「選挙」をパブリックアフェアーズの観点から総括する – 「目の付け所」と「やるべきこと」 – 前編

PA事例

パブリックアフェアーズの実務家は「総選挙」をどのように考えればよいのでしょうか。本記事では、2021年10月に行われた「第49回衆議院議員総選挙」を題材にパブリックアフェアーズの観点から「目の付け所」と「やるべきこと」について解説いたします。

「総選挙」をパブリックアフェアーズの実務家の立場から考える

パブリックアフェアーズ(PA)担当者にとって、最大の関心事である衆議院議員選挙(総選挙)が、2021年10月に終わりました。

与党自民党の苦戦が予想された総選挙ですが、蓋を開けてみると、自民党は議席を減らしながらも安定多数を維持。苦戦したのは、むしろ野党共闘を掲げながらも議席を減らした立憲民主党の方でした。野党共闘は共産党との連携が有権者から忌避され、アンチ自民党の票はむしろ第三勢力である維新に流れたというのが、大方の定説でしょう。

勝敗因分析については、既にさまざまなメディアが書いているので、今さら深入りしません。本記事では、実務的な立場から、総選挙という、PA担当者が2,3年に一度は直面する最大の業務環境変化において、PA担当者は何を考え、何をすべきかということを、分かりやすく解説していきたいと思います。総選挙がPA担当者にとって持つ意味と、そこでのお作法やルーティーンワーク、戦略的な目の付け所といった、実務的な話をします。

総選挙の意味:「政策」と「人事」の刷新

PA担当者にとって、政権の「政策」と「人事」ほど関心が高い情報はありません。総選挙は、結果的に政権交代などの大きな枠組み変更を伴わないにせよ、国民による政権と政策の選択であり、それが「政策」と「人事」に与える影響は、はかり知れません。

それでは、具体的にどのようなところに目を付ければいいのでしょうか。また、具体的にどのような作業に手を付ければよいのでしょうか。

そもそもなぜ「政局(人事)」が大切なのか

政治に関心を持つ理想主義的な人はよく「政局(人事)よりも、政策こそ重要だ」と言います。これは正しい半面、間違っている部分もあります。なぜなら現実の世の中では、必ずしも「正しい政策が実施される」のではなくて「権力を獲得した人が正しいと考える政策が実施される」からです。

そもそも「正しい政策」が何か、ということについて意見が異なるからこそ、権力争いが生じるわけで、「今後どのような政策が実施され、世の中がどうなっていくのか」を冷静に客観的に観測しながら、それに呼応して企業や市民の立場から主張(アドボカシー)を行っていくPA担当者としては、政局(人事)に無関心でいることはできません。

目の付け所:「人事」の何を見ればいいのか

総選挙の後には、政党・政府(内閣と省庁)・国会の人事が、がらりと変わります。負けた党首が辞任する場合もあれば、勝った与党では、適材適所や論功行賞、派閥間のバランスなどの観点から、党内の人事と政府の人事が決まっていきます。議員の顔ぶれが変わるので、国会の委員会などの人事も入れ替わります。

政治家だけでなく、行政官も、特に総理に近い官邸まわりでは入れ替わる場合が多いです。首相補佐官(国会議員がなる場合もあり、今回の岸田政権では全員が国会議員です)や総理秘書官、内閣官房副長官、内閣官房参与(今のところは、全員が菅政権からの留任です)、などが入れ替わります。政務三役(各省の大臣・副大臣・政務官)の交代と同時に、各省から就けられる秘書官も交代します。

では、PA担当者としては、何をポイントにこれらの人事を見ていけばよいのでしょうか。

なお、本記事では、大物政治家に電話一本でつながれるような大企業や政治力のある団体、有名人などではなくて、ベンチャー企業やNPOなどの、特別な政治力をもたない、一般的な組織のPA担当者を想定しています。

目の付け所:ずばり党の中堅実力派クラス

特別な政治力を持たない、一般的な企業やNPOの場合、いきなり官房長官や大臣などの大物政治家にアクセスしてじっくり話をきいてもらうことは出来ません。そこで、その政策分野において、より実務的な立場にいてフットワーク軽く動けながら、かつ、省庁などとの公的な関係に縛られすぎない、中堅クラスの政治家を頼ることが多くなります。

これは具体的にはずばり、与党の部会の副部会長や部会長代理、与党の委員会や議員連盟の事務局長などの役職に就く、当選回数3-4回程度の政治家です。副大臣や大臣政務官も、中堅クラスと言っていいのかもしれませんが、「政府に入る」(=政治家が内閣官房や省庁など、行政側の役職に就くことをそういいます)と、公的な立場が強くなるため、忙しくてアポも取りにくくなります。省庁の立場に縛られ、個別の企業や団体と自由なディスカッションがしにくくなります。ベンチャー企業などにとっては、敷居が各段に高くなるのです。

また日本のような議院内閣制では、政策決定の流れとして、多くの場合、①与党が大きな方向性を描く、②それを党から官邸(与党のトップでもある総理大臣)に上げる、③官邸が行政官庁に実行させる、という順序になります。なので、方向性が決まったあとの③にいる政務三役(大臣・副大臣・政務官)よりも、①の最初の絵を描く党の政務調査会(政調)や議員連盟の立場にいる政治家のほうが、新しいイノベーティブな政策提案について、柔軟な意見交換をしやすいことが多いのです。

そこで、「政府に入らず」に「党に残っている」政治家で、関連政策分野の、上記のような役職に誰が就くか…。ここが、まず一つ、目の付け所になります。実は、党人事のすべての名簿が出そろうのは、通常、閣僚や党三役など主要ポストよりも、少し後になります。選挙後のこのタイムラグの間に、誰がこれら中堅ポストのどこに就くかの予想をするのは、PA実務家ならではの、マニアックな楽しみです(つまりここが注目ポイントです!)。また党の政調の名簿は、たびたび更新されますので、常に最新版を追っておくことも忘れないようにしましょう。(これを書いているのは2021年12月23日ですが、自民党のHPではちょうど、12月22日付で、政調の調査会や特別委員会の詳しい名簿の最新版が更新されたところです)。

一方で、今政権では現時点ですでに、実力派と言われる若手・中堅などの政務三役への抜擢が進んでしまっているので、「これまで頼っていた政治家が、出世して会いにくくなってしまった」というような、ジレンマを感じているPA担当者もいるかもしれません…。

目の付け所:政務三役

では、頼れる政治家が政務三役として政府に入ると、仕事がやりにくくなるだけなのでしょうか。そんな訳がありません。やはり、大臣・副大臣・政務官といった、行政官庁への公式な指揮命令権限を持つ立場に実力のある政治家が就けば、その政策は動きます。よって、新しい政務三役の名簿を見るときに考えるべきは、以下の三点です。

① この人はこの政策分野にもともと知見や経験、関心があるか
② この人は実力があるか
③ この人とすでに関係構築が出来ているか、または関係構築をするルートがあるか

②の「実力」というのは、頭が良くて吸収が早い、周りを巻き込む力がある、フットワークが軽い、など、政策を実行する力です。(なお、詳しくは後述しますが、「政策を実行する力」は能力だけでなく、「立場」によっても左右されます。党内の多数派にいるか少数派にいるか、他の政治家や派閥との強固な協力関係を築けているか、などです。「政局」が重要な所以です。)

この三点がすべて「YES」であれば、今回の人事は「当たり」だったことになります。政策実現の期待が高まります。時に政務三役人事において、当該政治家自身の得意分野とは異なる政策領域を任される場合もありますが、その場合でもイノベーティブな政策を実現する場合には、政務三役のご理解と支援を欠かすことはできません。関心分野の政務三役に就任された政治家には、祝電や胡蝶蘭を送り、少しでも今後に向けた期待と応援のアピールをし、関係構築を試みましょう。

政治家は役職とともに、専門性を増し政治力を身に着け、スケール大きく成長していくものです。国民サイドから見れば、「育てる」ものです。それを忘れずに、地道なコミュニケーションを続けていくことが大事です。それと同時に、党や官邸、議連の方から働きかけるなど、他の政策実現ルートも模索し続けましょう。

目の付け所:行政人事

なお、政策課題によっては、「政治マターではない」、すなわち、政治家が大きな視点から政策判断や利害調整をするよりも、行政官庁のプロフェッショナルである官僚たちと、テクニカルな議論を詰めていくことのほうが円滑に進むものもあります。そういう話を、無理に最初から政務三役に持ち込もうとしても、頭ごなしにされたと誤解を招いていしまった場合には、担当の官僚たちとの関係がこじれるだけです。そのような政策課題の性格とも照らし合わせながら、政治家との関係を判断していくことも大事です。

ただし、官僚の人事異動は普通、総選挙に合わせて行われるのではなく、予算・法案が審議される国会のスケジュール(1-6月ごろに開催)に合わせて行われるので、ここでは割愛します。

最後に、選挙に伴う、いわゆる大物の「官邸官僚」たちの去就…。これはここでは深入りしませんが、安倍政権では政策に大きな力を持っていた人たちなので、その人事はしっかりと見ておくことにしましょう。同時に、岸田政権下でもいわゆる「政高党低」、すなわち「官邸主導」の政策づくりが続くのかは、ウォッチするポイントとなります。

 

後編に続く


制作:PublicAffairsJP編集部

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