私たちは、政治を「自分から遠いもの」「批判の対象」と捉えがちではないでしょうか。SNSでも、さまざまな政治家や、国が打ち出す政策への批判を目にしない日はありません。「政治は変えられない」と、諦めている人も少なくないでしょう。
なぜ、社会課題を解決しようと奔走する政治家や官僚の方々と、国民の分断が起きてしまうのでしょうか。
そうした現行の政治の課題を捉え、それを解消するための仕組みを生み出そうとしているのが、株式会社PoliPoli代表の伊藤和真さんです。
伊藤さんは、大学1年生だった2018年にPoliPoliを起業。「社会の意思決定をサポートする」をミッションに掲げ、政治家と有権者をつなぐ政治プラットフォーム「PoliPoli」を運営しています。
現行の政治の仕組みにどんな課題を見出し、PoliPoliではそれをどう解消しようとしているのか、詳しくおうかがいしました。
株式会社PoliPoli CEO。 F Venturesの東京インターンとしてスタートアップ投資に関わった後、2018年春に毎日新聞社に俳句アプリを事業売却。現在、政治プラットフォーム PoliPoliを運営中。 慶應義塾大学4年生。現役学生としてはじめて、九州大学にて非常勤講師をつとめた。
イメージはクラウドファンディング。政策を応援する場を作る
──はじめに、伊藤さんたちが運営する政治プラットフォーム「PoliPoli」について教えてください。どのように「社会の意思決定」をサポートしているのでしょうか?
伊藤和真さん(以下、伊藤):「PoliPoli」は、政治家が自らの政策をプラットフォームに投稿し、賛成したユーザーが政策の推進に協力する仕組みです。
政策の目標や進め方、必要性などがインフォグラフィックスのようにわかりやすくまとめられているため、現状の課題や政策を進める理由が理解しやすくなっています。
──確かに、とてもわかりやすいですね。
伊藤:ありがとうございます。クラウドファンディングのように、政策を前に進めるために、応援者を募れる場を目指しています。「こんな政策を打ち出したいです」と政治家が提言して、有権者がついていくような仕組みですね。
──政策に賛成したユーザーは、どんな協力ができるんですか?
伊藤:政治家の方に対して応援メッセージを送ったり、直接会いに行ったりもできます。メッセージで政策への懸念点や参考になりそうな経験談などを伝えることもできますし、他の参加者とともに、政策をより良くするための議論もできます。
政策が進むと、政治家の方から活動報告が届くので、進捗状況の確認も可能です。自分の声が、政策を進める一歩になっていることを実感しやすい設計にしています。
またユーザーが何かしらのアクションをすると、「Polin(ポリン)」というポイントが貯まっていきます。そのポイントを使うと、政治家の方から投稿された政策だけではなく、ユーザー側から政策の作成依頼もできるようになります。政治家がまだ気づいていない課題を、伝えるための仕組みですね。
「インターネットが当たり前の社会で、なぜ政治は未だにアナログなのか?」
──なぜ、伊藤さんはこのような政治プラットフォームを作ろうと考えたのでしょうか。もともと政治に興味があったんですか?
伊藤:いえ。こう言うと驚かれますが、僕は特に政治に興味はありませんでした。どちらかというと、入り口はインターネットですね。
大学1年生の頃、「俳句てふてふ」というアプリを開発しました。自分が作った俳句を通して、人とコミュニケーションが取れるアプリです。僕は俳句が好きだったのですが、周りに俳句が好きな友達がいなくて、ちょっとした孤独感を覚えたのが始まりですね。
このアプリを開発して公開したところ、数千人の人たちから反響がありました。18歳の大学生が出したアプリに、こんなに多くの人たちが反応してくれた……と感動してしまって。インターネットはすごいな、温かいなと感じました。
──そこから、なぜ「政治」に行き着いたのでしょう?
伊藤:政治に関心が向いたのは、僕が19歳のときに行われた衆議院選挙がきっかけです。政治家が一方的に政策を伝えるだけの選挙の仕組みに、違和感を覚えました。
「インターネットが当たり前の世の中で、どうして選挙はこんなにアナログなやり方で行われるんだろう。政治家と有権者が双方向にやりとりできるツールがあればいいのに」と。インターネットの力を使えばそれができるはずだと考えて、アプリを作ったのが始まりです。
──有権者としての素朴な疑問から始まったんですね。
伊藤:そうですね。最初は、政治家と有権者が議論できる場を作ろうと、サービスを設計していました。利用者が課題に感じていることを投稿し、政治家を招待して議論ができる仕組みです。
──サービス立ち上げ当初は、ブロックチェーンの技術も使われていましたよね?
伊藤:はい。より多くの人たちに使われるサービスにしたいと考えていましたから、政治に興味がない人の関心を集めるために、ブロックチェーンを導入したんです。ユーザーがコメントの書き込みなどアクションをすると、仮想通貨のトークンがもらえるようにしていました。
──しかしサービス立ち上げから2年がたち、設計を変えたとうかがっています。どのような変化があったのでしょうか。
伊藤:2年間、運営する中でさまざまな気づきがあり、2019年12月に全体的にサービスの設計を変えたんです。仮想通貨を使うこともやめました。
政治に関心がない人は、どんなに金銭的なインセンティブがあってもPoliPoliを利用しないとわかったんですよね。それに僕たちが作りたいのはあくまでも政治プラットフォームであって、仮想通貨のサービスではないので。
そして、政治家と有権者が議論をするのではなく、有権者が政治家を「応援」する場を作っていくことにしました。
──議論ではなく、応援。それが一番、大きく変わったところですね。
伊藤:はい。今、必要とされているのは議論の場ではないな、と思うようになったんです。議論したり、個人の意見を表明したりすることはSNSなどを通じてでもできるけど、政策がどんなプロセスで進んでいるかを知り、有権者がそれを応援できる場はあまりないですよね。
それに「政策」ベースで提示した方が、若い世代は政治に興味を持ちやすいと思うんです。街頭演説など、限られたコミュニケーションではなくて。そこで、政治家のみなさんがさまざまな政策を投稿し、それをユーザーがさまざまな形で“応援”できる、クラウドファンディングのようなプラットフォームを目指して舵を切ることにしました。
当事者の声に後押しされ、さまざまな政策が前進していく
──これまで実際に、「PoliPoli」をきっかけに動いた政策はありますか?
伊藤:例えば、国民民主党の源馬謙太郎議員が提言している、不妊治療の当事者へのサポート体制の拡充などでしょうか。
政策を投稿したところ、「不妊治療の費用は高額。明確な期限もないため、経済的な不安がある」「心の負担が大きい。精神面でのサポートも拡充してほしい」などのコメントが当事者やその家族から寄せられました。
そこで、源馬議員はユーザーとの意見交換会を実施。野党超党派の政策グループで、不妊治療に関する勉強会を開き、保険適用や治療技術の課題と、その解決策について話し合ったそうです。
──当事者の声が寄せられたからこその動きですね。
伊藤:ユーザーの声が反映された事例を聞くと、僕もうれしくなります。
他にも、自民党の平将明議員がユーザーに向けて日本の宇宙産業を前進させるためのアイデアを募っています。今、内閣府では宇宙政策を進めていていて、有権者の声を必要としているんです。
コメントを募るだけでなく、ユーザーを集めての意見交換会も開かれました。宇宙ビジネスを展開するベンチャー企業の代表の方も参加してくれたそうです。意見は全て、内閣府に届けられて、政策の参考にされる予定です。
──政策に関連する企業の方も参加されるんですね。
伊藤:そうですね。「PoliPoli」のユーザーには、ベンチャー企業やスタートアップで働く人たちも多くいらっしゃいます。例えば、インバウンド向けの政策を出している政治家に、スタートアップの方が会いに行って、事業の壁になっている法律や規制について議論をするケースも出てきています。
──個人から企業まで、幅広く活用されていますね。実際にユーザーと会った政治家は、どんな反応を?
伊藤:「コメントをもらえるだけでも、とても勉強になります」と言ってくださることが多いですね。政治家のみなさんも、有権者や、社会課題に直面している当事者の方々の声を必要としているんですよ。意見や要望をきちんと伝えることができれば、私たち有権者が政治を動かせるのだと実感しています。
ユーザーの小さな成功体験を道しるべに、社会の意思決定をサポートする
──「PoliPoli」をきっかけに前進する政策が出てきている中で、今度、どのようにプロダクトを進化させていきたいですか?
伊藤:まずは、少人数でもいいからユーザーが全員熱狂してくれるサービスを作りたいです。次に、社会の動きへの関心度が高い層に使われるサービスにしたい。最終的には、日本の国民1億人がみんなPiliPoliに登録して、政治家の政策を見比べて、どの党に投票するのかを決められる世の中にしたいですね。
──そのためには、政治への関心が低い人たちにもリーチする必要があると思います。多くの人に使われるサービスにしていくためには、何が必要なのでしょうか。
伊藤:「自分の声が届くはずがない」という、政治に対する無力感を払拭する必要があると思います。「PoliPoli」を通して、自分の声が政治家に伝わる小さな成功体験を提供し続けていきたいです。
──もともとはボトムアップ的な要素が強いサービスだったと思いますが、まずは政治家の方が進めている政策を応援するプラットフォームにシフトされた。そこで「自分の声が届く」小さな成功体験を得ることが、まずは重要とお考えなのですね。
伊藤:もちろん、ボトムアップでの政策立案も重要です。社会の中で解決すべきイシューが多様化しているので、政治家の方が発信する政策と、有権者からボトムアップで提言される政策を合わせて、政策の優先度も可視化していきたいですね。
──政策の優先度、とはどういうことでしょうか?
伊藤:政策に賛成する人の熱量が、どのくらいあるかですね。
──賛成する人の熱量。
伊藤:そうです。その熱量を測るには、2つの要素があると考えています。1つは量で、その社会課題がどのくらいの人数の人たちから支持されているのか。もう1つは、質です。その社会課題に対して、どのくらい強く切実な思いを持った人たちがいるのか。
その量と質をかけあわせることで、政策に対する熱量を可視化できるんじゃないかと思っています。
例えば先ほど事例に挙げた不妊治療に関する政策は、当事者の方の数だけで比較すると他の政策より少ないかもしれない。でも賛成しているみなさんの想いや、切実さがものすごく強いですよね。
対して、国民の大多数が賛成してはいるけれど、社会課題としての切実さがそこまで深くない政策もあるわけです。
──なるほど。そうした熱量を測ることができれば、この社会の中でその政策がどのくらい優先されるべきか、一つの指標になりそうですね。
伊藤:はい、そう思います。票の数だけでなく、「熱量」も可視化していければ、有権者にとって本当に必要な政策を政治家が進められるようになる。今はまだまだ構想中ですが、テクノロジーの力を使えば実現できるはずです。
──「PoliPoli」を通して、伊藤さんは最終的に、どのような世界を作りたいのでしょうか。
伊藤:一人ひとりが、政治という社会の意思決定に、能動的に参加する世界ですね。そのためには、史上最高の政治プラットフォームを作る必要がある。僕たちはいいサービスを作り、人々の幸せを最大化していきたいんです。
政策は国民全員、つまり1億人以上の人に関係することですから、それを実現できる可能性があると思っています。
・ ・ ・
◆政治家と有権者をつなぐ、「PoliPoli」の活動をご紹介(編集部より)
伊藤さんへの取材日(3/24)からわずか2週間後、新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令されました。
政治プラットフォームとして、「PoliPoli」でもさまざまな取り組みがスタートしています。最後に、記事公開時(5/14時点)の新たな動きをご紹介いたします。
新型コロナウイルス対策の政策へ、直接意見を届けられる特設サイト
新型コロナウィルス感染拡大に対応するために、今現在、どんな政策が進められているのか。それがわかりやすくビジュアル化された状態で、サイト上に掲載されていきます。
誹謗中傷やクレームではなく、建設的な意見やコメントを通して、政策そのものや、政策を実現するために奔走している政治家本人を「応援する」ことが可能。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000029.000032735.html
「コロナを危機で終わらせない」さまざまなアイデア・提言を募るプロジェクト
一般社団法人PublicMeetsInnovationの主導により、新型コロナウィルスによる社会危機を、アップデート機会に変えるアイデア・提言の募集もはじまっています。その賛同企業に、PoliPoliも名を連ねています。
「PoliPoli」は政治プラットフォームとしての仕組みを活かし、集まったアイデアや提言を国政に届ける役割を担うそうです。
参考:https://note.com/pmi/n/nea7a25e6247b
PoliPoliをはじめとする新たなサービス、プラットフォームが生まれたことで、誰でも政治の一部に参加できるようになりつつある。その事実を改めて感じる取り組みです。ぜひみなさんもご参加ください。
—–
構成:藤原梨香/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)