【中編】世界でひろがる「ミニ・パブリックス」とは?OECD本から読み解く!

書評

【前編】世界でひろがる「ミニ・パブリックス」とは?OECD本から読み解く!」に引き続き、OECD Open Government Unit による『世界に学ぶミニ・パブリックス くじ引きと熟議による民主主義のつくりかた』を紹介していきます。

 

今回は、第三章からの「熟議プロセスの世界トレンド」について、簡単に見てみましょう!

熟議プロセスの世界トレンド

第3章では、世界的な熟議プロセスのトレンドがどのようなものかが概観されています。その際に視点とされるのは、①OECD加盟国での熟議プロセスの導入状況、②時系列で見た熟議プロセスの利用に対する関心の波、③国、州や市町村などさまざまなレベルの政府での熟議プロセスの導入状況、④各熟議モデルが普及している程度、⑤熟議プロセスが導入された政策課題のタイプ、⑥平均的なコスト、⑦公的機関から熟議プロセスを実施することを委託された/任じられた組織の種類の7つです。

 

まず、熟議プロセスが導入されたのは、OECD加盟国が主(282回)で、それ以外の国での事例は少ない(7回)ことが分かっています(世界で実施された熟議プロセスすべてを網羅しているわけではない)。とりわけ世界的な熟議プロセスはOECD加盟国で関心が高まっていることが明らかになっており、1996年から2000年にかけて第一波とも言える関心の高まりが観測されています。そして、2011年以降に着実に実施される回数は増加しており、2011年から2019年に177回ほど開催されていることから、第二波と言えるようです。このような熟議プロセスは、過半数(52%)が地方自治体レベルで行われており、30%が州や地域圏、15%が国・政府レベルで開催されています。また、3%ほどは世界市民会議のように国際的なレベルで開催されています。

 

これらの熟議プロセスの内訳は、市民陪審/パネルが115回、計画細胞が57回、市民ダイアローグが38回、コンセンサス会議が19回、市民カウンシルが14回、G1000が12回、市民イニシアティブ・レビューが8回、討論型世論調査が7回、市民議会が6回、世界市民会議が4回、東ベルギーモデルが1回、市民監視委員会が1回となっています。

 

全体の40%超を占める市民陪審/パネルは、50年以上も実施されてきた歴史のあるモデルで、熟議プロセスの典型的なモデルとされてきているため、採用される傾向が高くなっています。また、これらの熟議プロセスが導入された主だった政策課題のタイプは、都市計画が43、保健衛生が32、環境が29、戦略的計画が26、インフラが26となっており、人びとの生活に直接的な影響を持ち、共有された課題がテーマとなることが多くなっているようです。それだけでなく、複数の政策課題を同時に解決する施策を検討した例も見られ、多種多様な用いられ方がなされています。

 

なぜこのような課題で熟議プロセスが用いられたのかを考えてみると、傾向として大きなコミュニティとして一定の課題に対処するために、一部のひとびとが負担を追わなければならない問題、いわゆる NIMBY (not in my backyard 、私の裏庭につくらないで)といわれる課題、に関連しているものだからだと言われています。一部の負担者と全体の受益のバランスを当事者間で議論することを可能にするプロセスを経験することで、共通の基盤を探ることができ、全体にとってポジティブな結果をもたらす戦略を検討することに資するというわけです。

 

これらの熟議プロセスを実施するには、当然にコストがかかります。全体的な傾向としては、臨時的に実施されたプロセスやより広範な参加を必要とするプロセスにおいてコストが高まる傾向が見られ、制度化された常設型のプロセスの方がコストが低くなる可能性が示唆されています。そして、これらのプロセスを実際に運営するのは、民間セクターが37%、NPO/NGOが29%、政府が16%、複数の組織が10%、学術機関が8%という割合になっています。主催する政府当局から独立して実施されることが重要と認識されることが多く、このようなバランスになっていると理解できます。

このように世界的に事例が蓄積されつつある熟議プロセスを成功させるためにどのような要素があるのかが、つぎのチャプター4で検討されます。PublicAffairsJPでは、次の「【後編】世界でひろがる「ミニ・パブリックス」とは?OECD本から読み解く!」で紹介します。

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