「Good Lobby(透明で責任あるロビー活動)の今:日本での課題と挑戦」【マカイラ公共政策研究会レポート】

イベント

日本における「Good Lobby(透明で責任あるロビー活動)」の実現には、どのような課題があるのでしょうか。今回のマカイラ公共政策研究会では、政治と企業の関係性、特にその「透明性」をテーマに取り上げました。

ゲストに迎えたのは、ロビー活動を「市民が政治参画をする民主化のためのツール」として捉え、活動をしているNGO団体「The Good Lobby」の代表、アルベルト・アルマノ(Alberto Alemanno)氏です。

The Good Lobbyは2023年、企業のpolitical footprint(政治活動の規模や内容)を可視化することでCPR(Corporate Political Responsibility=企業の”政治的”責任)を高めることを狙った「The Good Lobby Tracker」をリリースしました。

これを受け、マカイラ株式会社は2024年6月にThe Good Lobbyと業務連携を開始し、適切なパブリックアフェアーズに対する理解促進と、社会変革の手段としてロビー活動を行う上でのガバナンスの重要性を、広く訴える活動をしています。

マカイラでは2024年1月にも同氏をゲストに迎え、「CSRの次はCPR!?——企業の“政治的”責任について考える」をテーマにトークセッションを開催しました。

今回はアルマノ氏に加えて株式会社メルカリの吉川徳明氏もゲストに迎え、日本におけるGood Lobby(透明で責任あるロビー活動)の社会実装に向けた最新の議論や、日本での展開に向けた課題と挑戦についてディスカッションを行いました。

本レポートでは、イベントの模様を一部ダイジェストでご紹介します。

政治と企業をめぐる活動の「透明性」を考える4つの視点

はじめに、主催者代表としてマカイラの藤井宏一郎から、改めて本イベントの背景についての説明と、議題の提示がありました。

▲藤井宏一郎(マカイラ株式会社 代表取締役CEO)

 

藤井:2024年以降、日本では政治と企業の関係について改めて考える出来事が数多く起きました。2025年もこれから通常国会がはじまる中、みなさんの関心も高まっていると思います。

私たちとしてはひたすら、日本の経済を含めより良い社会を実現することを目指して活動していますが、だんだんとスタートアップやベンチャー企業のディールやロビイストの活動に注目が集まるようになり、良くも悪くも光が「当たってしまった」1年だったと感じています。

世界に目を向けてみると、政治とお金、もしくは政治と企業との関係を規制するために、OECDを中心とした大きな動きが生まれています。そうした中で、政治と企業の関係性において、どこまで透明性を確保することが良いのか、可能なのかを、本日はテーマにしたいと思います。

「透明性」に関する4つの視点

  1. 透明性に何を期待するのか?
  2. 透明性は柔軟で建設的な交渉を保証するのか?
  3. 透明性の適用除外を考える余地はあるか?
  4. ネゴシエーションプロセスはどこまで明らかにするべきか?

 

多くの人たちが等しくロビイング活動ができる社会の実現を目指す

続いて、ゲストスピーカーであるアルベルト・アルマノ氏(The Good Lobby 創設者)から、ご講演をいただきました。

▲アルベルト・アルマノ(Alberto Alemanno)氏
非営利団体The Good Lobby代表/HECパリ教授/東京大学客員教授イタリア出身。ハーバード大学ロースクールとカレッジ・オブ・ヨーロッパを卒業し、ボッコーニ大学で国際法と経済学の博士号を取得。2015年にボランティアベースの非営利団体としてThe Good Lobbyを設立し、ブリュッセル、ミラノ、パリ、マドリードにオフィスを構える社会的企業への転換を主導。アルベルトは組織のミッションを確実に推進するため、主に主要な戦略的プロジェクトに注力する。

 

アルマノ氏:私たちは長年、政策の立案と決定に関する研究をしてきました。ロビイングは正当な活動だと考えており、多くの人たちが等しくロビイング活動ができる社会の実現を目指しています。

産業革命以降、一般市民が大企業に対して向ける目線はどんどん厳しくなっています。とりわけ大企業に対する社内外の圧力は年々高まっているといえるでしょう。しかし未だに企業が対応できていない、可視化されていない領域が「政治的なフットプリント」です。これは、各企業がどのような政治活動をしているかに注目する概念です。

業界団体を通じたロビー活動や政治献金などは、これまでも行われてきました。しかしこうした活動はブラックボックス化しており、一般市民や消費者、投資家、従業員にも見えるようにするための仕組みがないことが問題視されるようになったのです。現在、OECD加盟国のおよそ4分の1にあたる15〜16の国では、企業によるロビー活動を規制しようという動きがでてきています。投資家やメディア、NPO団体の介入もはじまりつつあります。

しかし企業がどのような形で政治的な活動をしているのかを表すデータに関しては、まだまだ見過ごされています。企業側でも、自分たちが行っている活動をデータとして把握できていないことも往々にしてあります。

そこで私たちは、チェックリストタイプのアセスメントツールを開発しました。このツールを活用することで、自分たちの会社が行っているロビイング活動の状態がどのようになっているのか、スナップショットで理解できるようになります。

まずはこの自社診断をベースとして、活動の透明性をより高めるなど、具体的な改善の根拠として活用いただけるのではないかと考えています。

ディスカッションに向けて、先ほど提示された「4つの視点」にも触れておきましょう。

透明性に何を期待するのか?

透明性が担保されることによって、政策の妥当性や重要性が判断できるようになると考えます。

透明性は柔軟で建設的な交渉を保証するのか?

透明性を担保することは、あくまでも目的を達成するための手段でしかありません。そのため「透明性」そのものが絶対視されるべきものではないと考えます。 実際の折衝を行うためには、部分的に公開されない場も必要になるでしょう。

透明性の適用除外を考える余地はあるか?

ロビイストの方だけに責任を課すのではなくて、ロビーをされる側、すなわち政策の意思決定者の方に対しても責務を負ってもらう必要があると思います。

ネゴシエーションプロセスはどこまで明らかにするべきか?

ロビイング規制というものは、必ずしも透明性を担保するだけのものではないと考えます。誰が誰に対して交渉を行っているのか、というところだけを明らかにすれば済むケースもあるでしょう。またより多くの人たちが参画できる仕組みを作ることも重要です。

透明性が確保されたとき、ロビイストの活動はどう変化する?

イベント後半ではさらに、メルカリの執行役員を務める吉川徳明氏をゲストに迎え、アルマノ氏、藤井の3者によるパネルディスカッションを行いました。

モデレーターは、マカイラ株式会社 執行役員  友末 優子が務めました

吉川:やはり透明性がないところで決まったものは、それがたとえ正しい決定であっても、広く国民に受け入れられないのだろうと思います。それを避けるためにも、透明性は重要ですよね。

ただ、現在の環境下においてパフォーマンスを発揮しているロビイストたちは、ある意味、情報の透明性が限定的な環境を所与として、戦略的に動いて成果を出している面もあります。こうした戦略的なアクターの存在を想定した場合、透明性が確保されるような措置が導入されたとしても、当初望んだ効果を発揮するかは分からないといえます。戦略的に動くアクターは、新たな透明性確保のルールを前提に、形式上はアプローチ方法を変えて対応するだけで終わってしまうリスクがあります。

つまるところ「The Good Lobby Tracker」のような仕組みを企業が導入したとしても、ロビイストたちが戦略的にそれを迂回する動きと常に綱引きになる可能性もあるのではないか、と。

▲吉川徳明氏(株式会社メルカリ 執行役員VP of Public Policy 兼 Public Relations)
経済産業省でIT政策、日本銀行で株式市場の調査・分析、内閣官房でTPP交渉等に従事。2014年、ヤフー株式会社に入社し、政策企画部門で、国会議員、省庁、NGO等との折衝や業界横断の自主規制の策定に従事。2018年、メルカリに入社し政策企画マネージャーとして、eコマース分野やフィンテック分野を中心に、政策提言、自主規制の策定、ステークホルダーとの対話等に従事。2021年7月より執行役員VP of Public Policy。2023年1月より現職。一般社団法人Fintech協会 常務理事、特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構 理事も務める。

アルマノ:確かに、そういった副作用もあるかもしれません。ただ先ほどもお話ししたように、透明性を確保すること自体は目的ではなく手段でしかありません。だからこそさまざまな手段を取っていくことが重要です。

例えばロビー活動を規制する際、必ずしも透明性だけをしっかり担保させるようなものではなく、より多くの当事者たちが参画できるような仕組みにする必要があると考えています。

ルールや制度だけではなく「文化」も醸成していく必要がある

友末:ネゴシエーションにおける合意形成のプロセスは、すべてを透明にしてしまうとすごく難易度が高くなる側面もありますよね。どのように透明性を確保していけば、うまく機能すると思われますか?

▲友末 優子(マカイラ株式会社 執行役員)

吉川:何をどこまで、どの程度まで詳しく透明にしていくかという議論も必要ですが、「どのタイミングで透明にするか」も大事だと考えます。すべてリアルタイムで公開していく、というのはやはり交渉を難しくしますので、事後に公開することが考えられます。では、その「事後」をいつに設定するのが最適なのかというのは、大事な課題設定だと思います。

藤井:ルールや制度のあり方に加えて、オープンで対話志向の「コミュニケーション文化」を世の中に醸成していくことも重要だと思うんですよね。民主主義とは、オープンで対話志向のカルチャーの存在を前提としていて、制度面だけ整えても、政治はうまくいきません。だから僕としてはルールや制度作りに関与するだけではなく、その前提である、さまざまな人がオープンにコミュニケーションを取れる社会を、文化的な側面からも作っていきたいと思っています。


パネルディスカッションの後半ではイベント参加者のみなさまから多数の質問が挙がり、登壇者も含めて非常に有意義なディスカッションの時間にすることができました。

「マカイラ公共政策研究会」では、公共政策に関わる国家公務員、民間事業者、弁護士、コンサルタント、有識者など、さまざまな立場の皆様と知見を共有することを目的としたさまざまなテーマのイベントを定期的に実施しています。今後も多くのみなさまのご参加をお待ちしています。

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