予算要求の暑い夏

事例

次年度予算の枠組みは8月に決まる!

企業やNGOなどがパブリックアフェアーズ活動を行う理由は様々ですが、その理由として多いものが「予算」の獲得になります。例えば、地方の創意工夫を凝らした活動に対する交付金であったり、企業や人々の行動変容を促すための支援金など、何らかの財政出動を政府に求めていくのが「予算」に関する活動です。

世間が夏休みをとっている8月は、政府、特に各省庁の関係者にとって、この予算の取りまとめの大変重要なポイントとなる、大変忙しい時期です。この機会に、日本政府の予算作成プロセスで、押さえておくべき点を整理したいと思います。

各省庁が守るべきルール

予算は、各省庁がそれぞれの担当政策分野で必要となる予算を積み上げた概算を、予算取りまとめ官庁である財務省に提出し、財務省がそれを精査していく、というプロセスを取ります。

この各省庁から財務省への概算要求の提出は、毎年8月末に締め切られます。この概算要求に含まれていない項目は次年度の予算に入ることはありませんので、次年度の予算で何かやりたければ、この8月末のデッドラインまでに動いておく必要があります(とはいえ、実際には8月に動き始めても遅く、いつ動き始めるべきかは後半で述べさせていただきます。)。

この概算要求にあたっては、毎年その1ヶ月前の7月下旬に各省庁が守るべきルールが財務省から示されます。各省庁から青天井に要求されても困る財務省としては、予めこの基準に従って要求しないと受け付けないということを示し、全省庁の大臣が揃う閣議で了解を得ることで各省庁を縛ることとしています。今年の場合は7月25日に、令和6年度予算編成にあたっての概算要求基準が閣議了解されました。(下図参照)

出典:財務省HP 令和6年度予算 概算要求基準閣議了解(令和5年7月25日)

行政担当者以外の人にとって、この図が何を言っているのか理解することは容易ではないかもしれません。少し解説すると、概算要求の対象となる予算の性格は、いくつかの種類または”枠”があります。ここでは、法令で支出が義務付けられている経費のように、任意に削ったり増やしたりできない「義務的経費」、省庁の独自のイニシアティブとして裁量的に予算を要求できる「裁量的経費」、重要な政策として、優先的に予算が確保されやすい「重点政策推進枠」などがあることを頭に入れておくといいでしょう。

細かい話になりますが、概算要求基準で、省庁の担当者が気にするのは「重点政策推進枠」にどれだけお金を積んでいいのかという点と「裁量的経費」はどれだけ減らさないといけないかのかという点です。今年は防衛予算およびこども予算という例外項目(現時点でキャップをはめない)がありますが、「地方交付税交付金等」「年金・医療等」「義務的経費」は予算要求段階で自分たちでなんとかなるものでもなく、多くの省庁担当者にとっては「重要政策推進枠」と「裁量的経費」に自分たちのやりたい政策の予算を盛り込んで要求することになります。

しかし上の図を見れば分かることですが、「重要政策推進枠」と「裁量的経費」では取り扱いが真逆です。「重要政策推進枠」に入れば特別な枠で予算が確保され要求も通りやすくなりますが、ここに入れず「裁量的経費」での要求となると前年度から各省庁1割削減が求められてしまいます。では、何が「重要政策推進枠」で、どうすればこの枠に入れるのでしょうか。

概算要求基準の「重要政策推進枠」の説明を見ると以下の通り書かれています。

構造的賃上げの実現、官民連携による投資の拡大、少子化対策・こども政策の抜本強化を含めた新しい資本主義の加速や防衛力の抜本的強化を始めとした我が国を取り巻く環境変化への対応など、重要政策課題に対応する等のため、「基本方針2023」及び「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」等をふまえた重要な政策について、「重要政策推進枠」を措置する。

「基本方針2023」はいわゆる骨太の方針、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」はいわゆる成長戦略ですが、つまるところその両文書に位置づけられている政策がこの「重要政策推進枠」の恩恵を受けることができる政策と言えます。

各省庁ともに6月に閣議決定される骨太の方針、成長戦略への記載を重視することがこのことからも分かるのではないでしょうか。

予算獲得のためのパブリックアフェアーズ活動はいつ動けばいいのか?

さて、8月末の概算要求に向け、7月25日に概算要求基準が示され、その重要政策推進枠に入るかどうかは6月の骨太の方針等に位置づけられているかということなのですが、パブリックアフェアーズ活動を行う身としては、じゃあいつ動き始めればいいのか、というのが一番気になる点だと思います。

以下で政府の年度予算が決まるまでの流れを簡単に押さえつつ、その点について考えていきたいと思います。なお、以下に示す時期は各省庁によって多少差異があり、あくまで流れとして理解していただければと思います。

  • 1月〜
    骨太の方針や成長戦略に載せるべき政策の検討が各省庁で行われます。各省庁の政策取りまとめ部局から各部局に検討を要請し、各部局では関係する業界団体や個別企業に話を聞くこともあります。
  • 4月〜
    この時期には、骨太の方針や成長戦略に掲載される項目がほぼ見通しがついています。その前提で、骨太の方針等に掲載されないものも含めて次年度の予算要求でどのような政策をどれくらいの金額で要求していくか検討が開始されます。部局ごとに案をまとめ、省庁の予算取りまとめ部署と議論が重ねられていきます。ここでも関係する業界団体や個別企業に話を聞くことがあります。
  • 6月中旬
    骨太の方針や成長戦略が閣議決定
  • 6月下旬から7月上旬
    省庁の幹部異動が行われます。4月から行われている予算要求の検討はこの人事異動の前までにある程度の形になっていることが一般です。予算担当部署は、そこまでやっておくことが自分たちの仕事であるとの認識で仕事を行っています。
  • 7月下旬
    概算要求基準」の閣議了解。上記参照。
  • 7〜8月
    慣行として各省庁は、関係する与党の部会で次年度の予算概算要求について了承を得ることとなっており、各省庁は、その会議で確実に了承が得られるよう事前に与党の主要関係議員に説明に回ります。一方で、各省庁でまとめられた予算概算要求の内容に不満を持つ業界団体は、先回りしてその不満の内容を議員にインプットしておき、省庁が説明しに来たときに再検討を促すことがあります。また、場合によっては有志議員等による要望書という形で省庁に提出されることもあります。
  • 8月末
    各省庁が予算概算要求を財務省に提出します。
  • 9月~12月
    各省庁は、財務省に対して予算概算要求の内容を説明。一度目の説明は9月に行われ、その後、財務省の査定段階で、必要に応じて何度も各省庁と財務省のやり取りがおこなわれます。
  • 12月下旬
    12月上旬に「予算編成の基本方針」をあらかじめ閣議決定したうえで、下旬に政府予算案を閣議決定します。最後の最後には、各省庁で最も懸案事項になる案件等において、各省庁の大臣と財務大臣が直接折衝を行い最終的な結論を得るという場面も恒例となっています。
    また、閣議決定前には、7〜8月に行われたのと同様に、各省庁は関係する与党の部会に財務省との調整状況を説明することになり、査定で削られそうな予算要求項目については、議員からハッパがかけられたりします。
  • 1月〜3月
    国会で審議され、例年3月中に予算が成立します。予算については、衆議院の優越が認められていますので、参議院が衆議院で議決した予算案をうけとった後、30日以内に議決しないときは、衆議院で議決した予算が成立することになります。このため、2月中に衆議院を通過していれば3月中には成立することとなります。

簡単ではありますが当初予算の成立までの流れになります。とにもかくにも予算は8月末の要求に入っていないと、その後どんなに頑張っても盛り込まれることはありません。

また、7月や8月に持って行っても既に省内では固まった後ということになります。したがって、企業としてはまずは骨太の方針等への打ち込みを狙って年明けの段階で打ち込みを行う必要があり、それがダメでも4月頃には次年度予算の案出し議論に参加できるようにしておくことが求められるということになります。

以上、読者の皆様の「予算」に関するパブリックアフェアーズ活動の参考になれば幸いです。

 

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制作:PublicAffairsJP編集部 / 城 譲 (マカイラ株式会社 執行役員 / Makaira Public Affairs 代表)

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