パブリックに関わるキャリアを考える 第4回【イベントレポート】– 事業会社におけるパブリックアフェアーズの魅力とやりがい –

イベント

2021年6月18日(金)に、マカイラ株式会社の主催イベント「パブリックに関わるキャリアを考える 第4回」を開催しました。

今回ゲストとしてお迎えしたのは、株式会社メルカリ政策企画ディレクター(現在、執行役員VP of Public Policy)の吉川徳明さん、株式会社アンドパッドの上級執行役員法務部長兼アライアンス推進部長の岡本杏莉さんです。

お二人はそれぞれ事業会社でパブリックアフェアーズのお仕事をされています。FintechやEC、そして建設DXという異なる領域で活躍されるお二人から、「パブリックアフェアーズ(PA)という仕事を作り上げていく面白さ」をお話しいただきました。

イベント当日は、マカイラ株式会社コンサルタント・パブリックポリシーキャリア研究所所長の草野百合子と同社コンサルタントの箕輪佑樹が進行を務めました。今回はそれぞれの会社でのパブリックアフェアーズの仕事の形、業界の特徴、公務員や弁護士としてのスキルが活きる場面について、ダイジェストでお送りいたします。

吉川徳明さんプロフィール
株式会社メルカリ執行役員VP of Public Policy。経済産業省でIT政策、日本銀行(出向)で株式市場の調査・分析、内閣官房でTPP交渉等に従事。2014年、ヤフー株式会社に入社、政策企画部門で、国会議員、省庁(警察庁、総務省、金融庁等)、NGO等との折衝や業界横断の自主規制の策定に従事。2018年、メルカリに入社し政策企画マネージャーとして、eコマース分野やフィンテック分野を中心に、政策提言、自主規制の策定、ステークホルダーとの対話等に従事。2021年7月に現職。一般社団法人Fintech協会 理事、特定非営利活動法人 全国万引犯罪防止機構 理事も務める。
岡本杏莉さんプロフィール
日本/NY州法弁護士。2008年、西村あさひ法律事務所に入所。2014年、Stanford Law Schoolを卒業。2015年株式会社メルカリに入社し、日米の法務や資金調達、IPOを担当。2021年2月、株式会社アンドパッドに入社。現在、同社の経営戦略本部法務部長兼アライアンス推進部長を務め、法務やPA業務を担当する。

※役職等はイベント開催当時のものです。

それぞれの会社でのお仕事について

まず、お二人の現在のお仕事について伺いました。

吉川徳明(以下、吉川):メルカリのパブリックアフェアーズの仕事には、主に攻めと守りの二側面があります。

攻めの側面は、いわゆる政策提言・提案活動などを通じて、新しいビジネスが可能となるような法制度の改正や解釈の明確化などの環境整備を行う活動です。

メルカリには多種多様なモノが出品されますが、それぞれのモノに関連する法制度は多岐に渡します。また、メルペイの決済・与信サービスにも多くの法制度が関連します。そのため、安定的な事業成長を実現したり、新らしいサービスを始めるにあたって、こうした活動が重要になります。

守りの仕事は、ステークホルダーとの対話やアライアンス作りです。

メルカリは2000万人近いお客さまに使っていただいており、毎日様々なモノが出品されています。そして法律上は問題のない出品でも、「この出品は認めないでほしい」という要請をいただくこともあり、当局含むステークホルダーの方々との対話も重要な仕事の一つです。

また我々は地域課題の解決にも取り組んでおり、自治体の方々などとの連携を進めています。最近はメルカリ寄付という、メルカリの売り上げを寄付できるサービスを新たに作ってリリースしました。寄付先を広げていくにあたって、自治体やNPO、NGOなど非営利セクターとのアライアンス作りも大事になってきています。

こうした仕事は、メルカリの特徴だと思っています。

岡本杏莉(以下、岡本):私は、今年の2月からアンドパッドで法務部とアライアンス推進部を担当しています。法務部は一般的な事業会社の法務のお仕事ですが、今は部署の立ち上げ段階にあります。アライアンス推進部の仕事は、大きく二つに分かれています。

一つがビジネスアライアンスで、他の会社とのビジネスやプロダクトの連携を推進しています。

もう一つが今日のテーマに関連するパブリックアフェアーズです。私が入社する前には、この領域は専任の担当者はいませんでした。私自身も前職のときにPAを専門にしていたわけではなかったので、手探りでやらせていただいている部分もあるところです。

この部署では、アンドパッドのミッション「幸せを築く人を、幸せに。」に基づいたPA活動を行なっています。幸せを築く人というのは、建物や道路などを作る建設現場で仕事をされている方々のことです。建設業界の現場環境はいまだに多くがアナログで、働く方が紙・電話・FAXを通した仕事に時間を取られているという現状があります。

そこで、建設業界全体の長時間労働や、過酷な労働環境からくる人手不足などの課題を、建設DXを推進することで解決していきたいと考えています。

これを実現するには、国交省など行政の打ち出す政策ともアラインメントを取りながら進めていかなければいけません。それがアンドパッドのパブリックアフェアーズとしてやるべき仕事だと思っています。

それぞれの業界のパブリックアフェアーズ

今回は、お二人のバックグラウンドから、国家公務員や弁護士といった仕事との違いや、そのキャリアの強みをどう活かしていけば良いのかということについてのご質問を多くいただいていました。

吉川:国家公務員でやる仕事と事業会社のPAでやる仕事は、やはり目的が違います。

事業会社のPAはあくまで事業活動の一環です。企業のPA活動の目的は、自社事業の安定的な成長や信頼獲得などにあるため、政策形成への貢献や社会課題の解決は副次的なもの、結果として実現するものと位置づけられます。ですがそのことは、PA活動が貪欲に個社の利益を追求するということを意味するわけではありません

PA活動によって実現したい政策や法律が個社の意見で決定するわけではありません。異なる意見、異なる利害を持った幅広いステークホルダーの方々との議論を通じて合意したものが実現します。したがって、PA活動で成果を上げようとすれば、自社の意見を押し通すのではなく、多くのステークホルダーが合意できるような内容を提示していくことになり、結果として社会課題の解決に貢献するような内容を主張していくことになります。

PA活動、すなわちルールメイキングに民間企業から関わることの面白さは、ルールの細部の執行部分や詳細の設計に携われることですね。

特にインターネット事業は法規制以上に自主規制が重要な役割を果たす場面も多く、行政の側にも公的規制をむやみに広げるというよりも一定程度自主規制に委ねて、それをフォローアップしていこうという意識が強いように思います。

大きな事件などが起きて政治やメディアの議論が過熱した時などは例外ですが、基本的にルール形成にあたって、事業会社側の自主規制を尊重していこうというのは広く合意されているように思います。そのため、ルールの細部や具体的な運用・執行は民間企業側で担うことが多いのです。

私が公務員として働いていた頃も、研究会などのとりまとめにあたって報告書などで、語尾が「〇〇することが望ましい」で終わるものが多くありました。「〇〇すべきである」「〇〇する義務がある」までは書かず、民間に細部の設計や運用を任せていました。民間企業では、「望ましい」と書いたルール作りのその先に関わることができます。

岡本:業界によってステークホルダー、既存のプレイヤーの方々の構成や意見が様々だと思います。その中で自分たちがどういうポジションをとって、何をやろうとしているのかというところ次第で、PAとしてどういう動きをしていくかは異なっていきます。

例えば、扱うビジネスが新しいものであり、それに対して新しいルールを作ろうというところであれば業界団体などを作ったりしていくことになると思います。一方で、ライドシェアや民泊などのように、すでに多くのプレイヤーがいる伝統的な業界に参入する新しいビジネスモデルであれば、既存の法規制の枠組みをどう変えていくかということも争点になると思います。

国家公務員や弁護士の強みを活かしていくために

吉川:公務員の方々の進路やキャリアの相談に乗ると、「自分の強みってなんなんだろう」という悩みをお持ちの方が多いと感じます。2〜3年で部署をローテーションするから強みとなる分野がない、ジェネラリストで専門性がないという悩みは共通だなと感じます。

確かにそういった面はあるのですが、民間企業で仕事をしている立場から見ると、一つの分野の法令等に詳しいことだけが専門性ではないと思います。

スタートアップが参入するような業界は、競争環境の変化が速いので、特定の分野の専門性に加えて、変化する競争環境にすばやくキャッチアップできることが重要なポイントです。

また、専門性なるものをもっと広くとらえてよいと思います。例えば、合意形成力、またその前提となる論点整理・抽出の能力に関しては、組織で仕事を進めるうえで非常に重要な要素ですが、公務員として複雑な調整を担っている方は、非常に武器になる専門性を持っていると言えます。

例えば、いわゆる総括業務を担当する部署では、広くいろいろな部署の業務を取りまとめることがあります。そのとりまとめのプロセスでは、国会議員や各省庁の幹部などその分野に必ずしも詳しくない方々に、限られた時間で論点を理解してもらい、合意してもらう必要があります。こうしたプロセスをしっかり管理し、成果を実現できる人材は、民間企業においても、重要な経営課題に対する意思決定に貢献できる可能性が高いです。

このような、調整力や合意形成力といったスキルは履歴書に書くのが難しく、なかなかアピールしにくいと思いますが、メルカリ政策企画の採用においては、特定分野の知識以上に、こうした力を評価することに重きを置いています。

岡本:弁護士の強みを一つ挙げるとすれば、法規制に関する話を押さえておけることだと思います。

やはりパブリックアフェアーズの仕事の中では法規制が重要になる場面が多く、現行の法律や規制の枠組みはどうなっているのか、新しい事業をやる際にはそれをどう変えていかなければならないかということを理解しておかなければいけない場面は多いです。そこにおいて、弁護士や法務の経験がある方の強みは活きるかなと思っています。

ただ、吉川さんがおっしゃったように、特定の法律にすごく詳しい人が求められているということとは少し違うのかなと思います。

例えば私自身も今アンドパッドで取り扱うのは建設業法など特殊な法律になるのですが、これまで建設業法に関わる経験があったわけではなく、ほとんどゼロに近いところから勉強しています。

弁護士にはスペシャリストももちろんいますが、一般のジェネラルコーポレートや企業内法務では、その時々で問題になる各種の法律などについて、都度そのルールを調べていくようなことが多いです。それが柔軟にできることや、法律の趣旨や背景を掴み、変えていく場合の案を考えられることは、弁護士や法務経験者の強みだと思います。

キャリア構築の中のPA

後半は、参加者の方からの質問も交えて進めました。

質問者:吉川さんは、どういった経緯で今のお仕事を選ばれたのですか?

吉川:元々、先ほど述べたように、自主規制が大きな役割を担うインターネット分野においては、民間側に動いて、ルールの細部の設計や運営・執行に携わりたいという思いがありました。

また、東日本大震災の際にIT企業と一緒に仕事をする中、社会課題を自社サービスを通じて解決していくことの影響度の大きさを目の当たりにしました。そうしたIT企業の中でもヤフーのパフォーマンスは突出していたと感じていました。

正直、この仕事を始めた当初は「公務員としての能力がすぐ活かせる」という理由で選んだのでやや引け目を感じていました。公務員の目線からだと、企業でやっているPublic Affairsの活動や実務のイメージがあまり湧かないんですよね。

ですが当初感じていた引け目の部分は、実際にはあまりなかったです。いつの間にかいろんな方に必要とされ、転職先の候補としても考えていただける職種になってきていて、時代は変わるものだなぁ、不思議なものだなぁと思っています。

質問者:岡本さんは、どういったご経緯でアンドパッドに入社されたんですか?

岡本:バックグラウンドに建設業界との関わりがあったというより、先にアンドパッドという会社自体への興味があったという形です。

メルカリで一度スタートアップ企業での仕事を経験させていただき、次に入るならまた、日本発で、世界からも注目してもらえるような規模にまで成長できるようなスタートアップが良いと思っていました。そうした会社は少ない上、その成長期に参画できるというのは魅力的なチャンスでした。

アンドパッドに惹かれた理由のもう一つは、事業のポテンシャルです。建設は衣食住のうち「住」というベーシックニーズを担っており、とても重要な産業です。なおかつそこのデジタル化を支える会社が今まだ存在しておらず、アンドパッドにはそのポジションをこれから取っていくポテンシャルがあると思いました。

質問者:岡本さんのアライアンス推進やPA業務の中で、経営部門と関わる機会はございますか?また、経営自体への関心はございますか?

岡本:実際に今の仕事の中でも、経営戦略のチームと関わる機会は多くあります。

私の担当している法務部とアライアンス推進部は経営戦略本部の中に位置づけられています。経営戦略本部はその時々で優先度の高い経営課題に取り組む部署です。プロジェクト単位であまり役割を限定せずに動く部署なので、経営陣との距離も近いです。経営戦略本部担当役員の取締役CFOの荻野や、CEOの稲田とミーティングで話す機会も多くあります。

経営陣との距離が近いというのは、ベンチャー企業のPAに携わることの良いことの一つなのかもしれません。アライアンス推進は、経営戦略全体の中で進め方を考えていくことになるので、経営の一端を担っていると感じられることもやりがいだと思っています。

質問者:新卒ファーストキャリアとしてのPAは可能でしょうか?また新卒として他に経験しておいた方が良い職種を経教えていただきたいです。

吉川:新卒でPAの仕事に就くことは、現時点では難しいのではないかというのが私の印象です。メルカリの政策企画チームも新卒の採用は、まだ行っていません。もちろん、この先、規模が大きい会社から徐々に育成プロセスなども整備されてくれば可能になっていくと思いますが、現時点のメルカリ政策企画の状況を見ると、まだ早いかなという気がしています。

将来PAを見据えてどんなファーストキャリアがいいかというのは、正直分からないです。
公務員になればその経験は活かせるだろうけれど、将来PAで働くために公務員というのももったいないという気がします。だから初めは、チャレンジしたい課題がある領域に取り組めばいいと思います。

岡本:我々もまだ、現時点では、PAとして新卒の方をお迎えできる状況にはないかなと思います。

私自身の経験を語ると、特殊ではありますが弁護士事務所というプロフェッショナルファームがファーストキャリアだったというのはありがたかったです。仕事の量や質、メンタル的な意味で大変ではあったものの、その反面教育をしっかりしてくれたところは良い経験でした。それを一回経験すれば、色んなところに行きやすくなるのかもしれないと個人的に思います。

新しい仕事であるPAの面白さ

吉川:今の政策企画は、あまりかっちり領域を決めず会社や事業のためになることを考えていく段階だと思っています。

昔、瀧本哲史先生の授業のお手伝いをしていたときに「新しい仕事を作る気概でやってください」とよく「煽られ」ていたんですよね(笑)。ただ、結構本質的なこの仕事の面白さを捉えているなと思って、確かに事業活動の一環としてやっているので当然会社への事業成長に貢献するのが目的ではあるんですが、「自分は新しい仕事を作っているんだ」という気概でやるのが楽しいし、結果的に成果も出るし、いろんな人に興味を持ってもらえるのかなと思います。

岡本:現在アンドパッドのPAは、ミッションに掲げる建設業界の課題の解決を事業の意義と捉えています。

そして、建設業という巨大産業、人々の生活を支える業界を立て直すという大きなミッションに向かって本気で取り組んでいるというのは、面白さでもあると思っています。

アライアンスの仕事は、自分たちの会社の事業を進めていくための活動の一部としてやっていることではあるのですが、例えば事業推進をするためにこの法律が支障になっているから変えたいというような目線だけではなく、業界全体を良くしたいというもっと高いところを目指しているのは、やりがいの一つだと思っています。

最後に

吉川:今日話したことの中に、皆さんのキャリアにとってご参考になるところがあればいいなと思います。パブリックアフェアーズの仕事は、新しい仕事を作っていくという意味で面白いです。だからこそという不安もあるかとは思いますが、検討される際はぜひ、この仕事の新しさ、面白さの側面を見ていただけると。

岡本:PAの仕事を始めて、私の場合は部署の立ち上げや担うべき役割を考えるところから今まさに作り上げているところです。そういった大変さはありつつも、他にはない面白さでもあると思っています。今日のお話で、そうしたところが少しでも伝われば良いなと思います。

 

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制作:PublicAffairsJP編集部

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