【後編】世界でひろがる「ミニ・パブリックス」とは?OECD本から読み解く!

書評

【中編】世界でひろがる「ミニ・パブリックス」とは?OECD本から読み解く!」に引き続き、OECD Open Government Unit による『世界に学ぶミニ・パブリックス くじ引きと熟議による民主主義のつくりかた』を紹介していきます。

 

今回は、第4章の成功する熟議プロセスの要素と第5章の熟議プロセス成功の原則について、簡単に見てみましょう!

成功する熟議プロセスの要素

チャプター4では、①熟議の設計の誠実さ、②健全な熟議、③影響力のある提言と政策への反映、④公衆への影響を軸として、成功する熟議プロセスがどのようなものか検討されています。

熟議の設計の誠実さ 一般視点からプロセスが公正かつ公共的意思決定への熟議プロセスの組み込みの適切性
健全な熟議 公共の意思決定に反映可能な良質な熟議ができる仕組みかどうか
影響力のある提言と政策への反映 実際に意思決定に影響を与えたかどうか
公衆への影響 公衆の有効性感覚等に対する副次的および長期的な影響の有無

 

以上の基準による検討を経て、まず重要な要素として、参加者の決定が無作為抽出によって行われることが重要だと指摘されています。熟議プロセスへの参加が広く開かれ、機会が均等に確保され、参加者の属するグループが社会の縮図に沿うようデザインされることで、特殊な利益の影響から解放され、そのプロセスの公正性と適切性が担保されうるためです。そして、熟議プロセスにはいるための準備期間が判明しているケースでは、最低でおよそ5週間程度の準備期間が設けられており、熟議の質を確保するための措置が取られていたようです。また、平均して6.6週間におよび3.7日間の対面での熟議の時間や、その他にレクチャーの時間が確保されていたこともわかっています。熟議プロセスの最後には、その内容が提言としてまとめられ、当局に提出されることになりますが、提案を拒否する場合や、部分的に修正する場合であっても、その理由について説明責任が果たされることの重要性も指摘されています。そして、それらの提言は、公的機関は提言の半分以上の項目を政策に反映し(およそ76%)、提言すべてを反映している例(36%)も観測されました。そのため、公正で適切な熟議プロセスが導く提言には、政策に反映する有意性が認められ、実際に影響力が存在していたことが分かったようです。

 

最後に、効果的なパブリックコミュニケーションにより、一般公衆に公共的な活動への参加を促すことにつながり、偽情報や集団的な分極化を抑止する効果があることも実証研究によってあきらかにされています。このように、本書では、4つの視点を満たしたものがよい評価を得ていることが紹介されています。それぞれの検討の詳しい内容を知りたい方はぜひ本書をご覧ください。

 

熟議プロセス成功の原則

チャプター5では、公共的な意思決定に関する熟議プロセスはどのようにすれば成功するのかが議論されています。それによると原則として抽出された要素は以下の11個となります。

1.目的 熟議プロセスが行われる目的が、明確にタスクとして整理されており、現実の公共的問題と結びついていること。また、質問等の形をとりながら中立的であること。
2.説明責任 熟議プロセスが公共的意思決定に影響を与えることもあり、主催する当局が提言にタイムリーに対応することを約すべきである。また、定期的に提言の実施状況などを説明する必要がある。
3.透明性 熟議プロセスの開始は、事前に公とし、すべての資料や記録、提言は適時、公開されるべきであること。提言に関する当局の対応と評価も公開されるべきであること。
4.代表性 参加者が、無作為抽出によって一般市民の縮図となる構成となっていること。参加の機会は誰にでも平等に与えられること。
5.包括性 参加率の低いグループを参加させる工夫が施されていること。必要に応じ報酬や経費、託児や介護の費用を適切に提供すること。
6.情報提供 参加者が、幅広いエビデンスや専門的な情報にアクセスできること。関係する専門家や、テーマに対する賛成・反対双方の立場のひとから話を聞き、質問できる機会を設けること。
7.グループ討議 参加者が慎重かつ積極的にグループメンバーの話を聞き、複数の視点から評価や検討を行うことで、共通の基盤を築きながら、提言をつくることができる環境を整えること。
8.時間 参加者が、複雑な政策課題を理解することができるように、十分な時間を確保すること。少なくとも丸4日間の対面でのセッションを行うこと。セッションごとの間に、個人学習と思慮のための時間を確保すること。
9.誠実性 熟議プロセスが、当局から独立したチームによって運営されること。
10.プライバシー 参加者が、メディアからの過度な注目や利益団体からのロビー活動を受けることなく、独立して活動できるようプライバシーの保護に配慮すること。
11.評価 熟議プロセスの評価にあたっては、参加者による無記名で意見を得るべきであること。最終的な成果と提言の影響に基づいて評価すべきであること。

 

このような詳細な研究を経て、本書では一時ないし臨時的に熟議プロセスを開催するのではなく、持続的に開催されるような状況が構築可能かが検討されています。熟議プロセスを持続的に開催するには、「制度化」が必要だと述べています。その制度化には、法的な側面と文化的な側面があると言います。

 

それによれば、「法的な側面」とは、無作為抽出による熟議プロセスを、公的な意思決定機構や統治機構のルールに組み込み、法律や規制の枠組みを構築することで、政治的な状況の変化に左右されることのない、継続性を確保することを意味します。そして、「文化的な側面」とは、熟議が社会全体で必要なものであると承認され、維持され、繰り返される意識(社会規範)の構築を意味します。この制度化が必要となる理由は、熟議プロセスが、①政府だけでは結論を出し切ることのできない難問についてコミュニティをあげて取り組むことができること、②制度化によって再利用可能なプロセスや文書、実務的な能力の養成が低コストでかのうとなること、③統治されると共に統治することを意味する民主主義に多様な視点をもちこむ形で参加する可能性が高まることなどが挙げられています。本書では、このような経緯から制度化の必要性を理解し、導入プロセスなどが検討されています。

 

まとめ

本書には、世界で広がりを見せている熟議プロセスの分析を通じて明らかになったことが一部しか紹介できませんでしたが、濃密にまとめられています。世界における「熟議の波」が、1986年からの第一波、2010年からの第二波、そして2019年以降と歴史的な実践の積み重ねが見られ、その中で改善が重ねられてきていることも重要な示唆を有しています。また、それらの実践を受けて、世界中の研究者が実施した理論や実証研究によるエビデンスをもとに、様々な実践が4つのタイプと12のモデルに整理されました。これにより、社会の状況や課題のテーマに応じてモデルを比較検討が可能となったことはとても有用と言えます。

 

それだけでなく、熟議プロセスがどのようなレベル(国、州、市町村など)で行われているのか、どのような課題について議論がなされているのか、どのように運営されることが望ましいのか、どのようにすれば成功裏に実施できるのかなど、極めて実際的な検証を知ることができる著作となっています。世界でその有用性が注目されている「熟議プロセス」について詳しく知りたい方は、ぜひ、OECD Open Government Unit 著『世界に学ぶミニ・パブリックス くじ引きと熟議による民主主義のつくりかた』を手に取ってみてください。

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