メルカリに学ぶ、パブリックアフェアーズ・政策企画チームの作り方

事例

事業会社において、パブリックアフェアーズ・政策企画チームを作るにはどうすればいいのか——今回は株式会社メルカリの政策企画チームの事例を元に、理想的なチーム作りについて議論しました。

今回ゲストにお迎えしたのは、現在、メルカリで政策企画マネージャーを務める上村篤さんと石井真弘さん。さらに2014年から2018年まで、政策企画チーム形成初期にメルカリに在籍していた城譲(株式会社マカイラ 執行役員)を交えて、チーム作りのプロセスを詳しくうかがいました。

創業1年半のメルカリが、パブリックアフェアーズ人材を採用した理由

—— そもそも、メルカリの政策企画チームはどこからスタートしたのでしょうか。

城譲(以下、城):私がメルカリに入社したのは2014年の夏。メルカリの創業が2013年2月なので、会社ができてから1年半後のことです。政策企画チームが立ち上がるずっと前の話ですね。私は、政策企画業務も含む法務全般を担う役割で採用されました。

城譲(Yuzuru Tachi)
マカイラ株式会社執行役員。1998年より12年、公共セクター(国土交通省、内閣府、国際連合UN-HABITAT)で勤務後、国内IT企業(楽天、メルカリ)で8年間法務及び政策企画業務に従事し、IT分野における各種法律運用に携わる。官民の両セクターの経験から、両者の連携による発展的な政策立案の必要性を感じ、2018年11月よりマカイラ株式会社に参画。

当時はまだ、私が「今度メルカリに転職する」と周囲の人たちに話しても、私の周りでは誰一人その名前を知らなかった時期です。その段階でパブリックアフェアーズに対する取り組みの必要性を感じていた、メルカリ経営陣の先見の明は大きいと思います。

—— 当時はどんな業務を中心に行われていたのですか?

:入社した当初、政策企画の仕事としては、メルカリビジネスの法律構成について弁護士と議論しながら、対外的に理解してもらえるよう説明を考えたり、新経連などの業界団体に入って政策動向をモニターしたり、他社の政策企画の動きから学んだりしていました。

しかし、徐々にビジネスが大きくなりはじめると、良くも悪くも注目を集めるようになり、消費者団体や関係する行政機関など、関係各所との対話や渉外業務が増えていきました。だんだんと私一人では対応しきれなくなり、2017年2月に上村さんを政策企画ができるメンバーとして迎えることになったんです。

—— 上村さんは前職でも、パブリックアフェアーズに関連するお仕事をしていたのでしょうか。

上村 篤さん(以下、上村):前職では、知的財産を管理するチームのマネジメントをしていました。フリマアプリのサービスに出品される模倣品の対策や、自社のキャラクタービジネスの知的財産権の管理に携わっていたこともあって、自分の経験や権利者団体とのコネクションを活かして事業の発展に貢献ができるのではないかと思い、メルカリに入社することにしました。

上村 篤さん(Atsushi Kamimura)
株式会社メルカリ政策企画マネージャー
大学卒業後、材料メーカーの特許部門を経て、2005年に ヤフー株式会社にて知的財産部署の立ち上げを経験。その後ドワンゴ株式会社を経て、2012年にLINE株式会社の前身であるNHN Japan株式会社に入社し、知的財産部署のマネージャーとして グローバルでの知的財産管理、係争対応、模倣品対策等に従事。2017年に株式会社メルカリに入社後、法務、知的財産、政策企画を担当し、現在は政策企画マネージャー。

:政策企画に携わるのが私と上村さんの2人になってからは、上村さんは主に安全・安心対策、私は特商法、景表法、資金決済法など法規制周りを担っていました。

上場し、スペシャリストが集う「政策企画チーム」が誕生

—— ちなみに吉川さん(吉川徳明さん/現・政策企画ディレクター)がヤフーから移って来たのも、その頃ですね。

:吉川さんの入社は、上村さんが入って1年くらい経ってからの2018年4月です。

*参考記事 メルカリ吉川徳明さん:メルカリがパブリックアフェアーズに関わる理由

—— 2018年は、メルカリが上場した年でもありますよね。当時、会社を取り巻く状況はどのようなものだったのでしょうか?

:6月に上場を果たし、さらに金融サービスに参入するということで、より専門に特化したプロフェッショナルな人材が必要とされるようになりました。

当時は省庁対応が増えていたのに加え、週刊誌などのメディアをはじめ、各方面からフリマアプリに対するさまざまな批判が出ていた時期でもあったんです。法務のメンバーが、兼務で政策企画の仕事をするような状況ではなくなっていましたね。

—— そうした状況下で、チーム体制はどのように変化したのでしょうか。

上村:2018年夏に、法務やパブリックアフェアーズに関わるチームは4つに分かれました。ビジネスリーガル、コーポレートリーガル、知財、そして政策企画です。私は知財とビジネスリーガルを兼任していました。

城:私自身はその後、メルカリからマカイラに転職することになるのですが、高橋亮平さん(政策企画参事 兼 メルカリ・メルペイの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」編集長)や、元経産省や元ヤフーのメンバーなど、政策企画チームでは採用が進んでいました。

初期の頃のように、一人が広い領域をこなすジェネラリストではなく、さまざまな分野のスペシャリストが入社し、それぞれが得意領域で自走できるようなチームになりつつあったと思います。

決済・金融サービス「メルペイ」始動、グループを横断した取り組みが必要に

—— 2019年に入ってからはスマホ決済サービス「メルペイ」が始動し、そのタイミングで今度は石井さんが政策企画チームに加わるわけですね。

石井真弘さん(以下、石井):そうですね。私はもともと法務出身で決済サービスを担当していたのですが、ビジネス側の相談に対して法的に実現可能なスキームを検討、提案していくなかで、「できる・できない」の判断だけではなく、現在の法律を変える、政策を実現していくことも含めたソリューションも必要になっていくのではないかと考えていました。

石井真弘さん(Masahiro Ishii)
大学卒業後、司法書士を経て、2011年にヤフー株式会社入社。法務部門にて主に決済サービスにかかる契約・法律案件等に従事後、法務責任者としてPayPayの立ち上げに参画。2019年に株式会社メルカリに入社、現在マネージャーとして政策企画に従事。

—— 2019年以降、チームの体制はどのように変化してきたのでしょうか?

上村:2019年2月の時点で政策企画チームは、メルカリ日本事業の担当とメルペイ事業の担当、2つのチーム体制になりました。私はこのタイミングでビジネスリーガルから政策企画チームに異動しました。

その後、グループを横断した政策企画の取り組みが必要な事案が増えてきたため、2020年10月にもう1つチームを新設し、現在はメルカリの日本事業を担当するチーム、メルペイの事業を担当するチーム、そしてメルカリ寄付を始め、他社や自治体、消費者団体などとのアライアンスを担当するチームの3チーム体制で運営しています。

—— チームにはどのようなバックグラウンドを持ったメンバーが所属していますか?

上村:私と石井さんは法務の出身ですが、他のメンバーは経産省や外務省の官僚経験者、政治家や政治家秘書の経験者、カスタマーサポートチームでの渉外的な業務の経験者が集まっています。

自社ビジネスの成長に、確実に貢献する。それが理想のチーム

—— パブリックアフェアーズや政策企画は、ビジネスに対してどのように貢献しているのか、具体的に成果を示すのが難しい領域でもありますよね。上村さんと石井さん、何かチームとして意識していることがありましたら教えてください。

上村:経営陣の理解も重要ですが、チームメンバー側の、経営陣との関わり方も重要ですよね。社内で経営課題が発生したとき、「政策企画なら何とかしてくれるのでは」と頼ってもらえるような関係を築けるよう、日々の仕事に取り組んでいます。

石井:そもそも政策企画の仕事が何なのか、どんなことが実現できるのか、社内の方でもなかなかイメージしづらいのが実情なのかなと思います。

法改正や政策の反映は、どうしても時間がかかってしまいます。このため、ビジネスの現場で起きている課題を積極的に聞きにいき、短期的に成果が出るものにも取り組むことで、私たちができることを社内の人たちに知ってもらうのが重要だと思います。

上村:社内向けの勉強会などを開催して、特定のトピックについてオープンに議論を交わすこともあります。まずは自分たちができることを開示して、どんな連携ができるか一緒に考えたりもしています。

—— ちなみに城さんは現在、パブリックアフェアーズのコンサルティング会社であるマカイラで、他社のパブリックアフェアーズチーム・政策企画チームに関わることが多いですよね。メルカリの政策企画チームを外から見て、いかがでしょうか?

:いろいろな企業の政策企画チームを見ていますが、組織において政策企画チームが果たす役割を、経営陣とチームメンバー双方がしっかり認識し、それが経営戦略の中に組み込まれていると、チームもうまく機能するんですよね。外から見ていて、メルカリはその点、模範的なチームなのではないかと思っています。

石井:会社が目指すゴールやビジネスのステージによって、政策企画チームに求められることはさまざまだと思っています。私たちもいまだに、試行錯誤しながらチーム作りに取り組んでいます。

政策企画チームのあり方やチーム作りに正解はないと思いますが、メルカリの政策企画チームを参考にしていただけるのであれば、あくまでも一つのたたき台としてお考えいただくのが良いのではと思います。

:そうですね。事業会社におけるパブリックアフェアーズや政策企画のチームにとって最も重要なことは、いかに自社のビジネスに貢献できるかどうかだと思います。

とくに非市場戦略的なところ——例えば法規制領域、消費者の受容性などの社会環境領域で、いかにビジネスがしやすい環境を整えられるか、長い時間がかかるケースが多いですが、しっかりそのプロセスも周囲に説明しながら、事業の成長に寄り添っていく。そんなチームが事業会社の政策企画チームとして理想なのではないでしょうか。

 

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本記事は、株式会社メルカリとのコラボ企画です。メルカリ・メルペイの政策企画ブログ「merpoli(メルポリ)」にも本日『事業会社における「パブリックアフェアーズ」の役割とビジネスにとっての意義』が掲載されています。合わせてご覧ください。

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写真提供:株式会社メルカリ
制作:PublicAffairsJP編集部

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