2024年以降、選挙を取り巻く情報環境の変容が顕在化してきました。とりわけ、SNSや生成AIの急速な普及は、選挙結果や有権者の意思決定プロセスに大きな影響を与え、変革の一因となっています。
選挙におけるSNSや生成AIの活用は、情報アクセスチャンネルの多様化と市民の直接的な政治参加を促します。一方で、偽・誤情報や切り抜き情報の拡散が社会の分断を助長し、適切な公共的議論を阻害する事態にも繋がりかねないという側面も見えてきている現状です。
上記状況において、健全な民主主義を維持するためには、ディープフェイクや誹謗中傷なども含めた「選挙を取り巻く情報環境」の現状を様々な角度から分析することが必要です。そのうえで、各事業者や利用者(発信者・受け手)それぞれの責任や法規制は今後どうあるべきか、対応策を構築し、実行することが喫緊の課題であると考えます。
そこで、本イベントでは、選挙に関わる多様なアクターをお呼びし、SNS・AI時代の選挙のあり方と民主主義のあるべき姿を、その後の具体的な提言・活動まで見据えて議論しました。今回はイベントの様子を、一部ダイジェストでレポートします。

ネット・SNS選挙は、2025年参院選で“フェーズ2”へ
イベント前半では、高畑卓氏による「ネット・SNS選挙はフェーズ2へ」をテーマにした講演が行われました。

| ▲高畑 卓氏(選挙ドットコム 代表/イチニ株式会社 代表取締役)
インターネット黎明期からWeb制作事業・Webコンサルティング事業に取り組み、2005年に株式会社ジェイコスを設立。以来800社を超える企業のWebマーケティングに従事。2009年より政治家のネットマーケティングを支援する事業を始め、数多くの政治家をサポート。2015年にイチニ株式会社を設立し、選挙メディア「選挙ドットコム」「投票マッチング」YouTubeチャンネル「選挙ドットコムちゃんねる」の運営のほか、政治家むけネット選挙発信ツール「ボネクタ」「ネット献金」の提供など、有権者をつなぐ様々な活動や行政・メディア向けサービスの展開を行っている。 |
高畑:ネット選挙自体が解禁されたのは2013年。2016年頃からじわじわと、X(旧Twitter)をはじめとするSNSのコミュニケーションが選挙に影響を与えるようになりました。その後のコロナ禍を経て2024年以降は一気にフェーズが変わり、2025年の参院選で“フェーズ2”に移行したと思います。
従来の選挙では、新聞やTVなどのマスコミによる報道によって争点が形づくられてきました。しかし今ではインターネットの影響が顕著に現れるようになり、SNSユーザーを中心に争点が多様化し、変化する速度が速くなっています。
実際に2025年夏の参院選における争点の変化を分析してみると、米問題から減税へと移り変わり、最終的には外国人問題が多く取り上げられるようになりました。
こうしたネット選挙に影響を与えているSNSは、圧倒的にXとYouTubeで、TikTokも伸びてきています。
もともとSNSでは、フォロワーを多く獲得している人の方が影響力が高いというイメージがあったと思います。しかしTikTokの登場によって実態はコンテンツベースへと変化しており、「フォロワーゼロでも100万再生」が可能な仕組みが生まれています。

選挙活動は「1対多」から「1対多対多」のコミュニケーションへ
高畑:YouTubeに着目してみると、再生されているコンテンツやチャンネルの発信者のおよそ9割が、政党自体でもメディアでもない、一般の第三者であることがわかります。もちろん収益化を目的としたものも多くあると思いますが、コンテンツを見ていくと、発信者自身の正義感や、特定の政党や政治家を応援したい気持ちも大きな動機になっていると感じます。
2024年以降、国民民主党や参政党が支持を大きく伸ばしてきた要因の一つに、支持者によるネット上での発信の後押しがあったと考えます。特に参政党は、ネット上の支持者のアクティブ率が圧倒的に高いという特徴が見られます。
また各政党党首のSNS活動を比較してみると、参政党、国民民主党、れいわ新選組、チームみらいなど、2025年の参院選で票を伸ばした政党のトップは、自らSNSを通じて発信するだけではなく、返信などによって支持者と積極的にコミュニケーションを取り、交流を図っていたことがわかります。
さらにインターネット献金を通じ、いわゆる“推し活”のような形で、個々の支持者が政党や政治家を直接応援する文化も形成されつつあります。
このように今後の選挙活動における関係性は、政党や候補者が有権者へ発信する「1対多」のみではなくなっています。政党や候補者が発信した内容を支持者や第三者がさらに発信・拡散する「1対多対多」の構図の中で、インターネット上でのコミュニケーションやマーケティング的な手法を駆使し、自らの支持者を発信・拡散する側としていかに巻き込めるかが重要になってくるでしょう。
SNS/AIは政治をどう変えていくか
イベント後半では高畑氏による講演を踏まえたうえで、ゲストに工藤氏・仁木氏を迎え、パネルディスカッションを行いました。
| ●パネルディスカッションのテーマ
テーマ①:SNS/AIが選挙にもたらす「功罪」「光と影」とは? テーマ②:民主主義の質を高めるSNS/AIの「理想的な活用法」は? テーマ③:未来に向けた「ルールメイキングの提言」 |

モデレーターは、マカイラ株式会社 コンサルタントの城居 秋馬が務めました(画像左端)
SNS/AIが選挙にもたらす「功罪」「光と影」とは?
工藤:SNS/AIが選挙にもたらした影響として、有権者(第三者)が積極的に参加するようになったことはポジティブだと考えます。また候補者にとっては、知名度がほとんどない方でも認知を獲得でき、クラウドファンディングなどで資金を得る可能性が生まれている点が「光」といえるのではないでしょうか。
一方、誤情報・フェイクニュースの拡散や、外国勢力からの干渉等の懸念に関しては、適切な検証・対策が必要です。現状として、報道機関が、選挙や政治に関する情報のファクトチェック(事実検証)に力を入れていますが、メディアとしての中立性をどう担保するかという課題にも直面しています。どのような手法が最適か、これからさらに検証していく必要があると考えます。

| ▲工藤 郁子氏(大阪大学 社会技術共創研究センター 特任准教授)
マカイラ株式会社、世界経済フォーラムなどを経て現職。データやAIのガバナンスについて研究活動を行い、国際会合の開催によりルール形成にも貢献してきた。2023年にはG7公式官民イベント「DXサミット」を企画運営し、G7デジタル・技術大臣会合閣僚宣言で参照された。2024年より内閣府「AI制度研究会」構成員を務め、AI推進法の成立に貢献した。専門は情報法政策。共著に、『AIと憲法』『ロボット・AIと法』『ELSI入門』など。 |
仁木:ネット選挙解禁から12年が経過し、その間に実施された国政選挙は9回。まだまだ過渡期にある状態です。もちろん、まだまだ規制強化等の対策が必要な部分もありますが、個人的には、日本の民主主義を前進させる要因になっていると考えています。
例えば投票マッチングサイトを使う人が増えていることなどは、有権者が情報を得て学ぼうとしている姿勢の表れでもあり、良い傾向だと思います。

| ▲仁木 崇嗣氏(一般社団法人エクレシア 代表理事/認定NPO法人全世代 代表補佐・副事務局長)
1986年奈良県生まれ。2002年、15歳で陸上自衛隊に入隊、航空機整備士を経て、21歳時に一般幹部候補生合格を機に退職。ベンチャー企業勤務を経て、選挙運動に特化した制作会社を23歳で起業、100件以上の選挙を支援。2015年、選挙システムや若者の政治離れに問題意識を持ち、非営利活動として、全国各地の20代当選地方議員のネットワークづくりと若手首長の支援を開始し民主主義の活性化に取り組む。複数のCSO活動の傍ら、2020年10月から1年間、国会議員公設秘書として超党派議連の事務局等を務めた。また、コロナ禍では、認定NPO法人全世代の尾身茂代表理事の要請により、「コロナ専門家有志の会」デジタルコミュニケーションプロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めた。同NPOの理事を経て、2025年、代表補佐・副事務局長に就任。 |
高畑:私たち「選挙ドットコム」が提供している投票マッチングの利用者は、前回の参議院選と比較すると倍以上に増えました。「初めて投票する」という方の利用も増加傾向にあります。マッチングの利用によって、従来の選挙広報だけではたどり着きにくかった政党や政治家に票が集まる可能性が広がるため、ポジティブな面が多いと思っています。
ただ一方で、候補者側の負荷がかなり重くなっているのも事実です。ネット上のコミュニケーションやフェイク情報の対策が必須なのに、現行のルールでは、選挙期間中にインターネットの専門家を雇うことが難しい状況です。そうした意味で、ルール改正の必要性を強く感じています。
民主主義の質を高めるSNS/AIの「理想的な活用法」は?
仁木:有権者サイドにとっての生成AIの効果的な活用方法として、一つの政策を推進する立場と反対する立場、対立する立場同士の議論を気軽に疑似体験することが挙げられます。
今までは専門家の意見を聞きに行ったり、自分で調べて考えたりしなければできなかったことが、誰でも、しかも一人でも疑似トレーニングできる。生成される情報の正誤に注意する必要はありますが、多様な視点の意見を可視化できる環境が整ったことは、大きな変化だと思います。
高畑:とある議員の方にインタビューしたとき、「今の有権者はとても政策に詳しくなっている」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
一部のSNSやショート動画のみに頼ってしまうと、フェイクが混ざっている怖さや情報が偏ってしまうリスクがありますが、AIを使って政策に対する多様な視点を知ることにより、そうしたリスクを是正できたら良いですよね。
AIによってできることをポジティブにとらえ、政治におけるリテラシー教育につなげられる可能性もあるかもしれません。

工藤:確かに現状のインターネット環境上では、アテンションエコノミー(関心経済)やエコーチェンバー(反響増幅)などの問題が強く現れていますが、仁木さんがおっしゃったような多様な視点の存在を認識できるような仕組みができれば、もう少し“対話”ができるようになるかもしれませんね。今後の技術開発に期待したいところです。
ただ、よく指摘されているように、何か一つの対処法ができれば万事解決、みたいなものはないと思います。法改正や規制が必要な部分もあるでしょうし、プラットフォーム側にがんばっていただかないといけないこともあるし、有権者側のリテラシー向上も必要です。
また候補者側は、選挙期間以外にどれだけSNSを活用できるかが重要になっていると思います。選挙期間中にのみできることは非常に限られていますし、時間も全然足りません。平時の発信やコミュニケーション活動が、偽情報対策になるともいわれています。
実際に起きたものとして、インドネシアの大統領選挙の直前期にあたる2023年の事例があります。かなり精巧につくられたジョコ・ウィドド大統領(当時)のディープフェイクの演説動画がソーシャルメディアで出回る事態が発生したのですが、大半の国民が「大統領はこんな発言はしない」と認識していたため、あまり信用されなかったそうです。
自分の思想や考え方を日頃から発信し、有権者からの理解や信頼を得ておくことが、候補者を偽情報・誤情報から守る手段としても有効だと思います。
高畑:2025年の参院選では、新聞社が情報のファクトチェックに力を入れていました。その内容をデリバリーするのにSNSを活用するなど、マスコミとしての取り組みをもっと伝えてほしいとも思いますね。
未来に向けた「ルールメイキングの提言」
仁木:今日の私は「有権者は学ぶもの」「民主主義は成長している」という立場でお話しているので、規制強化に関してはそこまで固めるべきではないと考えています。
仮に規制を強めてクリーンな言論空間が実現したとしても、それは人間社会にとってリアルなものとはいえません。そのため誰もが自由に発言できることの価値を守りつつ、偽情報対策やリスク回避に関する検証を続けていくための議論が必要です。
また同時に、有権者側に対するリテラシー教育を続けることで、目の前の短期的な政策だけに注目するのではなく、長期的な国家のビジョンを語り、議論できる環境を作ることも大切だと思っています。
工藤:海外の規制に関する事例を一つ挙げると、EUが2024年に政治広告透明化規則を策定しています。政治的なターゲティング広告を禁止したもので、2025年秋に施行される予定ですので、日本の政治家のみなさんも、この規則の実効性等に注目しているのではないかと思います。
また、ポジティブな政治参画を促す活動や、投票用紙の水増しといった選挙不正疑惑を払拭するコミュニケーションも必要だと思っています。選挙に負けた人がきちんと謙譲して、結果を受け入れ、次の可能性にかけて再びチャレンジすることができる。そうした環境を構築することが最も重要なんです。選挙に対する信頼の底が抜けてしまうと、選挙で負けた側が過剰に攻撃的になり、深刻な分断や事件につながりかねません。それをいかに避けるかということが、ルール作りにおいて最も重要なポイントだと考えています。

高畑:繰り返しになりますが、候補者視点に立った法改正の必要性を強く感じています。現行の公職選挙法では、選挙活動において、選挙カーを運転する人や、マイクパフォーマンスをするウグイス嬢へ報酬を支払うことはOKとされていますが、ネット選挙に関するサポートをそのまま第三者に依頼すると運動員買収扱いになってしまう可能性が高いです。
SNSを使ったコミュニケーション戦略に長けた候補者やボランティアが必要になってしまうのですが、政治家の仕事の本質はそこではありません。政策作りなど政治家本来の仕事に集中できるよう、選挙活動をサポートしやすい環境づくりが必要だと思います。
議員立法は時間もかかりますし難しい点もあるかと思いますが、やはり時代に合わせて見直し、適宜変えていく必要があると考えています。
質疑応答
――(会場参加者からの質問)現在の社会の現状は、すごく厳しく複雑なものです。エンタメ的な捉え方では済まない領域があると思っており、日本の有権者がきちんと民主主義を学び、民主主義に基づいた議論ができるかどうか、私たち自身の責任も重いと感じています。国家の財政上の課題や防衛をはじめとする国際関係に関する問題など、高度な政治判断が必要な領域についての議論が、ネット・SNS選挙では抜け落ちてしまう懸念を持っていますが、みなさんはどうお考えでしょうか?
高畑:私は、そのための環境をつくっていく側の人間かもしれません。例えばこれまでの選挙報道では、テレビ番組が討論会の場を設けていました。しかし時間が限られており、十分な議論が行われているとはいえない状況だったと思います。
しかし最近、YouTubeで人気の番組が、3~4時間の長尺で司会者が政治家に対して1対1で質問を重ねていく企画を配信するなど、従来のマスメディアでは難しかった形での情報発信を実現している例が生まれています。
このように、ネットだからこそ可能となるポジティブな提案もあると思いますので、それをしっかり意識して場をつくっていきたいと考えています。
仁木:私たちは国民として民主主義を選択しているわけですから、政策が失敗したとしてもその結果を受け取るのは我々自身であって、その結果を受けて次に活かす覚悟を持つこと、「自分たちは民主主義を実践しているんだ」と自覚することが第一だと思っています。
その前提に立ったうえで、選挙の現状だけを見てみると、質問者の方がおっしゃったような状態になっているかもしれません。
ただ政治の中で高度専門的な領域であっても、国会で議論されている内容をしっかりと見て、自分たちが選んだ政治家がどんなふるまいをしているのか、次の選挙まで意識しておくこと。民主主義は大変ですが、それしかないですよね。
工藤:1990~2000年代を振り返ってみると、今質問者の方が挙げてくれた問題意識のもと、統治機構改革と選挙制度改革が行われてきたといえます。政党・政策本位の選挙への転換、政治的リーダーシップの発揮による迅速な意思決定、政策形成能力の強化などです。ただ懸念点はまだ多々存在しており、どの部分がどのようにうまくいっていないのか、きちんと検証が必要だと考えます。
ただ、誰がそうしたグランドデザインを描いて主導できるかというと……これから有権者がみんなで、それができる政治家を育てていかなければいけないのかもしれませんね。

【編集後記】
今回の議論では、パブリックアフェアーズのプロフェッショナルが活動する民主主義の基盤そのものに大きな影響を与える『SNS・AI時代の選挙』というテーマに焦点を当てるものでした。
健全で公正なパブリックアフェアーズが機能するためには、民意を反映した政治家が選ばれる健全な民主主義が機能して初めて成り立ちます。そのためには、本イベントで議論されたような、SNS活用ルールなどを含めた選挙制度が適切にアップデートされていることが重要です。今回の議論の中では公職選挙法などにも触れられましたが、これは立候補者だけでなく主権者である国民全員が能動的に考えていく必要があるテーマです。私たちPAプロフェッショナルにとっても、健全な民主主義という基盤を維持するための議論に、業界の一員としてではなく、一市民として能動的に関心を持ち、貢献していく必要性を再認識する機会となりました。
