日本政府は、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロを目指す「カーボンニュートラル宣言」をしました。そして2024年は、2050年への道行きを示す節目の年となりました。
再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電源の割合や、国全体の排出削減目標を定めるエネルギー基本計画および、地球温暖化対策計画の3年毎の見直しが行われるとともに、エネルギーや産業構造等の中長期的な在り方を示す国家戦略「GX2040ビジョン」がとりまとめられました。
第3回 マカイラ公共政策研究会では、日本のGX推進におけるキーパーソンをお招きし、多様な切り口から脱炭素と経済成長のあるべき方向について議論いただきました。

後半では、会場にお越しいただいた参加者のみなさまも交えて、GXというスコープを通して2050年の日本社会がどうあるべきか、行政・企業・消費者・投資家それぞれの立場においてどのような行動が求められるのか、ディスカッションを行いました。
本レポートでは、前半に行われたパネルディスカッションの模様を一部、ダイジェストでお伝えします。

日本が国際競争力を高めていくために必要なこと
清水:2020年に当時の菅義偉首相が「カーボンニュートラル宣言」をしましたが、当初、政府内ではどのように受け止められていたのでしょうか?

モデレーターは、マカイラ株式会社の清水悟が務めました
廣田:2020年の宣言は、経済産業省内にも大きなインパクトをもたらしました。省内でも「推進するべき」と考える人と「不可能だ」という人の両論があって、喧々諤々と議論していた記憶があります。
清水:日本が今後、国際競争力を高めていくうえで、新たなエネルギー源としての水素・アンモニアをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
廣田:まず重要なのは、「0か100か」で考えないことだと思っています。世界各国でさまざまな法制度がある中で、マーケットもモザイク状になっており、導入が早いところと遅いところが出てきていますし、地理的な特性による差異もあります。
水素・アンモニアの分野は、直近2-3年でラボから実際の事業が生まれ、今まさにそのプロジェクトサイズの桁が一気に変わっている、その真っ只中にあると思います。世界中が最初のチェーンをどのようにつないで展開していくかを模索し、実験段階からビジネス段階に移行していますので、日本としてはここに入り込んでいくことが大事なポイントになるでしょう。

2005年東京大学大学院にて核融合研究で電気工学修士を修了後、経済産業省入省。エネルギーを取り巻く国内外の環境が激変する中、原子力政策、気候変動交渉、石油天然ガスの資源外交など、エネルギー・環境政策を中心に従事。米国留学を経て、新型コロナ感染症下の経済対策では予算編成・税制改正など担当。GX政策の立ち上げなど経て、2024年7月より現職。
バリューチェーン全体を含めた取り組みが不可欠
清水:企業間連携を加速させることも含め、どのような支援の仕組みを構築する必要があるとお考えですか?
重竹:GXを考えるうえで、各地域やバリューチェーン全体での取り組みが重要な要素の一つとなります。できる限りコストを上げずに、どのような形でGXを実現していくのか、そのためにどのような技術が必要とされているのか、それらを一体となって検討していく必要があると考えます。何かしらの仕組みが必要というよりも、すでにそうした動きが企業に対して要請されている状況です。

1982年に三井物産株式会社へ入社。1992年、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。同年ボストンコンサルティンググループに入社し、2024年6月までマネージング・ディレクター&シニア・パートナーを務める。2024年、GX推進機構 COO(専務理事) に就任。
友末:複数の企業が連携したコンソーシアムでは、誰がどうまとめて主導していくかという問題がどうしても発生しがちですよね。これまでは主に商社がそうしたプロジェクトの推進役を担っていたと思いますが、それ以外に、コンソーシアムのハブとなって存在感を発揮している事例を目にすることはありますか?

ボストン・コンサルティング・グループにて新規事業開発を中心に様々な業界に対する経営戦略立案・実行支援を担当。その後、ロシュ・ダイアグノスティックスにて新規事業開発を担当。Roche Molecular Systems, Inc.に異動しプロダクトマネジャーとして新製品の開発・導入に従事。バイエル薬品に移り新規抗がん剤のマーケティング責任者として新発売をリード。その後、バイオベンチャーとロボットベンチャーにて取締役として事業開発等を担当。ヘルスケアコンサルティングを経て2023年マカイラ株式会社に参画。
重竹:一つは自治体ですね。自治体がきちんとハブの役割を担うことが重要で、そうした取り組みを強化している自治体も出てきています。ただどうしても経済合理性の課題が出てきますので、そこでは別にイニシアチブを取る人が必要となるケースもあります。
そうした連携の動きを、地方自治体ではなく国が支援する、もしくは私たちのような機関が入っていくなど、さまざまな形で企業連携をサポートすることができればいいと、私個人としては考えています。

高校生から実務担当者まで、参加者のみなさまとディスカッションを実施
後半では、ご来場のみなさまと一緒に議論を行いました。実務でGXに携わる当事者の方々はもちろんのこと、なんと現役の高校生からも積極的に質問が投げかけられ、非常に有意義な時間となりました。
みなさまと話し合った議題は以下の通りです。
- カーボンニュートラル実現に向けた企業・個人の行動
- 日本のエネルギー安全保障・経済安全保障政策
- 消費・調達・投資の変容とGX
登壇者からの回答およびみなさまとのディスカッションは会場限定で実施した関係で、ここではいただいた質問のみを一部、ご紹介いたします。
<みなさまからの質問>
- 地域の若者の声を、どのように取り入れていくことができるか?
- 消費者の行動変容をどのように促すか?
- 地方創生との関係性、地域でのGX推進における具体的な取り組み方は?
- トランプ政権下でのGX政策への影響は?
- エネルギー安全保障とGXの関係性は?
- GX市場創造のために必要な政策は?
- 富裕層・企業向けGX施策の展開方法は?
イベントの最後では、ご来場のみなさまがGXを自分事としてとらえ、明日からの行動に繋げていくための「My GX Action」宣言を記入頂きました。

GXをめぐるさまざまな課題について、みなさまはどのように考えるでしょうか。引き続き「私たちに求められる行動」とは何か、私たちも共に模索していきたいと思います。

