パブリックに関わるキャリアを考える 第5回【イベントレポート】- 15年の国家公務員生活を捨てて、なぜスタートアップに転職したのか –

PAイベント

2021年7月30日(金)に、マカイラ株式会社の主催イベント「パブリックに関わるキャリアを考える 第5回」を開催しました。

今回ゲストとしてお迎えしたのは、株式会社TRUSTDOCKでパブリックアフェアーズ(Public Affairs, PA)を担当されている神谷英亮さまです。

神谷さまは、15年間国家公務員を経験されたのち、昨年の12月から設立3年のスタートアップ企業TRUSTDKCKに転職されました。オンライン本人確認を社会インフラにするというミッションのもと、パブリックアフェアーズのお仕事をされています。新しい環境で新しいことに挑戦されている神谷さまに、公務員時代に培ったスキルを活かしたご活躍についてお話いただきました。

イベント当日は、マカイラ株式会社コンサルタント・パブリックポリシーキャリア研究所所長の草野百合子と同社コンサルタントの箕輪佑樹が進行を務めました。今回は、パブリックアフェアーズの実務、国家公務員からスタートアップ企業に転職した経緯、民間企業で驚かれる公務員のスキルなどについて、ダイジェストでお送りいたします。

神谷英亮さまプロフィール
株式会社TRUSTDOCK Public Affairs担当。読売新聞東京本社(販売局)に勤務した後、国家公務員試験受験のために退職。2006年4月法務省に入省。再犯防止施策を中心とする政策の企画立案、省内全体の法令審査、閣議案件の調整などを担当。2017年には内閣官房に出向し、サイバーセキュリティ基本法改正を企画から法律制定に至るまで主導した。2020年11月刑事局勤務を最後に法務省を退職。同年12月、TRUSTDOCKに入社。国の行政機関、国会議員等とも協働しながら、特定の業界や利益を超えて広く生活者の暮らしを向上させる「未来志向のルール形成」を目指している。

※役職等はイベント開催当時のものです。


まずは、神谷さまに自己紹介いただきました。

神谷英亮(以下、神谷):元々は新聞社におり、その後法務省に移りました。そして2006年からつい昨年の11月まで、15年近く国家公務員として働いていました。

公務員時代、最も力を入れたのは再犯防止施策を中心とする政策・法令の企画立案です。官房系の仕事も多く、省内全体の法案審査や閣議案件取りまとめ、決裁管理もいたしました。政務官秘書官や国会対応なども経験しました。短期在外で、シンガポールの社会家庭開発省でも数ヶ月勤務したことがあります。

2017年から2年間、内閣官房のサイバーセキュリティセンターに出向し、法改正をした経験が転機となっています。そこでICTやデジタルの領域から社会に貢献したいという想いが強くなり、ご縁がありTRUSTDOCKに入社しました。入社して8か月ほどが経ったところです。

TRUSTDOCKのPAの最初のミッションは、eKYCを国の重要施策に位置付けること

次に、TRUSTDOCKでのパブリックアフェアーズ担当者としてのお仕事について、詳しくお話しいただきました。

神谷:私たちTRUSTDOCKはまだ設立して3年ほどの小さなスタートアップ企業です。「オンライン本人確認を社会インフラにする」という大きな目標を掲げています。

私の主な仕事は、オンラインによる本人確認(eKYC=electronic Know Your Customer)を使いやすく、かつ適正な手続とするための戦略の起案です。そのために政官や民間事業者等の関係者と日々協働を行っています。

社会インフラという以上は当然ルールが必要ですし、インフラにするためにはいろんなステップがあります。そのためのルール形成をしたり、手続きを円滑に進めるために中央省庁の方などとの関係を構築したり調整を行うことが主な業務です。そういう意味では、中央省庁にいたときとやっていることは大きく変わりません。

12月に入社してからは、eKYCやオンラインの本人確認を社会インフラにする第一歩として、まずはeKYC全体のステータスを上げていく必要があると考え、国の重要施策に位置づけることを目標としました。

政府の戦略などの策定がどんなスケジュールで進み、どのような効果をもたらすのか、元国家公務員として理解していたので、その経験は活かせましたね。

eKYCが政府の重要施策に位置づけられた現在は、eKYCを社会に広く普及促進するという次の目標に向けて、様々な構想を練っているところです。

草野百合子(以下、草野):神谷さまのパブリックアフェアーズの仕事をひとことで定義すると、どのようなお仕事になるのでしょうか?

神谷:「政策企画+α」ですね。

先ほど述べた仕事の他には、プライバシーポリシーの改正案の策定なども自分の役割だと思っています。また、事業者向けのセミナーや社内向けの法令勉強会の企画、講師なども担当しています。

αの部分には、社内調整も多く含まれます。私の業務はすぐにお金を産むものばかりではないですし、社内の各チームと連携する案件も多いので、まず社内のコンセンサスを得ることが重要だと思っています。社内のみんなが一緒の方向を向いていけるように、推進役と調整役の両方を担わせていただいています。

「先回りでルール形成がしたいから」転職したきっかけと、その後

神谷さまが転職をされたきっかけや経緯、民間企業に転職して変わったこと等をうかがいました。

神谷:公務員時代、ルール形成にずっと取り組んできました。ですが、いずれも何らかのインシデントが起きてからの事後対応だったんです。それはもちろん止血にはなりますが、ITやデジタルという分野は日々進化していきます。法律ができた瞬間から状況が変わってしまうような領域で、事後対応ばかりではいけないなと。

一方で、国家公務員の一連の仕事を経験して、霞ヶ関の側から事前対応のアクションを起こすというのは難しいだろうということも感じていました。

内閣官房では、霞ヶ関の縦割りの壁の厚さを改めて強く感じました。法律改正のための各省庁の調整は時間がかかるし、本当にやるべきことにエネルギーを十分に割けない状況にあります。ルールを作る際の障害にもなり得る様々なこだわりや習わしのようなものがあり、もどかしさがありました。

それなら民間の側から柔軟に、かつ迅速に問題提起を行い、インシデントが起きる前のルール形成に貢献したいという考えになりました。

箕輪佑樹(以下、箕輪):なかでも、転職先にTRUSTDOCKを選ばれた経緯についておうかがいしたいです。

神谷:サイバーセキュリティの魅力は、あらゆる組織に必要で今後益々重要になる取り組みであるということだと考えていましたので、同じように、特定の分野に限られることのない社会課題に取り組むことのできる会社を探していました。

そんなときにTRUSTDOCKから「本人確認は、業界関係なく、全ての分野を対象としていますし、将来皆がTRUSTDOCKを使って本人確認を行う世界を目指します。」とベンチャーらしい熱いお話をいただいて、これこそ私のやりたいことだと思いました。

事後じゃなくて事前で、一部じゃなくてみんな。そんなルールを作れる場所を見つけられたと、転職を決意しました。

箕輪:民間に来て良かったと思うことはありますか?

神谷:良かった点は挙げたらキリがないですね。

まず、ずっと家でフルリモートワークなんです。前職だったら考えられないことです。今日は夜9時過ぎからのイベントですが、子どもたちと晩ご飯を食べて、「今から仕事があるからね」って子どもの部屋からオンラインで参加しています。それだけでも最高ですよ。

その他にも、煩わしい手続きはありませんし、デジタル化によってかえって仕事を増やす謎の上司もいません。そうしたことに時間を使うくらいなら別のことをしましょうというスタートアップらしいカルチャーは、とても心地の良いものです。

また、パブリックアフェアーズ担当として役に立てているという実感もあります。政策企画の仕事には、今までTRUSTDOCKもチャレンジしていたけれど、マンパワーが少なかったりノウハウがわからなかったために、うまくいかなかったことはたくさんあるんですよね。そこに私がPAとして入り、これまでにないアプローチを展開することで円滑に進むことが増えてきているのは良かったと思います。

箕輪:今後のキャリアについて、どのような展望を持っておられますか?

神谷:経営に携わっていきたいと思っています。

PAは、役所で言うと組織横断的な官房のようなところだと思います。経営陣との距離感も近く、彼らにNoと言うこともあるし、新しいビジネスモデルになるようなスキームを提案することもあります。代表の千葉とオフラインの取材対応を終えた後、そのまま取材場所でeKYCの将来について二時間話し込むなんてこともありました。この時期ですから距離を取りつつマスクをしながらでしたが、経営者の熱を感じることができる時間でした。スタートアップならではということもあると思いますが、経営を間近で感じることができていますね。

3年間で数名から30名を超える企業にまでTRUSTDOCKを育て上げた経営陣をシンプルに尊敬しています。これは、とてつもないこと。自分も若手を育てながら、組織全体を育てていきたいという思いが強くなっています。

草野:TRUSTDOCKの経営陣は、当初から経営視点を持ったPA担当者を探していらっしゃったのでしょうか?

神谷:ベンチャー企業は、良い技術とルールの両輪がなければインフラを構築できないということを早期に理解しており、政策やルール形成の経験を有する人材を採用したいという意図はあったと思います。

 

民間企業が驚くのは、国家公務員の調整力・文章作成力・論点整理力

国家公務員時代に培い、現在民間企業で役立っているスキルについてもおうかがいしました。

神谷:特に民間企業に入ってよく言われるのは、「やはり調整がうまいですね」ということです。いろんな人たちの主張の利害や論点を整理して、みんなが納得するように調整するのが上手ですねと。

論点整理力と調整力は霞ヶ関で磨かれたと思います。特に、政治家の方との丁々発止の議論とか、民間ではあまり経験することはないですよね。

だからこそ国家公務員は、欲しい人材と思ってもらえるんじゃないかな。

箕輪:そうした強みには、霞ヶ関におられたときから気づいていらっしゃったのでしょうか?それとも転職後に気づかれましたか?

神谷:転職活動をする中でですね。

面接の中で、「こういう課題があるんですよね、どうしたらいいでしょうか」とさりげなく聞かれたことがありました。それで自分なりに案をお伝えした際に「すごいな」と言っていただいて、なるほどこれってすごいのかと思いました。自分にとっては「普段の対応」だったんですけどね。

多様なステークホルダーがいて、その中で何かを決めて行かなければいけないときに、それぞれがやりたいこと・やってほしくないことを聞いて整理していくというのは、霞ヶ関で経験を積まれた人ならみんなストレスなくできることだと思います。

ですが、それって民間の方からすると魅力に映るのかと理解し、これを強みにアピールしていくようになりました。

参加者:国家公務員としての経験をアピールすることに、苦労したことがあります。面接などの際に、どのようなスキルを説明して、理解していただきましたか?

神谷:まず、みなさんに自信を持っていただきたいのですが、みなさんが普段発揮しておられる文章作成力・調整力・論点整理力には、民間の人は度肝を抜かれます。それだけみなさんは若い頃から鍛えられており、文章作成の速さや正確さ、調整の的確さは素晴らしいレベルを備えています。

では、そのスキルを、どのようにアピールするかということですよね。

私の場合は、TRUSTDOCKの面接で課題の説明をされたその日の夜「意味があるかどうかはわからないけど、ペーパーにまとめて送ってみよう」と思ったんです。それを見て、好印象をもってもらえたみたいなんですよね。なんだこいつとも思われたかもしれませんけど、自分の強みを見える形で示していくことは、悔いのないようにやってみることです。

社会課題に取り組むPA人材へ送る4つの助言

神谷:最後に1分だけ、先に民間のPAに転職した者として、みなさんに伝えたいことをお話ししても良いでしょうか。

まず、パブリックアフェアーズ(PA)は最高に楽しい仕事です。みなさんに胸を張って、ぜひチャレンジしてほしいと言えます。4つほど、お伝えしたいことがあります。

1つ目は、面談や会社に訪問する際は、思う存分社会について語ってほしいということです。みなさんは今まで社会のために熱く働いてきたと思いますので、社会をどうしたいか、どうするべきか語れるはずです。社会について思いをぶつけないと、後悔します。

2つ目は、みなさんのスキルを存分にアピールしてほしいということです。国家公務員の方が持っている文章力や論点整理力、調整力にはみんな度肝を抜かれますから。

3つ目は、PAの形を自分たちで作っていってほしいということです。PAは今アメーバみたいなもので、確たる形がありません。なので自分たちでPAの形を作り、進化させて、会社そのものも盛り上げてほしいです。

最後に、これからPAを志す方には、社会に貢献する企業経営を担っていく人材になってほしいです。そして、業種も国境も越えて仲間を増やしていってほしいと思います。

ちなみにTRUSTDOCKは今絶賛人材募集中ですので、一緒に働きたいということであればお声がけください。今日はありがとうございました。

 

現在、株式会社TRUSTDOCKさまではPublic Affairs担当のポジションを担っていただける方を募集しております。少しお話を聞いてみたい、もっと詳細を知りたいという方はパブリックアフェアーズ人材のための転職支援サービス「pucari」のお問い合わせからご連絡ください。

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制作:PublicAffairsJP編集部

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