「CSRの次はCPR!?」―企業の“政治的”責任について考える【イベントレポート】

イベント

次の10年、企業とのコミュニケーションはどのようになっていくのだろう?――マカイラ株式会社は2024年1月17日(水)に、「CSRの次はCPR!?」と題した、社会変革のためのロビイングのあり方を語るトークイベントを開催しました。

ゲストスピーカーに、ソーシャルグッドなロビイングを支援している欧州の非営利団体「The Good Lobby」代表 アルベルト・アルマノ氏と、多摩大学ルール形成戦略研究所の福田峰之氏を迎え、講演及びパネルディスカッションを行いました。本レポートでは、その模様を一部お届けいたします。

 


▼ゲストスピーカー
アルベルト・アルマノ氏
非営利団体The Good Lobby代表/HECパリ教授/東京大学客員教授

福田峰之氏
多摩大学ルール形成戦略研究所/九州大学客員教授

▼モデレーター
藤井宏一郎
マカイラ株式会社 代表取締役CEO

▲写真左から福田峰之氏、アルベルト・アルマノ氏、藤井宏一郎

アーカイブ動画は下記から閲覧できます。

CSRの次はCPR!? 透明で責任あるロビー活動のあるべき姿とは?

「企業の“政治的”責任」について考える

イベント冒頭で、マカイラ代表の藤井より、本イベントの趣旨について共有がありました。

藤井:今回はイベントタイトルに「CSRの次はCPR!?」と書いてありますが、よくありがちなバズワードを作りたいわけではありません。なぜ私たちがCPR(Corporate Political Responsibility=企業の“政治的”責任)に関心があるのか、まずお話したいと思います。

私たちは長年、パブリックアフェアーズに取り組んできました。この10年で業界そのものがずいぶんと大きくなり、特にスタートアップでは「イノベーションのために法律を変える」という視点がかなり一般的になりつつあると思います。

しかしそうした中で、一部の企業が「ロビイングをやりすぎているのではないか」という声が挙がるようにもなっています。業界としてこのままでいいのか、私たちも改めて在り方を考えていかなければならない――そう思うようになりました。

今回、ゲストとしてお招きしているアルマノ氏は、企業のPolitical Footprint(政治活動の規模や内容)を可視化し、CPRを高めることを目的とした「The Good Lobby Tracker」をリリースしています。まずはその紹介をいただきながら、より透明で責任感のあるロビイングはどうあるべきか、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

 

これからの企業が取り組むべき「Political Footprint」とは

イベント前半、まずはアルベルト・アルマノ氏より「The Good Lobby Tracker」についてお話いただきました。

アルマノ:「The Good Lobby Tracker」では、企業のロビイングがサステナブルになることによって、権力に対するアクセスを平等化していくことを目指して活動しています。

今、ヨーロッパではさまざまな「信頼」が壊れはじめています。政治に対する信頼、メディアに対する信頼、そして市民社会に対する信頼……。しかし企業活動に対する信頼はそこまで失われておらず、企業に対する新たな期待が生まれはじめています。

これまで、企業のパーパス(事業目的)は企業価値を最大化していくところにありました。しかし現在では、すべてのステークホルダー(利害関係者)に対して責任ある活動をしていくことに優先順位が移行しつつあります。こうした状況を受けて企業は今、これまでになく厳しい社会的な監視にさらされています。

例えば投資家は、企業の財務的な評価を行う前に、CSRなどを含む or サスティナビリティレポートなどを通じて非財務的活動に目を向けるようになっています。その企業に勤める従業員などもそうです。特にOECD上位の国では、そうした動きがだんだんと可視化されてきています。

消費者も、商品あるいはサービスを購入する際に、企業の説明責任に基づいて、購入する・しないの判断を行う、つまり非財務情報を重視することが増えています。企業側も、非財務的かつ社会的な活動により注力するようになっています。その一例が、カーボンフットプリント(Carbon Footprint)やソーシャルフットプリント(Social Footprint)などです。

そうした中で、まだ企業の中で取り組みが進んでいないものが「ポリティカルフットプリント(Political Footprint)」、つまり政治的な影響についてです。これからは企業として社会的な責任を果たすだけではなく、政治的な責任についても考えていく必要があります。

しかし、企業における政治的な責任についてのデータを開示する仕組みは、まだほとんど存在していません。そこで私たちは、「The Good Lobby Tracker」を作りました。

 

CPR(Corporate Political Responsibility=企業の“政治的”責任)のデータを評価・開示する仕組み

「The Good Lobby Tracker」は、4つに分類した質問を通してポイントを付加し、対象となる企業が政治的な責任を果たせているかどうかを評価する仕組みです。

<質問の一例>

  • ロビイストに対する教育を行っているか
  • 政治家との会合を行っているか
  • 業界団体に参画しているか
  • どのような研究活動を支援しているか
  • 政治に関する情報を積極的に開示しているか など

この評価を行うことで、企業の方々には自社の政治的な責任そのものや、ロビイングについてどれほどの影響力を保持しているかを自己査定していただきたいと思っています。

「The Good Lobby Tracker」で自社のスコアを可視化することにより、自分たちの活動は優れているのか、平均的なのか、それとも遅れているのかを客観的に判断できます。それと同時に、活動に関する改善点も明らかになるでしょう。

大企業では内部調整が大変で、情報開示が進まないケースもあるかと思います。そうした場合も、私たちの仕組みを活用すればデータを1か所に集めてスコアリングでき、企業としてのベースラインを可視化すると共に、改善活動につなげることが可能です。

 

ロビイングは規制すべき?

イベント後半では、福田峰之氏、アルベルト・アルマノ氏、マカイラ 藤井氏の3名がディスカッションを行いました。参加者のみなさまとも共有したテーマは、次の3点です。

  1. 「良いロビイング」の定義は?
  2. 「良いロビイング」のための規制のあり方は?
  3. 「良いロビイング」のための市場の仕組みとは?

藤井:まずは福田先生、ここまでのお話を受けてどんなご感想を持たれましたか?

福田:ロビイングの規制に関しては、実際にルールを作る人、変える人である個々の政治家や政党の足かせにならないようにするための議論も必要だと感じましたね。

藤井:私たちも、日本でロビイングを安易に画一的に規制するのはちょっとまだ早いのではないかと考えています。

現状のロビイングは、企業や団体がある局面において政治家や行政にどうアクセスし、つながる機会を持つかという、ネットワーキングの問題に着地することが多いと思います。そこを画一的に規制すると、政治行政と水面下で意見交換することへのブレーキがかかります。

そうなると、どうしても活動しにくくなってしまうのが小さなスタートアップやNPO団体になってしまうんですよね。大きな企業や既存の業界団体、職能団体などは、政治行政と意見交換をする公式・非公式のルートを豊富に持っており、それをすべて透明化したり規制したりすることはすごく難しい。

たとえば、政治家や行政官へ個人的・私的なルートを持っていることも多いし、政府の各種検討会や行政内部にも人を送り込める。特定利益の代表として国会議員を選出することもできる。そういうのを全部透明化したり規制したりできないので、政治行政とのアポイントメントや意見書の提出、といった「いわゆるロビー活動」だけを安易に規制すると、そういう手段しか持っていない社会変革を目指すチャレンジャーと、他の手段をさまざま豊富に持っている既存勢力のロビー力の格差をさらに広げることになりかねない。それでは逆効果ですから。

アルマノ:私は、ロビイングに対する規制が必要だと考えています。必ずしも透明性を担保するためだけのものではなく、すべての国民・市民が権力に対して平等にアクセスできるようにする意味での規制です。

福田:政治体制の違いにも影響されますね。例えばアメリカのように2党が交代する体制であれば良いですが、日本のようにずっと同じ政党が与党である国では、実現はなかなか厳しいと感じます。野党や与党の改革派に話を持っていくと、与党の主流派や守旧派ににらまれる。政権交代がなく、新興勢力に加担して政策を変えるのが難しい体制なので、完全透明化を要求すると、逆にロビイングがしにくくなります。

藤井:まさにそうですね。オープンになることで大企業や業界団体など、いわゆる既得権益側にも情報がすべて開示されることで、小さな企業や団体などの活動が制限されるケースは想定しないといけないですね。既存の体制とは違う視点を政策に持ち込みたいのに、政治家や行政と相談のアポイントを取るたびに、それを完全透明化すると、早くから各方面の対抗活動が起きたりしてゲリラ戦略が無効化され、話が進めにくくなる部分はやはりある。

 

CPRの可視化で想定される、未来の変化

藤井:今回お話いただいた「The Good Lobby Tracker」は、法律や規制ではなく、企業のステークホルダーである投資家や従業員、消費者などの力で企業の政治活動を適正化していくことを目指している活動です。

現実問題として、企業が政治的な適切性を担保していることを、関係者はどこまで意識するようになると思われますか?

福田:現状としては、政治家に投票する際に、その人の掲げている政策やこれまでの政治活動を理解している人はあまりいないでしょう。これは、私自身が政治活動をする中でも実感してきたことです。

アルマノ:今はまだ、それらが可視化されていないことも要因として挙げられるのではないでしょうか。例えば、この議員に話をもっていったところこの政策が実現された、あるいは何も変わらなかった、などの結果が、今はほとんどわかりません。

こうした活動の結果が可視化されることによって、日本でも政治に対する興味がより高まっていくのではないかと思います。

藤井:そうかもしれません。私たちとしても、そうした社会を実現したいと思っています。だからこそこうした議論や情報交換の場を設けて、みなさんと一緒に、具体的にどんな風に社会実装していけばよいかを考えていきたいですね。

 

「良いロビイング」を実現するには?

イベントの終盤では、会場の参加者からアルマノ氏に質問も寄せられ、さらに議論が盛り上がりました。

――日本では国会議員だけでなく行政が政策形成に深く関わっていますが、それについてどう考えていますか?また、Good Lobby Trackerは企業側に情報開示を求める仕組みですが、企業側だけが開示責任を負うのではなく、政治家側が誰と会った、献金を受けた、などの開示を行うべきだという考え方もあるのではないでしょうか?

アルマノ:ロビイング活動は必ずしも議員に向けてだけではなく、行政に向けても行われます。何か立法を行う際、その実現のためには、あらゆる視点からどのくらいコストがかかるのかを分析しければならない。そのためにいろいろな意見、情報が必要になる。これこそがロビイングの意義を出せる部分だと思います。

二点目はロビイングの情報開示責任についてですね。Good Lobby Trackerは企業・国民側に透明性を求める仕組みですが、ロビイングを受ける政治家側も同様に開示を行い、企業・国民側と政治家側の双方が努力していくことが必要になるでしょう。

――良いロビイング、悪いロビイングとは何でしょうか?

アルマノ:今行われている、権力者だけが影響力を持ち、力のない人たちが議論のテーブルにつくことすらできず、透明性が担保されていないのは良くないロビイングです。例えばとある政策を作るとき、政治家が特定の企業や業界のみと話をして、一般市民や消費者団体、NPO・NGOなどと話をする場を設けていないのはよろしくない。それでは権力のある人の意見のみが政策に盛り込まれることになります。

良いロビイングというのは、すべての皆さんに同じテーブルに着く機会を提供していくことだと思います。

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制作:PublicAffairsJP編集部

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