青山社中 朝比奈一郎さん×マカイラ 藤井宏一郎:「日本を活性化するためには、“始動者”(リーダー)が必要」【対談前編】

PA人材名鑑

「パブリック(公)」と「プライベート(個)」の境界線は、時代と共に曖昧になりつつある——だからこそ現在の社会において、各セクターを仲介するパブリックアフェアーズの重要性が高まっています。

今回私たちは、パブリックアフェアーズの領域において、人づくり、政策づくり、組織づくりなど多方面で実績を上げ続けている、青山社中株式会社の代表・朝比奈一郎さんをたずねました。

「世界に誇れ、世界で戦える日本を創る」を理念に掲げ、激動の時代を切り拓く青山社中。社員10名(副業・兼業を含む。インターンを除く)と小さなチームでありながら、日本のあるべき姿を実現するため、多角的に活動されています。

マカイラ代表の藤井宏一郎を聞き手に、青山社中が注力する「リーダー育成」と、さまざまな施策を実現する「人とのつながり」の在り方に迫っていきます。

「日本の活性化」という理念を旗印に、歯をくいしばってなんでもやる

藤井宏一郎(以下、藤井):朝比奈さん率いる青山社中の活動を拝見していますと、非常に手広くさまざまな領域で活躍されているなと、いつも感銘を受けています。

リーダー育成塾をはじめとする人材育成が事業の一つの軸でありながら、コンサルティング会社としても、またシンクタンクとしても機能しています。少人数でそれだけの事業を展開されているさまは、まるで千手観音のようだなと。

今日は、なぜこれだけの少数制でそこまでできるのか、またどういった理念に基づいて活動されているのかをひもといていきたいと思います。

まずは改めて、青山社中の事業内容についてお聞かせいただけますか。

朝比奈一郎(以下、朝比奈):そもそもこの会社を立ち上げたのは、ごく単純な動機です。「今の日本は元気がない。日本を元気にしたい」と思ったのがはじまりでした。

千手観音はちょっと大袈裟ですが(笑)、「日本の活性化」という理念に基づいて必要だと思うことに取り組んでいたら、気がついてみると広がっていた、といったところです。

青山社中の事業には、大きく4つの柱があります。

第一の柱は、「ひとづくり」。日本の活性化のカギになるリーダーの育成です。私は「始動者育成」と呼んでいます。

リーダーという英語は和訳するときに「指導者」とされることが多いですが、私はこれは誤訳だと思っています。これだと、どうしても他者を導くイメージが強い。「始動」する者、つまり自分で考えて動いて、「何かを始める者」であることが、本当の意味でのリーダーの意味だと考えているんです。

始動者がいないと日本の活性化はなしえませんから、私たちにとっては最も重要な柱です。具体的には「青山社中リーダー塾」や、「青山社中リーダーシップ公共政策学校」を運営しています。

第二の柱は、主に自治体を対象とした、地域活性化のためのコンサルティングなどです。

日本では明治の頃から中央集権体制が敷かれてきましたが、それはもう時代にそぐわないものとなりつつあります。今の日本の元気のなさはつまるところ、地方の元気のなさが蓄積されてきた結果なのではないでしょうか。私たちは、明治維新の反対、すなわち「逆維新」が必要だと常々言っています。

私たちは、基礎自治体やそこで暮らす方々に寄り添いながら、地域にいる方自身が考え、仕組みをつくって当該地域を活性化していくためのコンサルティングを行っています。

日本各地でさまざまなプロジェクトに携わっていますが、私が公式にアドバイザーを拝命しているところだけで8つの市と町があります。

第三の柱は、「政策づくり」です。霞が関にいた立場から申しあげると、日本にはシンクタンクが足りない。もっというと、本質的には「政治を支えるシンクタンクがない」というのが現状です。

大きく分けるとシンクタンクの類型は3つあります。1つは行政受託型。これは日本にたくさんあります。省庁の仕事を受託して調査研究するような業態です。

2つめは大学型というのでしょうか。研究者を抱え、その研究者が論考を発表するような業態です。皆さん優秀で論考の質も高いのですが、現実社会に直接的に影響を与えるような活動ではないことが多いです。

3つめは、政治家や政党の手足となり、頭脳となるシンクタンクです。私たちはこの第3の類型にあたります。これが、今の日本にはあまりないんですよ。我々がほぼ唯一かも知れません。

藤井:アメリカに多くあるシンクタンクは、この第3の類型に近いものですか?

朝比奈:そうですね。アメリカでは共和党系、民主党系と政党に寄り添う形でシンクタンクが存在し、政権交代の際には戦略を練ってさまざまな政策を生み出しています。シンクタンクが具体的に政権に入り込んでいくわけですが、これはなかなか日本では実現しません。

日本のシンクタンクは政党ではなく各省庁にひもづいていて、法案や予算などの作成に関わっていく動きが主です。私は、シンクタンクが政治の側から政策提言を行うなど、もっと積極的に動くべきだと思っているんです。

そして第四の柱が、「世界とのつながりづくり」です。国内の人口減に伴いマーケットが縮小していく中で、世界とどうつながっていくか。それが、今後の日本にとって重要課題ですからね。

当社では、例えば日本各地の特産品等の世界への発信や実売支援、インバウンドのお手伝い、日中両国の若手が参加するリーダー会議開催のサポートなど、必要に応じて多岐にわたる活動をしています。最近では、新しい自治体外交の手伝いなどもしています。

藤井:人材育成だけ、地域活性施策だけを担う企業・団体は多々ありますが、ここまで多角的に日本の活性化に取り組んでいるのは、青山社中さんの他にないと思います。唯一無二ですね。

朝比奈:青山社中は株式会社という形態をとっていますが、講学上の営利法人か非営利法人かはどうかは正直どちらでもいいんです。全体として回っていれば。私は「理念中心法人」という言い方をしています。

日本で最初に成立した株式会社は、坂本龍馬がつくった「亀山社中」だという説もあります。亀山社中は今でいう商社的なビジネスをしていて、そういう意味では営利法人なのですが、一方で幕府の長州征伐の際には命がけで長州サイドについて助けたりしています。命を落としてしまうかもしれないのに日本の未来を考えて動く、まさに究極の非営利活動ですよね。

私たちは、日本の会社の原点に戻るんだという意志を込めて、亀山社中にあやかって「青山社中」という社名をつけました。

藤井さんのおっしゃる千手観音にはなかなかなれませんが、日本の未来のためになることなら、歯を食いしばってなんでもやろうと思っています。

立場ではなく、「ミッション」に軸足を置いたパブリックアフェアーズを

藤井:今、日本のパブリックアフェアーズ業界では、人材の流動化が進み、官と民の垣根が溶け始めていると感じています。

私たちマカイラのビジネスモデルは、民間企業が何か事業を進めるとき、どのように政府やNGOなどの公共非営利セクターを巻き込むかをコンサルティングしていくというもの。自分たちのビジネスや製品で世の中を変えていくにあたって、政府の支援がほしい、政府と一緒に考えていきたい、NGOやNPOと協働したい、という働きかけですね。

青山社中の場合は私たちとは逆に、官側から民間に働きかけがあって、一緒に施策を練って施策を推進していくことのほうが多いんですよね。

朝比奈:そうですね。もちろん民間企業と組んで公共に働きかける仕事もありますが、メインとなっているのは政府や自治体、或いは政党や政治家からの依頼です。

藤井:民間が政府に対して政策提言をしていく動きと、政府が民間に働きかけて知恵をもらい、制度や社会を変えていく動きは、やがて融合していくだろうと考えているんです。

朝比奈:おっしゃる通り、まさに今、その垣根は溶けています。

例えば、高齢化や地元商店の過疎化などを背景に、地方のみならず都市部でも「買い物弱者」の問題が深刻になっていますよね。本来は行政がすくいあげるべき課題ですが、旧来の公共施策の枠組みではもはや解決できない。

そこで民間企業が働きかけてくるのを受け身で待っているのではなく、むしろ省庁や自治体が積極的に民間の知恵を借りて解決していこうという姿勢が必要になってきています。こうした動きが、これから加速していくのは間違いありません。

藤井:民から官、官から民の働きかけを実践している人材そのものも、民間出身で公務員になる人、自治体から中央省庁に出向する人、省庁から民間に移る人と、非常に流動的です。最近は市民社会をベースに活動している人もそこに加わってきました。

朝比奈:確かに、ひと昔前は「産官学」という言葉が使われていましたが、最近では「公民学」と言うようになりましたね。行政や自治体などの「官」、或いはビジネスセクターという意味での「産」だけではカバーできないアクターが増えてきました。NPOや自治会などのコミュニティが典型ですが、それらも含めると「公民学」となるわけです。

藤井:パブリックアフェアーズに携わる人材のファーストキャリアは人それぞれですが、営利、非営利、公共の3つの枠組みが融合していくことになるのでしょうね。

朝比奈:ただどこに所属するか、肩書きが何なのかは、それほど重要ではありません。

今の日本は、どうしても人を肩書きで見がちです。就職ではなく「就社」だなどと揶揄されることもありますよね。藤井さんのように、自己紹介のとき「○○社の何某です」と言う代わりに「僕はパブリックアフェアーズをやっています」という言い方をする人はまだ珍しいですよね。

だからこそ私たちは、“ポジションオリエンテッド”ではなく、”ミッションオリエンテッド”であることにとことんこだわっているんです。日本を元気にするためにできることをやる。ポジションがつくとしたら、それは後からついてくるものでしかないと思いますね。

これからの民主主義を支えていくのは基軸力・構想力をもったリーダーだ

藤井:ミッションオリエンテッドであるべき、という点については私も同意します。民間・公共・社会の垣根を越えて活躍するトライセクター人材は、名刺の肩書きが何であるかが大事なのではありません。むしろ名刺の肩書きが変わったとしても一貫したミッションがあるからこそ、流動していけるわけですから。

例えば国土交通省に所属していた人が医療系ベンチャーに行こうとした場合、キャリアに一貫性がないと感じる人が多いかもしれない。しかしそこに確固たる信念や構想があってそれを語ることができれば、人を説得することができる。

青山社中が設立当初からずっとリーダー塾を続けているのも、そういう構想力、ミッション力を持つ人材を育成しようという朝比奈さんの強い意志からですよね。

朝比奈:そうですね。私たちが提唱しているリーダーの条件は、まず1つが「基軸力」。「自分は何者で、この人生で何をしたいのか」という軸です。

「さまざまな世の中の不条理を正していきたい」という想いもあれば、マイナスをプラスにすることでなくても、「こういう世の中になったらもっとワクワクするじゃないか」という想いもあるでしょう。自分の志=ミッションを持っていること、これが最も大切です。

2つめは、まさに藤井さんのおっしゃった「構想力」です。最近ではデザイン思考が注目されていますが、やはり想いだけでなく、具体的に絵を描ける力がないといけません。

リーダーとはすなわち、「Lead the self」です。Leadは目的語が集団であると誤解されがちですが、そうではありません。「自分自身をどう引っ張るのか」、その基軸と構想がなければ、結局歩み出すことはできないんです。

藤井:軸があるからこそ、トライセクターで流動的に立場を変えながら必要な行動をとっていけるわけで、軸がないと単にぐるぐるポジションを変え続けるだけの人になってしまいますからね。

朝比奈:例えば私たち青山社中の基軸は「日本の国益」であり、その旗印は明確です。パブリックアフェアーズやロビイングの仕事は、日本だとまだ「外資系企業の利益誘導をする手先なんじゃないか」と誤解されることも少なくありません。しかし私たちは常に、ご依頼いただいた案件に関して「この仕事は果たして国益になるのか?」と審議しています。そうした基軸さえあれば、自ずとお受けする仕事が選別されていきますね。

藤井:私たちマカイラが仕事をお引き受けするときも、軸となっている3つの要件があります。まずは「ソーシャルグッド」。社会全体で見たときにプラスになるのかマイナスになるのかを考えて、プラスになると結論が出ればやる、という判断です。

次に「イノベーション・フォーカス」。社会を前に動かすイノベーションに取り組む人を後押ししたい。いたずらに旧来の仕組みや既得権益を守るためだけに、イノベーションを潰すようなことはしません。

3つ目が「ノー・レントシーキング」。日本語でいうと「利権を作るな」。社会の規範やルールを、ある特定のマーケットの特定の企業に不当に利益誘導するためだけの作業はしない。

この3つの要件を満たす仕事は日本の国益につながるものですが、独善的な国益だけを考えていてもいけないですよね。これから、環境問題など地球規模での社会課題がどんどん拡大していく中、国益を守りながらも、世界から信頼される国である必要があります。サステナビリティの面でも、人権の面でも、しかり。真の民主主義国家を体現して、世界から信頼を獲得していかなければなりません。

朝比奈:おっしゃる通りです。さらには中国やロシアが採用しているような、政府が民間の経済活動に介入する国家資本主義がグローバルで台頭する中、日本がいかに勝負していくかを考える必要もある。

藤井:はい。一国の政府が他国に対する経済的手段を用いて影響力を行使し、国益を導こうとするエコノミック・ステイトクラフトに、日本はどう対抗していくかということが問われていますよね。

もちろん安全保障面から現実主義的な対抗策を講じていく必要はある。一方で、逆説的ではありますが、エコノミック・ステイトクラフトの時代だからこそ、市民社会の力を強くしていくことが求められていると思うんです。

朝比奈:民主主義というのは、悪い言い方をすると、互いに牽制するものなんですよね。なにか提言があれば必ず逆の方向性を示す人がいる。合意形成を図るのに時間がかかるわけです。国家の介入が大きく、個人の権利よりも圧倒的に公益・国益を優先するような超監視社会に比べたら、民主主義のスピード感は遅く、ある意味脆弱であるとも言えます。

その一見脆弱に見える民主主義を支えるのは、先ほど藤井さんがおっしゃった「市民社会」の力です。長い目で見れば、そちらの方が間違いが少なく安定性・持続性がある。そういう状況下で発揮されるものが私の追い求める「リーダーシップ」でもあります。制度や仕組みによって、上が押さえつける形で発揮されるものではなく。

つまり、正統に、或いは非正統的に然るべき地位を得た者が全員の足並みを揃えようとするマネジメント偏重の市民社会ではなく、個々が自分で最適解を考えて、自分でポジションをとって建設的に自分で動く、個のリーダーシップの集合こそが力になるのだと思います。

近年は欧米で話題のマネジメント手法が日本でも注目されていますが、あれは個々がリーダーとして自己を強く主張してくる欧米人向けのものだと考えておいたほうがいい。日本人はもともと、皆に合わせるマネジメントは世界一得意なんですから。むしろ、もっと「俺が、俺が」と建設的に「始動」していく姿勢を意識していきたいですね。

後編へ続く)

朝比奈一郎さん プロフィール
1973年生まれ。埼玉県出身。東京大学法学部卒業。ハーバード大行政大学院修了(修士)。経済産業省ではエネルギー政策、インフラ輸出政策、経済協力政策、特殊法人・独立行政法人改革などに携わる。「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」初代代表。経産省退職後、2010年に青山社中株式会社を設立。政策支援・シンクタンク、コンサルティング業務、教育・リーダー育成を行う。その他、自治体(三条市、那須塩原市、川崎市、沼田市、生駒市、妙高市、軽井沢町、越谷市)のアドバイザー、内閣官房地域活性化伝道師、内閣府クールジャパン地域プロデューサー、総務省地域力創造アドバイザー、ビジネス・ブレークスルー大学大学院客員教授なども務める。
藤井宏一郎 プロフィール
マカイラ株式会社代表取締役。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授。テクノロジー産業や非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、地域内コミュニケーションから国際関係まで広くカバーする。東京大学法学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営学院卒 MBA(マーケティング及び公共非営利組織運営専攻)。PHP総研コンサルティングフェロー。国際協力団体・一般社団法人ボランティアプラットフォーム顧問。NPO法人情報通信政策フォーラム(ICPF)理事。日本 PR 協会認定 PR プランナー

 

 

構成:伊藤宏子/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)

タイトルとURLをコピーしました