キャタピラージャパン 塚本恵さん:専門性より好奇心。外資系企業で培ったキャリア

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国内でも、グローバル企業や一部のスタートアップで、パブリックアフェアーズへの注目度が高まっています。しかし若手にとっては、業界全体がまだまだ狭き門であると言わざるを得ない現状もあります。

そこで今回は、外資系企業の中のパブリックアフェアーズ・プロフェッショナルにフォーカスしてみることにしました。

お話をうかがったのは、塚本恵さん。塚本さんは、IT企業であるIBMと、製造業であるキャタピラー、業種の異なる米企業2社に加え、日米さまざまな業界団体でのご経験をお持ちです。

外資系企業の中で、渉外やパブリックアフェアーズを担う人たちはどのように活動しているのか、詳しくうかがいました。

 

塚本恵さんプロフィール
キャタピラージャパン合同会社 代表執行役員/渉外・広報室長。日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)で政策渉外を17年担当した後、2017年より現職。在日米国商工会御所、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)や文部科学省科学技術・学術審議会人材委員会等でも積極的に活動している。

業種によって異なるパブリックアフェアーズへの姿勢

――塚本さんはIBMとキャタピラーにて、長年にわたり政策渉外、パブリックアフェアーズのお仕事をされていますが、それぞれの企業がどんな体制で、どのような活動をしていたのか教えていただけますか?

塚本恵さん(以下、塚本):IBMもキャタピラーもアメリカに本社があるので、前提として、渉外部門の持ち方には共通点があります。

米企業の多くはワシントンに政策渉外部門を配置しており、それぞれのイシュー(issue=課題)に対して、オブジェクティブ(objective=短期~中期的な目標)とゴール(goal=長期的な目標)が定められています。

その手法に関しては各国の担当者に任せられているため、私たちは文化や商習慣などの違いに柔軟に対応しながら活動することになります。

活動によってスコアが決まり、それをもとにした業績評価によって給与・昇進に反映される仕組みですね。

――シンプルな仕組みであることは共通しているのですね。パブリックアフェアーズの実務に関しても、似たところがあったのでしょうか。

塚本:いえ、そこは双方かなり違いますね。

IBM時代の渉外活動はポリシーの策定などが中心で、私はデジタル系、労働市場系、知的財産系のイシュー等に携わりました。各イシューのエキスパートがワシントンにいて、グローバルで整合性が必要であれば一緒にポジションペーパー(政策提言等)を作り、さらに展開が必要な国々で、それぞれの国に応じた方法で展開していく形です。

例えば、TPPの電子商取引チャープターの文言等については、貿易のイシューの専門家と、TPP関連の国でタスクを作って取り組んでいました。

一方でキャタピラーのイシューは、IBMと意識が異なる印象を受けています。

IBMが身を置くIT業界はスピード感が速く、一つのルールが適用されるとそれがあっという間に世界中に適応されるので、速度を合わせることがすごく重要になります。そのため、何ごとも迅速に仕事を進めることを重視していました。

しかしキャタピラーで優先されることは「速さ」ではないんですよね。

キャタピラーは世界に100ほどの工場を持っており、日本でも兵庫県明石市に油圧ショベルの開発センターとマザープラントを持ち、多くの製品を輸出している会社です。

例えば、34トン以上の製品を海外輸出する際、当然ながら搬送のために工場から港まで接岸しなければいけません。その際の重量によって、老朽化が進んでいる道路や橋のための対策については、県や警察の許可を取るなどさまざまな調整が必要になります。

つまりキャタピラーの渉外活動やパブリックアフェアーズで優先されるイシューは、中央省庁のみならず、地域とのリレーションや社会貢献、それに伴う広報活動すべてです。

イシューが変われば向き合うステークホルダーもそれぞれに変わり、当然のことながら選択する手法も変わってきます。

――組織の在り方について、何か違いはありましたか?

塚本:そうですね。IBMは「メジャラブル(measurable=測定可能)」、「チャレンジング(challenging=挑戦的)」、「アクショナブル(actionable=実行可能)」という3つのポイントを重視し、オブジェクティブやゴールを定めていました。

長期戦のイシューに対しても、マイルストーンオブジェクティブとして、1年ごとに見える形で成果を出す必要があり、目標に対するアクションプランも30日、60日、90日と短いスパンで立てていました。

一方キャタピラーでは、「チームワーク」、「コンセンサス(consensus=総意)」、「インクルーシブ(inclusive=包括)」をとても大切にしているように思います。

例えば、社内の会議で発言しなかった人がいたとします。普通のアメリカ企業であれば、コメントがなければ意見がないとみなしますが、キャタピラーの場合、ファシリテーターは「あなたはどう思いましたか?」と質問し、意見がないことまでも確認します。

どちらが良いかという良し悪しの話ではなく、組織として何を重要視するかの違いですね。

渉外やパブリックアフェアーズに対する取り組み方の差異も、国の違いよりも業種の違いに顕著にあらわれるのではないかというのが実感です。

――重視される内容が、業種によってまったく違うのですね。

塚本:IT業界はいろいろなスタートアップが生まれ、それらがあっという間にライバルになるような業界なので、圧倒的なスピード感が求められます。

一方、製造業は、何かはじめようとするとき、まず何百〜何千億円の投資が必要になります。そんな世界なので、ライバルが一両日中に大きく変わることはありません。ですから、ある意味、じっくり議論して物事を決められるんです。

IT業界のスピード感に慣れていた私は、キャタピラーに移った当初は周りからすごく急いでいるように見られていたようです。「何をそんなに急いでいるの?」「ネジを回す前に考えなければいけないことがたくさんあるんだ」と言われることもありました。

 

――「日本企業と外資系企業の違い」以上に「業種による違い」が大きいのですね。

塚本:あくまで私の経験上ですが、そう思います。ただし、日本の大手企業では「政府が決めたルールを守る」と考えているところが多いのに対し、アメリカでは企業ロビイストは政府とパートナーとして、議論を交わす土壌があるなど、そもそものカルチャーの差は当然ながらあります。

しかし日本を代表するグローバル企業の一部では、パブリックアフェアーズに対する意識が、かなり高まってきているのではないかと思います。

業界団体で、渉外担当の「ふるまい方」を身につけた

――次に、渉外・パブリックアフェアーズの役割を担うにあたり、必要なネットワークについてうかがいたいです。塚本さんご自身は米国商工会議所や経済同友会など、複数の業界団体に所属されていますが、どのように業務に活かしているのか、教えていただけますか?

塚本:日本経済団体連合会(経団連)や経済同友会、その他の業界団体は、企業が定めたイシューを解決する一つのエレメント(要素)であり、主にネットワークとして活用しています。

団体にはそれぞれカラーがあるので、例えば経団連や日本の業界団体では受け入れられないと想定される意見を米国商工会議所のパブリックコメントに反映させることなどもあります。

一つのイシューがあったとき、どういう団体が賛成もしくは反対なのか、大学やメディアからの世論形成は必要かなど、まずはニュートラルにアプローチの方法を考えてみるんです。

団体経由の場合は、イシューの内容や状況に応じて、どの団体とどのように組むのがいいのかなどを判断しています。

――業界団体に所属することで、塚本さん個人が身に付けたスキルや役に立ったことなどはありますか?

塚本:業界団体は、ネットワーキングの場としては言うまでもありませんが、コミュニケーションのポイントやそのタイミングの重要性を学ぶ場所として、非常に有効なんです。

例えば、各団体で開催される審議会などに参加して周囲を観察し、誰が何をどのタイミングで言っているのかを聞いていると、話がうまくて刺さる人とそうでない人がいることに気づきます。

話がうまい人は、参加者の人数を見て、自分に何回くらい話す機会があるかを見極め、印象に残る場面とタイミングでキャッチーなコメントをするんです。

するとその発言が、すぐにメディアやSNSで取り上げられたりする。発言の内容もさることながら、タイミングもとても重要なんですよね。

 

――なるほど。ネットワークを活用する以外にも、影響力を最大化するポイントを身につける場として、周囲の方からさまざまな学びを得ていたのですね。

塚本:そうですね。自分のミッションを果たすために、何に気を配ってコミュニケーションを取ればいいのか、どのようなタイミングで発言することがベストなのか。それは場数を踏まないと身につきませんから。

私自身は団体に所属する先輩たちの発言やふるまいを観察することで、パブリックアフェアーズ担当としての行動の仕方、効果的なアプローチ方法などを学んできました。

次々と発生するイシューに好奇心を持てるか

――長くパブリックアフェアーズの仕事をしてきた中で、塚本さんご自身は、この領域で活躍するために必要なスキルや資質についてどうお考えですか?

塚本:リーダーポジションであれば、イシューを解決するためのストーリーを作る力。若手であれば、まずは好奇心旺盛で人と会うのが好きなこと。企業のイシューは次から次へと発生しますから、それに対して好奇心を持てるかどうかは最大のポイントになるかと思います。

専門知識の有無については、実際に企業に入ったあとに、組織の中にいる人から吸収すればいいので、それほど重要視しなくて大丈夫かなと。

――塚本さんご自身も、はじめはシステムエンジニアとしてIBMに入社され、そこからキャリアチェンジされているんですよね。

塚本:そうです。私の場合は結婚・出産後に経済同友会に出向したことがきっかけで、こうした領域の仕事があることを知りました。だから最初は、専門知識なんて何もなかったですよ(笑)

 

――とはいえ、なかなか若手にはハードルが高い領域でもあるように思います。

塚本:確かに、政府の主要人物や官僚とのネットワークなどを求められる場面で、いきなり若手が入り込んでいくのは難しいこともあるかもしれません。

でもそれはそれで、キャリアもネットワークもある官僚OB・OGのシニア人材にお願いして部分的に動いてもらうなど、別の方法があるのではないかなと思います。

でも例えば、シェアリングエコノミーであるとか、デジタルネイティブ世代のSNSを使ったコミュニケーションであるとか、そういった若者世代の感覚を、私たちのような世代の人間が理解することはなかなか難しい。

だからそこはうまく役割分担をして、それぞれの強みを活かした活動ができたらいいですよね。若い人には、新しい発想で若いからこそできることに取り組んでもらいたいです。

企業側も、若い人にポジションと機会をどんどん提供すれば、必ず成長してそれに見合った役割を果たしてくれるのではないでしょうか。若手に経験がないのは当然のことで、企業側がその機会をつくっていく必要があると思います。

 

――確かに、機会をいかにつくるか、企業側の課題もありますね。その一方で、若手の方にキャリアについてアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか?

塚本:まずは「自分には何ができるのか」を客観的に考え、それを更新し続けてほしいですね。

私はIBM時代の上司から、自分の経歴をまとめたレジュメの英語版と日本語版を作り、それを毎年書き直すようにと言われていたんですよね。

そうすることで、今の自分には何ができるのか、そして何が足りないのか。これまで積み重ねてきたスキルと実績が如実にわかるから、と。

さらに「外からの(転職の)引き合いがあったら、まず会ってみなさい」とも言われていました。

自分のできることを棚卸しして冷静に見つめたうえで、「より高いところ」もしくは「違うこと」に挑戦できるのであれば、その場所でキャリアを積んでいけばいい。

今いる場所にい続けるにしても、場所を変えるにしても、それが一つの基準になると思います。

 

――ありがとうございます。最後に、これからパブリックアフェアーズ業界を目指す人にメッセージをお願いできますか。

塚本:パブリックアフェアーズは社会課題と、会社が定めたイシューを重ねて解決するポジションです。社会課題があって、自分がやりたいことがあって、会社が成し遂げたいことがある。この3つがうまくかみ合うところを見つけられたら、きっと仕事も面白くなっていくはずです。

またパブリックアフェアーズの仕事を志すなら、外資系企業、いいと思いますよ。メソドロジーも学べますし、ゴールが明確で、年功序列でもありません。

少しでも自分が興味を持てる領域と重なるなら、そうした企業に飛び込んで、経験を積んでみることをおすすめします。

 

(写真提供:キャタピラージャパン)

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構成:水本このむ/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)

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