青山社中 朝比奈一郎さん×マカイラ 藤井宏一郎:「本当の意味での人脈づくりとは。「自分の風景」を描けているか?」【対談後編】

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「日本を活性化する」という理念を旗印に、人づくり、政策づくり、組織づくりで多様な事業を展開している青山社中代表・朝比奈一郎さんと、マカイラCEO・藤井宏一郎の対談。

ミッションオリエンテッドで取り組むことの重要性をうかがった前編に続き、後編では、地域活性化事業のお話から、パブリックアフェアーズでは非常に重要な武器となる「人脈」のあり方についてお話をうかがいます。

塾生の問題提起をきっかけに始まった地域活性化事業

藤井宏一郎(以下、藤井):前編では人材、特にリーダー育成についてお話をうかがいました。ここからは、青山社中で手がけている地域活性化事業について詳しくお聞かせいただけますか。

朝比奈一郎さん(以下、朝比奈):現在、私が公式にアドバイザーを拝命しているところだけで、人口150万人超の川崎市から、約2万人の軽井沢町まで8つの市と町があります。

そのため、昔からずっと地域活性化事業を手がけているように思われることもあるのですが、実は、弊社の地域活性化の仕事は、私ではなく塾生の発案から始まったものなんです。

私自身は東京生まれの埼玉のニュータウン育ちで、経産省時代も地域活性とは縁がなく、これまであまり地域とのリレーションシップを感じることなく生活してきました。

しかしリーダー塾をはじめてすぐの2011年、安倍政権の地方創生より数年前のタイミングで、塾生たちに突き上げられたんです。

「朝比奈さんの講義ではグローバルに目を向けよと言われますが、日本の外需依存度は2割にも満たず、内需が8割です。国内、特に都会以外の地域の現状から目を背け、瘦せ細っていくのを、手をこまねいて見ていてはならないと思います」と。

藤井:さすがリーダー塾生、目の付けどころが違いますね。

朝比奈:「始動する」のがリーダー塾ですから、さっそく塾生たちとともに「NPO法人 地域から国を変える会」を立ち上げました。2012年のことです。

まず着手したのは、栃木県那須塩原市です。知り合いの政治家から相談されたのをきっかけに、「那須塩原市黒磯駅前及び周辺地域活性化懇談会」の座長を私が務め、自治体や地域住民の皆さんと徹底的に議論を重ね、黒磯駅前を活性化させる基本方針、いわば憲法のようなものをつくりました。生乳本州一の牧畜、温泉、皇室イメージや開拓の歴史など、地域資源を徹底的に意識しました。

また、地域住民の意見を取り入れるために、30〜40代の住民を中心に那須地域の活性化を考える「チーム那須」を結成。交通インフラや環境について議論し、市長に政策提言するなど、さまざまな活動を行ってきました。

藤井:次に手がけられたのが、新潟県三条市ですね。

朝比奈:三条市では、例えば商店街の活性化事業に取り組みました。商店街にお店を出したい人がいても、いきなり本格的に出店するのはハードルが高いという声があったんです。市役所の方々と一緒に、国の補助金を活用して米屋を改造し、商店街の中心的施設を設け、そこで「チャレンジショップ」の仕組みをつくりました。

例えば「水曜日の夜だけネイルショップをやってみる」というように、パートタイムで出店してまずはニーズを検証できるようにしたんです。

また、三条は刃物などに代表される400年の鍛冶技術を誇る地域ですから、そうした産品の海外展開も手伝うことになり、モスクワ(ロシア)やホーチミン(ベトナム)、成都(中国四川省)などとおつなぎしました。

モスクワでは日本大使館を活用し、ホーチミンではイオン、成都ではイトーヨーカドーをご紹介しました。ホーチミンにはその後、路面店として燕三条ショップが誕生しています。

藤井:それぞれの地域が抱える課題に対して、解決策を提示し、実践を支援しているんですね。

地場の人間による起業力を育てながら、地域と世界をつないでいく

朝比奈:地域活性にはさまざまな切り口がありますが、地域のニーズに応じてあれもこれもとやっていくうち、特に私たちが大切にしていくべきだと思う3つのポイントが見えてきました。

まず最も大切なのは、地域での「ひとづくり」です。地域経済活性化の施策として一般的に注目されることが多いのは、伝統的に企業誘致なんですよね。しかし今は成功事例が少なく、仮に誘致に成功しても、特に昨今は人手不足に困ることが多い。

そこで私たちは、企業誘致モデルではなく、たとえ数名程度の小規模な組織であっても、地場の方自身が事業を立ち上げ、自立することを目的として、本格的な起業塾立ち上げの支援をしました。ひとづくりから始めることの重要性を感じたのです。

実際に群馬県沼田市で2015年から始めた「ぬまた起業塾」は、私が塾頭を務め、沼田市長に会長に就任していただいて運営しています。市長は商工会議所会頭も務めた経済人で、市長選の公約として本格的な起業塾の設立を訴えていました。

起業塾は全国各地で立ち上げられていますが、その多くは、3~4回の講義で会社の設立の方法や財務諸表の読み方などを教えるにとどまっています。ぬまた起業塾では、実際に塾生が起業することを目的に約半年かけて、中小企業診断士の先生に伴走してもらいながら主にビジネスプランを作成してもらっているんです。

藤井:「起業の手続き」をメインに教える塾ではなく、「アクションの起こし方」「実際の事業の作り方」を教える塾なんですね。

朝比奈:そうです。沼田市以外にも、例えば前述した三条市の旧下田村地域では「しただ塾」の運営をサポートしています。いずれにしても、卒塾生からなる同窓会を立ち上げたり、地域の名だたる経済人にアドバイザー陣に加わってもらうなどして、地域総掛かりで実際の事業作りをサポートしています。

起業塾を開催するにあたり、私がこだわったのは地域のエコシステムを作ることでした。

「ぬまた起業塾」では、地元の信金の方に事務局長を務めてもらい、期や地域をまたいで人同士を紹介したり同窓会を開催したりしています。塾生同士が協力したり、人を紹介しあったりして、やがて一緒にビジネスを始められるようなリレーションが育っていくことを狙っています。

結果として、塾の卒業生のおおよそ6割が起業、事業承継、第二創業など、なんらかの創業的アクションを起こしていますね。

藤井:なるほど。それはすばらしいですね。

朝比奈:二つ目のポイントは、「まちづくり」です。例えば、地域の中心地や公共交通計画の見直しなど、「地域の顔・導線」を変えていくお手伝いを始めています。

具体的には今、埼玉県越谷市の「南越谷・新越谷駅前にぎわい創出支援事業」を手がけていて、先日報告書を提出したばかりです。最近注目され始めている「Sensuous City/官能都市」というキーワードを盛り込みました。耳慣れない言葉かもしれませんが、都市のあり方の新しい表現です。

高層ビルが建ち並び、駅へのアクセスが良いなど、効率重視の街づくりの対概念として、もっと多様で個性的な、五感に訴えかけてくる「官能的な魅力」を街に生み出そうというものです。例えば、ごちゃごちゃした賑わいの良さを活かすことなどですね。

南越谷地域は隣に巨大なイオンレイクタウンがあることも意識し、懇意にしているランドスケープデザイナーの方に委員に加わっていただくなどして協力してもらい、「手触り感のある賑わいづくり」をコンセプトに報告書を提出しました。

さらに三つ目のポイントとして、「海外との接点づくり」も重要です。今後、国内の人口が減少して市場が縮小するのは避けられないため、海外の勢いをどう取り込むかは経済活性化のカギとなります。

前述の三条市に加え、沼田市でも、中国四川省の成都やベトナムホーチミンでの展示・即売会をサポートしました。前者はイトーヨーカドー、後者はホーチミン髙島屋さんでやりました。普通の自治体がいわゆるレッドオーシャンになっている場所、例えば上海やニューヨークに行っても埋もれてしまいますので、これから伸びそうな場所を狙うのが有効だと思います。

イトーヨーカドーさんは、成都で既に9店舗展開していて、世界で一番売上があるのは国内ではなく成都の双楠店。成都にある伊勢丹以上に高級店にも見えます。ネクスト・マーケットでは、日本とは全然違うゲームが繰り広げられています。

その他、私たちが提唱しているのは、これからは新しい自治体外交をしていかねばならない、ということです。従来の自治体外交は、たとえば有田とマイセンという焼き物で発展した都市同士が姉妹都市提携を結ぶように、いわゆる似たもの同士の提携でした。

相乗効果で高め合う存在になれれば理想ですが、グローバルで考えたときには、市場を奪い合うライバル関係に陥ることもあるわけです。

私たちは、まったく特性の異なる都市と組むという発想、例えば海外の大都市と日本の小さな市で連携して、互いにシナジー効果を生むことを図ります。人口約90万人の四川省江油市と人口5万人弱の沼田市は、私たちのアレンジで、昨年MOU(基本合意書)を締結しました。

「自分の風景をもつこと」こそが、真の人脈となる

藤井:お話をうかがっていて注目すべきは、要所要所で朝比奈さんとキーパーソンがつながっているところですよね。今のお話だけでも、市長など自治体のさまざまな関係者はもちろんのこと、中小企業診断士協会、地元の信金、海外の日系店舗、ランドスケープデザイナー……と、続々とキーパーソンが登場してくる。

青山社中が少数精鋭で事業を展開させていけるのは、このネットワークに秘密があるんですね。

朝比奈:私、恐らく人使いが荒いんですよ(笑)。

藤井:いわば日本中、世界中に朝比奈さんのサポーターがいる状態ですよね。「人に頼める」というのを、「人脈がある」といってしまうのは簡単です。でも実際には、ただ知り合いであるだけでは、ここまでクリティカルに事業につながるリレーションは構築できないものです。

朝比奈:世の中には、「人脈」に対する誤解があると思います。人脈をつくるためには勉強会などに積極的に出ていって、名刺を配ってFacebookでつながって……といった方法論が取り沙汰されることが多いですよね。で、私あの人知ってます、となれば良いみたいに。

私は、そこに本質はないと思います。人脈というのは、「自分が相手を知っていること」ではなく、「相手が自分を知っている」ことが極めて大事なんです。

もちろん、勉強会や懇親会で知り合いになって、そこから深く共鳴していくこともあると思います。でもまずは、自分のことを相手に知ってもらわないと始まらないですよね。

どんな考えをもって、どんなことをしている人なのか——私は「人物の風景」と呼んでいるのですが、その「風景」がクリアに見える人間であれば、自ずと相手がすぐに認識してくれるようになります。

藤井:なるほど。「日本の活性化」というゆるぎないミッションをもっている朝比奈さんの風景が、相手に見えているから話がスムーズに運ぶわけですね。

朝比奈:単に「面白い奴がいるんだよ」ではなく「こういうことを考えて、こんなことをしている奴がいて、こう困っているんだけど、相談に乗ってやってくれないか?」という話ができたほうが、紹介する側も頼みやすいし、される側もスムーズに受け止められますよね。

だから一生懸命あちこちに顔を出していればいいわけではなくて、知ることより「知られること」。そのために、特に若い頃は、自分の風景をつくる基礎づくりが大事なんです。自分の中心線、いわば基軸ですね。マニアックな専門性とかぶることもありますが、必ずしも専門性でなくても構いません。

藤井:そのベースをつくるのが、まさにリーダー塾なんですね。パブリックアフェアーズの仕事で重要なのは、人脈形成だと思っている人が多いと思います。もちろん、そういう面もありますよ。ステークホルダーを深く理解し、業界の勢力図を把握して、いざとなったらキーパーソンに話を通せる関係性を構築しておくことは重要です。

クライアントの要望に応じてさまざまなイシューを扱うコンサルティングの場合は、とりわけ必要なスキルです。

しかし逆に、シングルイシューに取り組み続ける場合は、そういった、いわゆる「人脈」は必要ない場合が多い。

あるときパブリックアフェアーズに一切関わったことのない女性が、生活に密着した社会課題に対して、ひとりで旗を立て、声をあげました。すると共鳴の輪の中から、専門家やステークホルダーが芋づる式につながっていき、その後の制度変更に大きな影響を及ぼしたのです。

まるで昔話の『わらしべ長者』のようですよね。多くのキーパーソンを知っていて必要に応じてつなぐ「コネクタ型人脈形成」に比べ、共感をベースにつながっていく「わらしべ型人脈形成」は決して容易ではありません。

しかし世の中の流れとしては、どんどん「コネクタ型」から「わらしべ長者型」にスイッチしているのではないかと思います。

朝比奈:おっしゃる通りだと思います。「その女性の風景」がクリアに伝わりますよね。

藤井:SNSの普及によって、「人物の風景」はより発信しやすくなっています。デジタル社会が、本当のアクターは誰なのかを社会から浮かび上がらせることになりました。

私たちマカイラが「Advocacy for Innovation」を提唱して、理念に沿ったクライアント案件だけを選んで仕事をさせていただいているのも、私たちの風景をつくるためなんです。「このミッションのためなら採算度外視で取り組もう」と共鳴してくれる協力者も出てきますし、政治家や行政にも「マカイラが持ってくる話なら、まともな話だろう」と思ってもらえる。結果としてキーパーソンに導かれることも起こる。

この対談の冒頭では、朝比奈さんと青山社中の千手観音ぶりの秘密を解き明かしたいと言いましたが、答えが見えてきました。核は「自分の風景」にあり、それをしっかり描いているからこそ、10人のチームでも、世界を味方につけて実績を上げることができるんですね。

リーダーシップは後天的に身につけられる。思いをもって前へ進む意志を

藤井:青山社中が人材育成のために取り組んでいる「リーダー塾」、2020年度には10期生を迎えるそうですね。

朝比奈:はい。5月開講になりますが、リーダー塾は5年プログラムで、特に後述する座学編では、「基軸力」と「構想力」を磨き上げることを目的としています。

最初の1年間は座学編でして、週に1回毎週土曜の10時半~13時頃まで私が講義を行います。2年目からは実践編で、実際にリーダーとして歩み出してもらうためにどんな道を進むべきか、コンサルティングをします。

リーダー塾で大切にしているのは多様性です。約12名の小人数制なので限界はありますが、場合によっては私より年上の塾生もいれば、10代の学生が入ってくることもあります。公務員、サラリーマンから、起業家や医師・弁護士・会計士など、バックグラウンドもさまざまですね。

藤井:パブリックアフェアーズに興味があるけれど、未経験ゆえに道がわからず立ち止まっている社会人や学生も多くいます。そういう人でも受け入れてもらえるのでしょうか。

朝比奈:もちろんです。志をもってチャレンジする人を歓迎する塾ですから、経験は問いません。

藤井:「基軸力と構想力」というお話がありましたが、こういった資質は後天的に身につけられるものなのでしょうか。志があっても、そこに自信が持てない人もいますよね。

朝比奈:私は、リーダーシップとはスキルだと考えています。リーダーという言葉には、どうしても生まれつきの性質のような印象がありますね。わかりやすく言うと、クラスの学級委員や生徒会長、サークルのキャプテンなどを務めるタイプというのでしょうか。

でも私自身はそういう役割を、大学を出るまで基本的に何もやったことがないんですよ。

藤井:そうなんですか! 意外ですね。

朝比奈:はい、私はいわゆる図書委員タイプで、生徒会役員なども務めたことがありません。大学のサークルも合宿係など、いわゆる「リーダー」とは関係のないところにいたんです。

藤井:そんな朝比奈さんが、リーダーシップに目覚めた瞬間はいつ訪れたのでしょうか。

朝比奈:きっかけは2回ありました。まずはファーストキャリアである通商産業省(現・経済産業省)での仲間との出会いでした。日本の経済をよくしようとする改革省庁ですから、それぞれ志をもって「上司が何を言おうと、俺はやる!」というタイプの人間が多いんです。私はそこまで熱い人間ではなかったんですが、やはり感化されましたね。

次の機会は、ハーバード大学行政大学院(ケネディスクール)への留学です。ケネディスクールではリーダーシップ論を学びましたが、ケーススタディで出てくるリーダーは、必ずしも「地位の高い人」ではないことを教わってハッとさせられたんです。

例えばキング牧師はアフリカ系アメリカ人などの権利向上につとめた、いわゆる公民権運動のリーダーとして有名ですが、別に「黒人解放連盟会長」的な立派な肩書きがあったわけではありません。あくまで一介の牧師でした。で、「キング牧師」。こんな言葉はないですが、平社員ならぬ平(ひら)牧師です。

最近ではグレタ・トゥーンベリさんが注目されていますが、彼女もたくさん部下を率いて活動しているわけではありません。いち高校生でも強い思いをもってアクションするから、リーダー(=始動者)なんです。

大事なのは思いをもって、行動する力。その基礎が自分は何をするのかをしっかり意識する基軸力、そして、絵を描いて実際に進めるようにする構想力であり、後天的に身につけることができるものです。リーダー塾ではこの部分を重視した教育をしています。物事を変える勇気をもって突き進む人を、どんどん後押ししていきたいですね。

青山社中リーダー塾 第10期生募集ページ

朝比奈一郎さん プロフィール
1973年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。経済産業省ではエネルギー政策、インフラ輸出政策、経済協力政策、特殊法人・独立行政法人改革などに携わる。「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」初代代表。経産省退職後、2010年に青山社中株式会社を設立。政策支援・シンクタンク、コンサルティング業務、教育・リーダー育成を行う。その他、自治体(三条市、那須塩原市、川崎市、沼田市、生駒市、妙高市、軽井沢町、越谷市)のアドバイザー、内閣官房地域活性化伝道師、内閣府クールジャパン地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授なども務める。
藤井宏一郎 プロフィール
マカイラ株式会社代表取締役。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授。テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。東京大学法学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営学院卒 MBA(マーケティング及び公共非営利組織運営専攻)。PHP総研コンサルティングフェロー。国際協力団体・一般社団法人ボランティアプラットフォーム顧問。NPO法人情報通信政策フォーラム(ICPF)理事。日本 PR 協会認定 PR プランナー

 

 

構成:伊藤宏子/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)

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