民主主義のDXに取り組むLiquitousに聞く―あらたな合意形成のプラットフォーム

事例

デジタルプラットフォームが政策共創のキーとしても世界中で注目されている中、日本でも「市民参加型合意形成プラットフォーム Liqlid」が開発されている。

そこで今回は、Liqlid を開発・運営する株式会社Liquitous代表取締役の栗本拓幸さんの話を、まちづくりに研究者・実践者として取り組む明治大学政治経済学部経済学科・准教授の藤本穣彦さんを聞き手としてお届けします。

市民参加型の政策形成デジタルプラットフォームで起業したきっかけ:18歳選挙権の導入

 

藤本さん:本日はよろしくお願いします。

 

栗本さん:よろしくお願いします。

 

藤本さん:では、まずLiquitousについて教えてもらえますか?

 

栗本:はい。わたくしどもLiquitousは、「市民参加型合意形成プラットフォーム」を開発しています。これは、より幅広い市民参加を実現するという観点で、市民参加、より幅広い市民参加を実現すること、民主主義を合理化していく、より公正にしていく、質をあげていくということを大切にしています。
わたし自身は、いま23歳なんですけれども、高校一年生の時に18歳選挙権の話があり、2015年に公職選挙法が改正される取り組みに関わってきました。中高生の頃には生徒会活動をずっとやっていたこともあり、どのようにすれば、たとえば、若い人を含めた市民が政治や行政、社会に参加・参画できるのか気になっていました。

 

藤本さん:すごいですね。

 

栗本さん:それで、18歳になって選挙権を得て、選挙運動ができるようになるような年齢になってから数年間、国政だとか、首長さんや地方議員さんの選挙だとか、あとは政策づくりのサポートをやってきました。そうした中で、間接民主主義の限界と言うと大げさかもしれませんけれど、政治とか行政ってどこまで民意を把握できているのだろう、あるいは社会的合意形成に現行の選挙制度はどれくらい貢献しているのだろうということに興味・関心が生まれました。

 

藤本さん:なるほど。それでそれで?

 

栗本さん:十分でないのであれば、それを補完するようなあたらしい仕組みを作った方がいいんじゃないかと考えるようになりました。そうした時に、この時代であればデジタルツールを使うことが、1つの有効な手掛かりではないのかなと思い、2020年の2月、コロナ禍の直前に起業しました。現在では、住民の皆さんと行政などとのコミュニケーションをより輻輳的に、かつ分厚くしていく取り組みを基本的に行っています。行政の方と話すと、たとえば少子高齢化であるとか、人口減少であるとか、様々な社会情勢の変化がある中であたらしい政策判断がより求められてきていることが分かります。
たとえば、これまで継続してきた施策を縮小するとか廃止するとか、場合によって今までやってこなかった施策をあたらしく始めなければいけないということもあります。その時に、この国は民主主義社会ですから、住民とコミュニケーションがとれていれば、うまくいくかもしれませんが、そうでないとうまくいかないかもしれない、あるいはそもそも判断できないかもしれないと気づきました。
だからこそ、それに伴ってコミュニケーションの重要性も増していると思っています。ただ同時に、一般的に見てみると、市民の皆さんからすると、「声上げてもどうせ世の中は変わらないじゃん」といったような諦めもあるかもしれません。他方で、行政職員の皆さんにとっては、「たくさんの声が出てきても対応しきれないよ」となるかもしれません。

「住民と行政の間のコミュニケーションは大事だよね」ということに、異を唱える方は多くないと思いますが、実際に、そのコミュニケーションの両端にいる方々に着目をしてみると、市民の皆さんも行政の皆さんも、うまく折り合いがついていない状況があるのではないのかな、という風に感じます。
それで、より詳細に見てみると、これまでも予算や計画ができましたという段階以降にパブコメをするということがあったわけですが、より早い段階で、いわゆる公聴と呼ばれるような取り組み―たとえばその1つが審議会であるだとか―はありました。ただし、基本的に、直接的な関係を持つ人間が参加をする形で話し合われることが多かったように思います。言ってしまえば、内々で一定の判断をして、骨格を作ってから、はじめて公に示すといったような形が多かった、と。その時、たとえば市民の皆さんからすると、ある意味で、どのように決まったか分からないものにしか触れられないことになります。さらに、行政側もより多角的な視点や考え方に触れる機会を逸しているのではないかと感じていました。

 

藤本さん:なるほど。方向性が定まってから意見を求められても、経緯等含めて判然としないということですね。

 

栗本さん:はい。なので、私たちとしては、より早い段階から官民のコミュニケーションが可能となる仕組みがあれば、アウトプットとして生まれてくる政策や計画の質も上がるかもしれないと思っています。それと同時に、決定前に意見聴取の段階があることで、市民の皆さんの納得感、引いては行政への信頼醸成に寄与するのではないかと見ています。

オンラインで対面のディスカッションを補完・拡充する

栗本:他方で、我々がより早い段階から取り組みをするといった時に、ここをすべてオンラインでやるべきと考えてるかと言うとそうではありません。これまでも行政の皆さんが取り組まれてきたような、市民対話の機会だとか、ワークショップ、対面によるリアルタイムの取り組みの重要性も存在していると考えています。たとえば、対面だとものすごい深い議論ができるとか、心理的安全性を確保した状態でディスカッションができるといったよさは間違いないよね、と。ただ、どうしても特定の場所に行かなければいけないとか、特定の時間を確保しなければいけないという点では、そこに包摂されない方々が出てしまうおそれがあります。

 

藤本さん:仕事とか、子育てとかやらなければいけないことが、それぞれたくさんありますからね。

 

栗本さん:おっしゃる通りです。これまでの対面の取り組みやリアルタイムの取り組みを補完する、拡充するという目的でオンラインプラットフォームを使うことが有効なのではないかと申し上げています。我々としては、オンラインプラットフォームこそが有用であるとは考えていません。

あくまでもオンラインプラットフォームは1つのツールであって、プラットフォームがあることで、より多様な方々が参加できるという可能性。そして、プロセスそのものを透明化でき、より担保できるであろう透明性。さらに、たとえば、マイクを握って話すのが得意とか、そこに来て何か伝えたい、ものすごい強い意見を持っていらっしゃるという方以外でも、参加をしやすいといったような公平性。この多様性、透明性、公平性、3つの観点がオンラインプラットフォームの強みかなと考えているところです。

 

藤本さん:大切ですね。

 

栗本さん:こうした発想をもとに、現在、市民参加型合意形成プラットフォームLiqlidを開発しております。これはウェブ上のシステムで、たとえば、行政から住民の皆さんに対する情報提供ができたり、あるいは行政側で何らかのアジェンダを決めたら、そのアジェンダに対して市民の皆さんが様々な意見を述べることができます。あるいは、こういったことやった方がいいんじゃないのと具体的な提案ができて、それに対して市民の皆さんが、チャットで提案できる、あるいは、場合によっては投票を含めて一気通貫で考えられますという仕組みです。

プラットフォーム内に、どのような傾向が投稿にあるか、どのような頻度で提案されているかを分析する機能もあります。たとえば、一言に、行政からの情報提供、あるいは、住民の皆さんからの様々な提案を、ただ単にテキストを媒介とするだけではなく、地図などを使って、より分かりやすく伝えることができるといったメディアとしての役割も内包しています。

さらに、通知の機能やプロフィールの機能はもちろん、あるいは、特にプロジェクト実施者は、ある意味で予期しない投稿であるとか、場合によっては誹謗中傷が起きないかをかなり懸念されます。

 

藤本さん:SNSなどを見れば想像できますが、来るんでしょうね。

 

栗本さん:我々としても気にしています。ただ、特定の単語が入っていたからと言って投稿できなくなるようにすることは避けていて、言論の自由や表現の自由を最大限担保しながら、同時に、リアルタイムで何らかの問題が起こった時に即応できるような体制を整備してきています。現状では、AIを使って、すべての投稿をウォッチングしていて、文脈解析までした上で、何かしら人の介入があった方がいいかもしれない投稿があった時に、事務局側に通知される機能を採用しています。

正直、デジタル技術上で一番簡単なものは、ある意味、特定のネガティブワードを投稿できないようにすることです。しかし、そのような、自由を侵害するおそれがあるやり方ではなく、なるべく自由を担保しながら、どのようにやったら、より負荷を低く、心理的に安全な場として担保できるか配慮しています。

 

既存の市民参加の手法との違い:双方向・機敏・アジャイル・学習

栗本さん:ほかにも、たとえば、途中から聞くことを変える、あたらしいことを聞くといったようなプロセスを進めていく中で、住民の皆さんに追加であたらしいことが聞けるといったような機敏性、アジャイル性、あるいは、住民の皆さんが、他の人の投稿も見えるわけです。

他の方々が投稿してる内容に同意して、投稿することもでき、返信することもできます。そういった観点で、プラットフォームに参加すること自体が学びになるかと思っています。このような、双方向性、機敏性、アジャイル性、そして学びになるかといったような観点が既存の市民参加の手法と異なるところかなと考えています。

これを様々な自治体さんと取り組みを進めているところで、都内では東村山市などと取り組みをはじめるところです。自治体の規模も様々で、一番小さな自治体は高知県の土佐町で人口4000人弱、高齢化率も40%を超えている自治体です。比較的大きなところだと、豊中市など中核市でも取り組みを進めています。

 

藤本さん:柏市って三井不動産とか東大がまちづくりに取り組んでいますよね

 

栗本さん:おっしゃる通りです。三井不動産、東京大学、千葉大学、柏市で、まちづくり会社を独自につくって、まちづくりをしています。

 

藤本さん:社会実験エリアがありますよね。高砂市でも取り組みをしているんですよね。実は、0歳から高砂市に住んでいました。

 

栗本さん:そうなんですか!?

 

藤本さん:そうなんですよ!

 

栗本さん:高砂市は、ちょうどこの6月から取り組みが始まりました。住民の皆さんから、Liqlidのようなシステムがあると、敷居が低くなって気楽に発言できるようになっていいとか、手軽でいいよねといったお話をいただいています。プラットフォームがあることで、他の方の意見や考え方を知ることができていいよねといったように。

 

藤本さん:他にも、木更津、結構頑張ってるんじゃないですか。デジタル関係のものを色々と導入していますよね。

 

栗本さん:おっしゃる通りです。渡辺市長もある程度イニシアチブをもって、進めていただいています。他の自治体では、たとえば、昨年度は、計画や構想、総合計画などを策定する時にお使いいただいています。あるいは、公有財産の活用ということで、なんらかの公共施設を建築をする、あるいはもう少し面的に市街地の整備を考えている際や、直近だと、たとえば公共施設の広域利用などを行う際に活用するケースもあります。

 

藤本さん:なるほど

 

栗本さん:はい。さらには、特定の政策課題についての公聴で、何らかの計画だとか構想に落とし込むところまでは決まっていないけれども、たとえば脱炭素や町内会について、市民の皆さんから幅広く意見を集める際にお使いいただいています。

今年度もう少し広がりがあり、リビングラボの取り組みと合わせて使いたいだとか、こども基本法に基づいて、市町村こども計画を策定をする時には、当事者であるこどもの皆さんの声を聞くことになっていたり。

そうした時に、今、ギガスクールもあって、1人1台の端末が担保されているので、プラットフォームが使えるのではないかというご相談をいただいています。そして、行政評価や実証事業を実施をするときに、市民参加型のニーズ調査であるとか、実証事業の事後的な評価をできないかというお話もあります。

さらに、くじ引き民主主義ということで、直近ですと、いくつかの自治体で気候市民会議などが開催されており、それと組み合わせられるのではないかとも考えています。現に、自治体の取り組みではないですが、若者の政治参加を推し進める一般社団法人「日本若者協議会」が事務局を務めている「日本版気候若者会議」に対しても弊社のプラットフォーム「Liqlid」を提供しています。

そして、鎌倉や木更津、壱岐などでは、全庁的なプラットフォームとして、1つの事業を実施する時にツールとして使うだけではなくて、自治体の統一的なプラットフォームとして導入して、その中で個別の課の皆さんがプラットフォームを共同利用していくといったようなモデルを現在、構築しています。

 

スマートシティの基盤―いつでも声を届けられる

栗本さん:たとえば他にも、鎌倉市では、スマートシティの基盤として導入いただいております。鎌倉市が、令和3年度の末にスマートシティ構想を定めましたが、スマートシティはあくまでも手段であると。何のための手段かというと、共生社会を共創するというための手段であるとお考えになっています。その時に、鎌倉市に関係する市民の皆さん、地域、企業、行政、ソーシャルセクターが共創していくことが重要であると考えられています。

鎌倉市であれば、特に市民と行政の接点を強化するとスマートシティ構想で謳っています。その構想が目指す市民の皆さんと行政の接点強化をより進めていくことになっています。そうした時に、今までのように、たとえば、行政側からアジェンダ設定をして市民の皆さんから意見をいただくだけではなくて、市民の皆さんと行政が一緒に考えていく場を作りたいとのことで、スマートシティの基盤として、合意形成プラットフォームを導入いただいております。

鎌倉市では、対面のワークショップとオンラインプラットフォームのものを相互に連携させることで、内容をどんどんどんどん深化させています。それだけでなく、対面ワークショップの際には、他のグループがどのような話をしているか、全体の話しあいにどのような傾向があるかをプラットフォーム上の分析機能で分かるようになってます。さらに、プラットフォーム上にワークショップの内容を載せることで、機敏性の高い情報伝達のツールにもなっています。

 

藤本さん:そういうファシリテーション自体もやっている、と。

 

栗本さん:おっしゃる通りです。あるいは柏の葉スマートシティで、取り組まれているリビングラボ中で、どうしても参加者が固定化されてしまうという課題があったため、より間口を広げたいということで使ってもらいました。

 

藤本さん:対象人口はどれぐらいなんですか?

 

栗本さん:地域内で1.6万人程度です。ちょうど2022年の12月からは、リビングラボでは、産前・産後の不安の時期をサポートする仕組みを作るというテーマが持ち込まれて、そのテーマを基にリビングラブの全体設計をやりました。今までだと事前のワークショップを数回やって、プロトタイピングをやって完了でしたが、Liqlid上で一定期間、意見を聞きながら、対面で出てきた意見をオンラインに載せ替え、あるいは対面のワークショップで考えたアイディアをオンラインに載せ替えて、より相互に幅広いフィードバックを得られました。

 

藤本さん:必要ですよね。それぞれ参加者が異なるわけですし。対面で参加している人、参加していない人の意見を参照し合うことはとても重要な意味があると思います。

デジタルプラットフォームで包摂は可能?

栗本さん:この取り組みが非常に私にとっても印象的でして、

 

藤本さん:子育て世代のこのワークショップ、参加できないですからね。

 

栗本さん:まさに!おっしゃる通りで、ちょうどこのテーマに取り組んでいる際に、オンライン上で、「産前・産後の生活で不安だったこと不安なこと」を聞いたところ、深夜の1時から4時にかなり切実な声を多くいただきました。1か月にトータルで200件以上の声が得られ、これがオンラインプラットフォームが多様性を可視化するってことなんだろうな、と実感しました。これまでだと、どうしても対面のワークショップに来られる方は、時間に都合がつけられる人だけでした。しかし、つねに声を届けられる仕組みがあることで、より多様な声を可視化できるようになるわけです。

 

藤本さん:いい声を拾われましたね!!

 

栗本さん:はい!これは非常に印象的でした。

 

藤本さん:なるほど。わかってきました。まちづくりに関して幅広い声を拾い上げることができるようになり、従来、可視化できていなかった声が見えてくるようになるわけですね。それで、行政としても政策づくりにとても有用な効果がある、と。すばらしいですね。なにか他にもオンラインプラットフォームを知る上でポイントになることはありますか?

 

栗本さん:そうですね。オンラインプラットフォームというツールを使うと、ご高齢の方を包摂できないのではないかという懸念を持たれる方が多いのですが

 

藤本さん:されないでしょ?

 

栗本さん:おっしゃる通りで、我々もされないと考えています。たとえば、高知県の日高村は、高齢化率が50パーセントに達しようとしている人口5000人程度の村です。そこで、あらたに健康アプリをつくる際に、Liqlidでニーズを集め、ご高齢の方々に投票していただいて、どのようなアプリを作るかを自分たちで決める取り組みをしました。ご高齢の方とはいえ、しっかりとしたサポートと目的性があればお使いいただけることが分かりました。ある意味で当たり前ではあるんですが、なかなかやってみないと実感できないケースも多いので、非常に印象的な取り組みとなりました。

まとめになりますが、このように、あくまでもLiquitousは、ツールを提供するだけではなく、取り組みに応じて必要なサポートも合わせて行い、Liqlidを1つの手段としながら、各地で市民の皆さんがより参加できるプロセスづくりをしている会社です。

 

藤本さん:いま、様々な企業が、システムを作っているじゃないですか。いわゆる、自治体のDXで、業務の庁内連携や、情報共有や合理化とかを伺ったりすることが多いです。ただ、結局、DX化というのは、何らかの価値を作り出したり、合理化してできた時間で何をするか、という目的をどのように設定するかだと思うんですけど、その辺はいかがですか?

市民との対話で重要な「問いの設計」

栗本さん:いつも話しているのは、プラットフォームを入れることがゴールではなくて、既存の、たとえば、政策形成の過程で使っていながら、市民の皆さんが参画できる空間を徐々に拡張すること、ひいてはあたらしい市民参画の仕組みで、場合によっては関わっている人のマインドセットに変化がもたらされるのではないかということです。

 

藤本さん:そこですよね。関わっている人が、姿勢とか取り組み方とかの行動変容が起こることがポイントになってきそうです。

パートナーになることが信頼の鍵になるのなら、顔とか自分を出して本当に向き合ってくれる人たちとパートナーシップを組むことで、お互いに学び合ったりで、どう変わっていくかという変化・変容がDXで見えてくるといいですよね。システムが信頼されるというよりもむしろ、その変わった人々が住民の方々に信頼されていくみたいなところで動いていくことになって。あたらしい文化を作るっていうところには大きな価値がありそうな気がします。この先は何がしたいんですか?

 

栗本さん:基本的には、何か物事を進めるときに一緒に考えることを自然なものとして根付かせたい。それが社会のマインドの変革にもなるし、「どうせ声あげても世の中変わらないじゃん」といったような、期待を持てない現状を変えることになるのではないかという想いはあります。

 

藤本さん:使うにしても、打ち出しのセンスがいりますよね。どういう問いを投げかけるか、とか。そこの画角をちょっとずつ変えていかなきゃいけないので。そこも学習が要りますよね。

 

栗本さん:おっしゃる通りです。我々も1番最初のタイミングは「問いの設計」と呼んでいます。そもそも、既存のアンケートのいわゆる自由記述欄の延長ではなく、何を問うかというところに時間をかける自治体さんが多いです。それが既存の境界を超えて学び合うことになるといいのかなと思います。

市民との基礎的なコミュニケーションインフラの整備の重要性

藤本さん:人と人との関係性の中で、長い目でまちを一緒に形作っていく。そのための基礎的なコミュニケーションインフラを整備しているという感じですかね。それが全部ベースになる。なるほど。

まちづくりに関わってきたんですが、現場でこういう仕組みはやっぱ必要だと思っています。自治体が自分でできない場合に、市民の声を直接聞こうとすると、やはり批判の声を聞くことが多くなる傾向があると思います。しかし、その批判を聞いていても、本当の声じゃなかったりするんです。こじれてしまっているというか。

だから、一緒に場づくりというかファシリテーションを、オンラインも併用しつつできるとありがたいと思います。住民も日常的に様々なことを考えていると思うので、そういう中で、それぞれの考えや困りごとをいつでも言えるのはすごく大事です。

そこに非常に価値があると思います。たとえば、社会的困窮者支援なんかでも、基本的には、24時間365日SOSが出せるシステムを作っておいて、それをサポートしたり、コメントを返すという仕組みを作る形で、支援体制を作っておかなければ対応できないことがほとんどになっています。だからツールなんですよね。同じ町に住んでいても直接的に伝えられないこともあるので。ですから、そういうのを拾っていくために、重要なお仕事をされていると思います。ただ、大変そうですね、大丈夫ですか。

 

栗本さん:実は、この参加のプロセスから一緒に作っていく仕事がとても性分として合っているので、楽しくやらせてもらっています。

対話の設計は国づくりと同じで面白い

藤本さん:モチベーションはどこにあるんですか?

 

栗本さん:もうシンプルに面白いことです。面白いなと思うのは、住民の声を聞かなきゃいけないっていうのは、ある意味、正しいじゃないですか。市民ともっと対話しましょう。行政はオープンであるべきです、とか。しかし、実際にやりきれるかというとむずかしい面もあります。リソースの問題とか。ですが、やはりその葛藤の中でもしっかりやりたいと思っている行政の方が多いのも事実です。我々がなにか提案できるとモチベーションが出てきて、職員さんも徐々に変わっていきます。同時に市民の皆さんも「あ、なんか変わるかも」っていうのが間近で見れるのも非常に面白いです。

私自身の原点にも非常に近い話があるんですが、私自身、両親ともにいわゆる共働きの世代で。共働きの世帯で、家で1人で遊んでることが多かったんです。一人っ子です。それで、4歳・5歳ぐらいの頃に国ごっこやって遊んでたんですよ。これは、たとえば、段ボールや紙を使って、パスポートを作ったりする遊びです。ほかにも、自分が考える内閣の一覧を作ったりしていました。ふと思ったのは、その時と多分、モチベーションとしては近いんだろうなって感じています。

 

藤本さん:その話いいじゃん。めっちゃ面白い。めちゃくちゃいいじゃないですか。

 

栗本さん:多分それをやっている時のモチベーションとあんまり変わらないと思っています。

 

藤本さん:それは楽しいでしょうね。うんうん。

 

栗本さん:この前ふと、そういえばそうだよなって気づきました。

 

DXの先にある福祉の増進

藤本さん:自治体の職員さん含めて、どういう人たちが、本当に困っているんでしょう。その本当に困っていることって、多分話を聞いてる人たちだし、住民の方と本気で向き合ってる人たちですよね。この町をどうしていけばいいだろうって人一倍考えてる職員さんたちがたくさんいるのは日々会うのでよく知っています。そういう人たちが実は多いですよね。本当に。前のめりで取り組んでいるからこそ困ってる人たちと、どういう仕事ができるのかなっていうのは気になります。

 

栗本さん:逆に言うと、前のめりな方々も、この瞬間に、もちろん、市民の皆さんの声を聞くという、各種の計画でも、市民参加機会の拡充を目指しますが、何をするのという具体的な手段まで落とすのは難しい面があります。言い方を変えれば、どのように実現するのか、明確にしきれないこともあります。

ただ、先ほども少し話をしたように、デジタル化、DX化で、効率化をした先にあるのは、元々の自治体としての本分を全うすることに立ち返ることになります。すると、地方自治法の第1条の2項に定めのある「福祉の増進」だと分かります。そこにはやはり当事者である市民の皆さんと向き合うことの重要性が明らかで、対話する必要性を認識する方が多いのかなと思います。

 

藤本さん:長くつきあってもらうって、やっぱり人じゃないですか。もちろん、相手の部署が変わったりとか、首長が変わったりで、方針が大きく変わったりとかも、これから長い時間の中であると思います。でも、結局、特に小さい自治体になってくると、出会う人、1人1人との関係がほぼすべてですよね。「日本で最も美しい村連合」というネットワークの審査員をやっているんですけど、各村はもう人口1000人ぐらいです。だから自治体の職員さんもとても少なくて、課題は多くて、災害も多いみたいなところばかりです。ただ、基本的に皆さんめちゃめちゃ頑張っています。

フルパワーでやっている中で、いろいろな人の力や助けを借りて、すこしでも良くしていきたいという思いが根底にあります。だから、そのコミットメントの深さで人間関係を築いていければ、息が長い仕事になるし、20年、30年経過する中で変わっていくこともあると思います。1人1人の職員さんに伴走する中で、それを語る言葉を共に生み出せるような関係性が生まれていくと、とても豊かなものが生まれそうですよね。結局、自信を持って自分たちの住む町のことを語る言葉、手触りのある言葉と言いますか、それをみんなが持たないと、まちづくりはうまくいかないので。時間がかかると思うんですけど、どう作っていくのかというところに期待しています。

 

栗本さん:ありがとうございます!

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制作:PublicAffairsJP編集部

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