【インターン×社員座談会】パブリックアフェアーズ業界でどんなキャリアを築く? – 後編

キャリア

「パブリックアフェアーズとは何か?」——そんな問いからはじまった、学生・若手3人と、それぞれ異なるバックグランドをもった先輩社員3人の座談会。

前編では先輩メンバー3人を中心に、それぞれの視点からパブリックアフェアーズについて語り合いました。

<前編>
【インターン×社員座談会】そもそも「パブリックアフェアーズ」とは? – 前編

後編では、若手メンバーたちからの質問に、先輩たちが答えていきます。パブリックアフェアーズの仕事を通して、社会と企業の架け橋を目指し続ける理由とは。それぞれの根底にある想いにふれ、今後のキャリアの可能性を紐解きます。

 

●協力いただいた企業
APCO Worldwide合同会社
Washington, D.C.に本社をおく、パブリックアフェアーズとコミュニケーションのコンサルティングファーム。世界30か所以上の事業所で、約800人の従業員が働いている。

 

ファーストキャリアでパブリックアフェアーズ業界はアリか?

城譲(以下、城):さて、ここからは若手のみなさんからの質問を中心に座談会を展開していきたいのですが、聞いてみたいことってありますか?

ウコンマーンアホ海(以下、海):キャリアについて質問です。みなさんのお話をうかがっていると、官僚であったり、記者であったり、これまでのキャリアが活きているように感じます。

もしも学生がパブリックアフェアーズに関わりたいと思ったら、一度別のキャリアを歩んでからのほうが良いのでしょうか。

ウコンマーンアホ海(うこんまーんあほ・かい)
サリー大学(英)4年生/APCO Worldwide社 インターン

 

:個人的には、どちらでも良いと思います。最初からパブリックアフェアーズの仕事を経験して得られることは確実にありますし、他の業界を経ていろいろな立場を知ることが後から活きるケースも、もちろんあります。

城 譲(たち・ゆずる)
マカイラ株式会社 執行役員

 

:僕は、専門性を先に身につけるべきと思います。ファーストキャリアでパブリックアフェアーズの仕事を選択するのは、個人的にはあまりおすすめしないですね。まずは特定分野のスペシャリストになるべく、“登る山”を決める。

パブリックアフェアーズの役割は、さまざまなスペシャリストの“仲介者”になることなので、パブリックアフェアーズ自体が最初に持つべき専門性にはならないと思うんです。仲介者に必要なコミュニケーションスキルなどは、後からでも養えますから。

それに国内企業の現状を考えると、まだパブリックアフェアーズに関わる専門職を受け入れる体制、文化が整っていないことが多いと思います。

そうした状況も踏まえると、まずは専門性を磨いて、市場や業界の状況を見極めたうえでチャンスをつかみにいくほうが、成功する可能性が高いかもしれないですね。

島 契嗣(しま・けいし)
マカイラ株式会社 コンサルタント

 

永井:これまで大勢のインターン生を迎え入れて、卒業を見送った身としていえるのは、目の前の仕事にしっかりと取り組んでさえいれば、どんな会社でも、必ず成長はできるということ。

パブリックアフェアーズ領域の仕事をしていくうえで、人脈や知識の引き出しは多いに越したことがありません。だから、やりたいことに素直になって、あらゆる分野を経験してみたら良いのでは、と思いますね。すべては自分次第です。

永井 昌代(ながい・まさよ)
APCO Worldwide合同会社 マネージング・ディレクター

 

:とはいえそもそも、「30代でパブリックアフェアーズに関わるから、20代はとりあえず別の業界へ」と考えるなら、その人はおそらく大成しないんじゃないかな。

パブリックアフェアーズ業界に移ることを見据えて仕事をするよりも、その時に本気になれることを選んで、キャリアを選択してほしい。僕自身も、その都度“今”を一生懸命に生きた結果、今この業界に携わっているだけの話なので。

 

社会を動かす過程で“マイルストーン”をどう置くのか?

飯田萌花(以下、飯田):世の中の変化のマイルストーンは、どのように見ていますか? 規制の変革や改革は、どんなに短くても2〜3年ほどの時間を必要としますよね。そんなとき、どのように成果を追っているのか、みなさんに聞いてみたいです。

飯田 萌花(いいだ・もえか)
APCO Worldwide社 プロジェクト・アシスタント

 

:難しい質問ですね。何を成果として、それをどう追いかけるのか。なかなか数字や成果では見えない部分が多くて。そのため、僕は個人的に、自分が納得できる仕事ができているかどうかを指標のひとつにしています。

ステークホルダーとのやりとりの中で、自分の考えや思いがきちんと理解されたか、という視点で目標設定をすることもあります。

永井:パブリックアフェアーズの場合、良くても成果がゼロサムであることもありますよね。自分の動きがプラスに傾けばもちろんうれしさはありますが、例えば公衆衛生関連の仕事などは、マイナスをどれだけゼロに近づけられるか、が命題だったりしますし。

もちろん、だからと言って「じゃあやらなくていいや」とはならないんですけれど。

:結果はおろか、その過程ですら明確に見えることではないですからね。だから、年単位の時間がかかってもいいんだと信じながら進むことが重要なのかなと。

:目には見えないと言いながらも、小さなインパクトはいつでもあるんです。そんな“ヒット”を積み重ねることで、いずれホームランを放つことができる。だから、コツコツ続けることと諦めないことをデフォルトのスタンスにすると良いと思います。

プロフェッショナルの仕事は、ホームランを放つことではなく、適切なヒットを打ち続けることですから。

永井:そのために、クライアントと、日々同じゴールを目指せるように共有する時間も必要ですよね。ゴールに向かって進む努力をしていたら、クライアントもその過程は見てくれる。

もちろん、評価は過程でなく結果に付くものですが、クライアントと一緒に歩みを進めることで得られる理解はあるはずです。それに、二人三脚で歩むと、クライアントが喜んでくれたときの喜びもひとしお身に染みます。

どのように社会の声を集め、コミュニケーションを設計している?

奈須野文槻(以下、奈須野):パブリックアフェアーズに携わっていく中で、一つの課題に対する専門的な意見や社会の声などをどのように拾い、変化をうながすための道筋を描いたら良いのでしょうか。

奈須野 文槻(なすの・ふづき)
東京大学4年生/マカイラ社 インターン

 

永井:パブリックアフェアーズの業務の一つに「ソーシャルリスニング」があります。TwitterやFacebookなどのSNSをソースに、世の中の声を拾う調査業務です。

時代の変化に伴って、SNSで発信されることが「世論の声」として認識できるようになりました。そこで流れを掴むのも方法の一つですよね。

:意見をどう集めるのか、そして、どう届けるのかを意識することも重要ですね。永井さんがおっしゃる通り、SNSはたくさんの情報が集まる場所です。

ただ注意したいのは、それがすべてのソースにはなり得ないということ。だから「どう届けるか」を考える際は、誰に伝えるかによってコミュニケーションの仕方を設計し直す必要があります。

:実際に社会が変わるには、タイミングも重要なんですよね。社会の流れを見極める、というか。

例えば、飲酒運転に関する法律が厳罰化されるケース。子どもが飲酒運転の犠牲になってしまう……といった象徴的な事件が起きると、世の中も一緒に泣いて世論が形成され、法律も変わりやすくなるんです。

すべてゼロから事を動かそうとするのではなく、さまざまな出来事にアンテナをはり、社会全体の潮流を捉えながら動くことも重要だと思います。

 

それぞれが描く、これからのキャリアや夢

:さて、これまでさまざまなテーマで座談会を進めてきましたが、最後に改めて、みなさんへ質問です。

パブリックアフェアーズに関わる人として、今後のキャリアをどう描いていますか?

:僕はもともと、「日本と海外をつなぎたい」という思いがあり、ご縁があってパブリックアフェアーズに携わるようになりました。今後のことはまだ固まっていませんが、さまざまな社会問題の解決に取り組みたいと思っています。社会に対して、何かしら貢献できたらと。

飯田:「社会のため」と思いながらも、私自身は今、まだクライアントのためにしか仕事ができていないと感じています。

だから今後は、幅広いアプローチを身につけて、社会貢献できる人間になりたいですね。いずれは、学者を目指すのも良いかもしれないな、と自分の将来を考えています。

奈須野:僕は、大学を卒業したら大学院に進もうと思っています。パブリックアフェアーズに関わったことで、公衆衛生やヘルスケアなどの領域への興味が強くなりました。

まずは、そうした領域のことを大学院で一層深く学びたいなと。いずれはシンクタンクなどで働くことを見据えています。

:ありがとうございます。若手のみなさんは、まだパブリックアフェアーズの入り口に立ったばかり。これからさまざまなキャリアの可能性がありますよね。ベテラン社員のみなさんはどうでしょう?

:僕は、政治に関しての興味が強いです。国内の政治と、あとは海外も。

例えばシンガポールやインドネシアは現在、モビリティの領域が伸びている地域です。イスラエルなんかもスタートアップが多い。いずれはそういった場所で、“媒介者”として関わってみたい気持ちがありますね。

永井:私は女性の立場で、パブリックアフェアーズ業界のロールモデルになれたらと考えています。

少し前に世界中で「MeToo運動」が盛り上がったのは記憶に新しいところですが、女性が声を上げられず、社会的にフタをされてきた課題が多く残っています。

今後は一人の女性として、同世代とコラボレーションしながら、国内外に向けて声を挙げていきたいなと思っています。

:みんなそれぞれ、抱いている思いがあるんですね。私自身も、日本人がもっとルール形成に関われる環境を作っていきたいと考えています。

この活動を「パブリックアフェアーズ」と呼ぶかどうかは置いておいたとしても、多くの人々が社会と自然と関わっているような仕組みがつくれたら幸せかなと。そのための“媒介者”として、今後もがんばっていきたいですね。

みなさん、本日はありがとうございました。

 

 

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(*この座談会は2019年8月に行われました)

 

●座談会参加者 プロフィール

永井 昌代(ながい・まさよ)
APCO Worldwide合同会社 マネージング・ディレクター
衆議院の議員秘書としての経験を経て、米国コロンビア大学国際公共政策大学院に入学。卒後、世界銀行、経済産業省、内閣府政府広報室、理化学研究所、静岡県などといった、国際機関、中央官庁、国内外の地方自治体の広報戦略立案や実務経験を持つ。15年以上のパブリックアフェアーズ、PR業界での経験から、パブリックアフェアーズ、アドボカシー、コーポレートコミュニケーションを専門としている。
飯田 萌花(いいだ・もえか)
APCO Worldwide社 プロジェクト・アシスタント
2018年、上智大学 国際教養学部卒。日本のメディア構造や機能の仕方について興味をもち、学生時代にAPCO Worldwide社でインターンとして働き、ガバメントリレーションズとメディアリレーションズの面白さに目覚める。卒業後、同社に新卒入社。
ウコンマーンアホ海(うこんまーんあほ・かい)
サリー大学(英)4年生/APCO Worldwide社 インターン
大学では経済学を勉強しているが、知り合いからAPCOを紹介され、インターンとして働いたことをきっかけにパブリックアフェアーズ業界にも興味を持つようになった。
城 譲(たち・ゆずる)
マカイラ株式会社 執行役員
公共セクター(国土交通省、内閣府、国際連合UN-HABITAT)での12年の勤務と国内IT企業(楽天、メルカリ)での8年の勤務経験を持つ。国土交通省では地域振興や航空政策等、内閣府では防災政策、また、国連では各国で深刻化する都市問題に対応するための調査分析を担当。楽天では法務課長、メルカリでは法務・政策企画マネージャーとして、IT分野における各種法律を運用。官民の両セクターの経験から、両者の協働による発展的な政策立案の必要性を実感し、その推進のためマカイラ株式会社に参画。
島 契嗣(しま・けいし)
マカイラ株式会社 コンサルタント
読売新聞大阪本社を経て、NHK入局。報道局社会部で警視庁、警察庁担当の記者として活動。警察庁による古物営業法改正に係るメルカリへの取材をきっかけにパブリックアフェアーズの仕事に興味をもち、2019年にマカイラへ。現在はデジタル市場や次世代メディア、スタートアップ企業の案件に従事。
奈須野 文槻(なすの・ふづき)
東京大学4年生/マカイラ社 インターン
科学技術行政に関心があり、関連する研究機関でのインターンや、NPOの立ち上げ・運営経験をもつ。産学官の連携や多様なステークホルダー同士のコミュニケーションのあり方に関心をもつ中で、パブリックアフェアーズを知る。

 

 

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構成:鈴木しの/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)

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