事業会社の感覚に慣れた身で官僚の方と接すると、「なんかエラそうだな」と感じてしまうことがありますね(笑)。

対面で会ったときの態度はすごく大事なんです。意外と人は、ちょっとしたことまで覚えているものですから。それに世の中は自分が思っているより狭いし、意外なところで思わぬ人とつながることもあります。一つひとつの出会いは大切にしてほしいですね。

また、リボルビングドアも含めた官民の間の移動は今後さらに活発になっていくと思うので、チャンスがあれば、積極的に動いてみることをおススメしたいです。

藤井:「チャンスがあれば動く」。現職の官僚のみなさんには、ぜひそんな意識をもってみてほしいと思います。みなさん、本日はありがとうございました!

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撮影:丹野雄二/編集:大島悠(ほとりび)

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