マカイラ 藤井宏一郎:パブリックアフェアーズで社会の停滞を解消する

キャリア

注目のパブリックアフェアーズ(PA: Public Affairs)プロフェッショナルに、キャリアと仕事を語ってもらおうというPA人材名鑑。最初となる今回はマカイラの藤井宏一郎さんにお話を聞きます。

文部科学省、外資系PR企業、Google、そして起業……それらのキャリアをひもとくとともに、パブリックアフェアーズ専門メディア「パブリックアフェアーズJP 」とパブリックアフェアーズの専門人材紹介サービス「Pubcari」を立ち上げに込めた想いを聞きました。

藤井宏一郎プロフィール
マカイラ株式会社代表取締役。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授。テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。東京大学法学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営学院卒 MBA(マーケティング及び公共非営利組織運営専攻)。PHP総研コンサルティングフェロー。国際協力団体・一般社団法人ボランティアプラットフォーム顧問。NPO法人情報通信政策フォーラム(ICPF)理事。日本 PR 協会認定 PR プランナー

パブリックアフェアーズという仕事

ーーマカイラの考えるパブリックアフェーアーズの定義とは?

公共課題に関する戦略コミュニケーションとステークホルダーエンゲージメント。広義のPR(パブリックリレーションズ=利害関係者との戦略的関係構築活動)のなかで、主に政府などを相手にする公共政策的な要素の強いもの。世の中を変えるような新しい技術・ビジネスモデル制度を導入する際に、社会の様々な利害関係者との間で必要なる調整・交渉や普及啓発活動を行う。

(なお「広義のPR」といっても「PR会社やPR担当者の仕事」とは限らない。パブリックアフェアーズプロフェッショナルは日本では「渉外」「公共政策」などの肩書を持つことが多い。また法務・経営企画・マーケティングなどの肩書でパブリックアフェアーズを担当していることも多い。)

ーーパブリックアフェアーズという仕事をするなかで、大事にしているのは?

マカイラというコンサルティング会社を5年前に立ち上げましたが、当社では、仕事を引き受ける基準を3つ設けています。

まずは、ソーシャルグッド、社会的な便益が全体として増えるかどうか。次が、イノベーションフォーカス。新しいものが必ずしも良いというわけではなく、残すべきものもある。そのうえで判断基準は、社会を前進させるものかどうか。最後がノーレントシンキング、ゆがんだ規制で利権をつくらない。もちろん最初に手を挙げ制度整備をすすめた人がある程度利益を得ることは不可避だと思いますが、技術水準に達し安全基準をクリアした企業であれば同様に市場は開かれるというテクノロジーニュートラルであるべきだと考えています。

この3点について合致するプロジェクトでなければ、仕事は引き受けません。

ーーパブリックアフェアーズ分野で活躍するには、どんなスキルが求められるのでしょうか?

どんな仕事でも、パブリックアフェアーズに全く絡まない仕事というのはほぼないかと思います。官僚、メディア、弁護士、議員、議員秘書、NPO・NGOのキャンペーン担当者、戦略コンサル、産業アナリスト、広報・メディアリレーションズなど、自分の仕事をパブリックアフェアーズだと認識している人はまだ少ないかもしれませんが、私は、みんな仲間だと思っています。

具体的には、当該産業のヴィジョンを描き、マルチステークホルダーがwin-winになる仮説を立て、法や制度を設計する。そのために、OSINT(open source intelligence、公開情報を解析して提言をまとめる)と、HUMINT(human intelligence、非公式の情報を得られる人的ネットワークを有する)の能力が求められます。

「藤井宏一郎」のキャリア

ーー最初のキャリアとして、1999年に文部科学省に入省されていますね。もともとの関心は?

ずっと関心があったのは、活版印刷と宗教改革、航海技術の地政学的インパクトなど、科学技術と社会の関係です。

よく言われることでもありますが、イノベーションを技術革新と訳すのは十分ではない。むしろ重要なのは社会の文脈の方で、イノベーションが社会変革のシードになりうるという点です。どう新しい科学技術を社会にソフトランディングさせていくのかに、昔から興味がありました。

ーー文部科学省での担当は?

当時は、行政に経営をというニューパブリックマネジメントという概念がちょうど日本にも導入され始めた時期。科学技術庁で、原子力、宇宙、海洋といった多様なフィールドの産学連携や理解増進活動などについて学ぶなか、税金の投入は大きいが、政策効果がすぐには国民に還元されない、科学技術の分野での社会とのコミュニケーションの必要性について、深く考えさせられました。しかし、省庁では広報という仕事が全く重視されていなかった。これには違和感を覚えましたね。

マーケティングと公共・非営利組織運営を学びたい、学ぶならコトラーだと、ノースウェスタン大学のケロッグスクールへ留学。政府機関やNGOだけでなく、博物館・美術館などのマーケティングなどの研究を通し、政府と国民のコミュニケーションについて学び、2つのマスターを取得しました。

ーー帰国後は、科学技術とコミュニケーションに関連した業務に?

いいえ。実はアメリカで学んだことはすぐには活用するチャンスがなく……2005年に帰国してからは、文化庁国際課で条約交渉を担当しました。小泉・ブッシュ時代、知的財産、デジタルコンテンツに関する日米の規制改革の交渉では、アメリカの官民連携した交渉の強さを目の当たりにしました。

アメリカ側のバックにはハリウッドやシリコンバレーがいるのに、日本側のバッグには企業がいません。先端産業について民間からの政府へのインプットが皆無の状態はまずい、日本でも民間のロビイストが必要だと痛感し、2008年外資系PR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパンに転職して、パブリックアフェアーズ部門の立ち上げを行いました。

ーーその後2010年にはGoogleへ。

はい。Googleの当時抱えていた公共政策案件は、すべて担当しました。実は、今便利なストリートビューも、当時は撤退を考えるほど世間の風当たりが強かったのですが、プライバシーの問題をクリアし、安全であるという徹底的なコミュニケーションを構築するなど手を打ち、残すことができました。

2011年東日本大震災の時には、すぐに本国から、とにかくしばらくビジネスはしなくていい、復興支援に特化しろとの指令が来ました。Googleというのはそういうかっこいい会社でしたね。

2-3年すると、支援した復興プロジェクトが独り立ちしていく姿を見ることもできて、ひと段落かなと。また、同時にシェアリングエコノミーやSociety5.0が騒がれ始める前夜でもあって、新しいテクノロジーによる新しい事業が出てくるのであれば必ずパブリックアフェアーズが必要になる、その時には自分もそちら側にいたいとの気持ちから、2014年マカイラを創業しました。

当時ロビイングといえば、大企業のもの、もっと言ってしまうと大企業のエゴを押し通すためのものというイメージがあったと思います。当時、イノベーション産業に絞った価値主導型のパブリックアフェアーズをやるなんて言っていたのはうちだけ。ワシントンでもロンドンでも、ナイーブすぎる、ビジネスとして絶対成立しないと反対されましたが……まだ会社はありますね(笑)

ーー今、「パブリックアフェアーズJP 」とパブリックアフェアーズ専門の人材紹介サービス「Pubcari」を立ち上げたのは?

コトラーがマーケティング3.0で提唱したように、今は、どんなにデザイン的にかっこいい車でも環境負荷が高ければ売れません。民間と公共、市場と非市場という境界が消えていく時代、パブリックアフェアーズ的素養が求められるポストは増えており、人材を流動化させる必要がある。

ところが、日本では、パブリックアフェアーズ人材が圧倒的に不足している。IT企業間では、椅子取りゲームのようにパブリックアフェアーズポストを少人数でまわしているような状態です。

イノベーションを実現するのはベンチャーの役割でもあるので、なりふり構わない、いわゆる成り上がりカルチャーも必要だとは思います。現状のベンチャー業界は、武士道が成立する前、いわば勝ってなんぼの戦国時代。でも、武士が次第に禅や茶の湯といった文化的教養を身に着け、江戸時代に入って武士道など独自の規範を持つようになっていったのと同様に、上場するなど社会的影響力を持つにつれ、「大人」の企業になる必要があります。

社長が交代したUber、年配の社長を受け入れたGoogle、社長自身が成長しつづけるFacebookなど、企業はそれぞれの形でやんちゃな創業期を脱皮し、大人になっていきます。この移行を規制対応やレピュテーション管理、CSRなどの面で手助けするのもパブリックアフェアーズ人材に求められている役割です。

まずは、多くの方にパブリックアフェアーズを知ってもらい、業界内の知見を共有するために「パブリックアフェアーズJP」を、数多くのパブリックアフェアーズ・プロフェッショナルが活躍し、企業戦略と社会課題解決が連動するような、より良い社会を作るために「Pubcari」を、立ち上げました。

 

ーー最後に。これからパブリックアフェアーズ業界を目指す人の観点から「Pubcari」が提供する価値とは何でしょうか?

誰もが仕事を始めたときに持っていた理想というのがあると思います。その理想を今の職場で実現できますか?

例えば、官僚。国家天下を考えてきたのに、一外資に行く、一ベンチャーに行くというのは抵抗があるかもしれない。でも、まずは外資のパブリックアフェアーズ担当者として民間企業での経験をつんで、それから好きな領域で起業してもいい。日本のベンチャーの公共政策チームに入るのでもいい。また官僚に戻るという道も近い将来出来てくると思う。

これからの世の中、政府・民間・NPOの三領域であるトライセクターを横断的に活動していく人材が求められると思います。よりよい社会という理想を実現する方法はいろいろあるんだと、まずは情報発信し、転職機会を作ることで、多くの人がリボルビングドアの最初のチケットを手にする機会を増やしていきたい。

マカイラのゴールの一つに「リボルビングドアの止まり木になりたい」というのがあります。トライセクター・リーダーを目指す志と能力のある人に向け、止まり木のような場所、活動の基盤を用意したい。

日本型の官民NPOのリボルビングドアをつくることが、社会の停滞を解消するひとつのきっかけになると考えています。

 

制作:PublicAffairsJP編集部

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