最近、所得税減税のニュースを目にすることも多くなりましたが、法改正を必要とすることから、時間がかかり、給付金に比べると即効性が低いとのデメリットも指摘されています。
実際には、11月から始まる与党の税制調査会において具体的な改正事項の議論がなされ、与党税制改正大綱のとりまとめ、政府としての税制改正の大綱の閣議決定を経て、税制改正の法案作成、国会での成立を目指すこととなります。このように、税制改正は非常に長いプロセスを要するものですが、この記事ではその概要をご紹介したいと思います。
1:与党税制調査会
与党税制調査会は、毎年度の具体的な税制改正事項を審議し、大綱にまとめることが役割です。与党税制改正大綱は、ほぼそのままの形で政府の税制改正の大綱として閣議決定されますので、我々のようなパブリックアフェアーズ(PA)の担当者など税制の動向を追っている者としては、与党税制調査会の税制改正大綱がどのようにとりまとめられるのかが関心事となります。
(公明党においても同時期に税調が開かれますが、以下簡略化のため、与党=自民党として説明します。)
税制調査会は、自民党が政務調査会の下に設置している調査会の一つですが、通常の調査会とは別格と見られています。なぜなら、各部会等から税制調査会に対して税制改正要望がなされるということになりますが、各分野の要望を勘案して適切な落とし所を見出すことは、極めて高度な政治的判断を要するため、税制調査会の主要メンバーには党の内外に睨みがきく大物議員が起用されることが通例です。
自民党税制調査会は、会長(1名)・顧問・小委員長(1名)・小委員長代理(1名)が中心となり、その下に副会長・幹事からなるメンバーで構成されます。このうち、会長・顧問・小委員長・小委員長代理・一部の副会長・幹事は「インナ-」と称され、重要な意思決定はこのインナーで行われると言われています。
自民党税制調査会では、インナーによる会合のほか、「正副幹事会(略称「正副」)」、「小委員会(略称「小委」)」を繰り返し開催し、改正要望項目についての審議を進めます。
正副に参加できる議員は、会長・小委員長・顧問・副会長・幹事のみですが、小委は自民党所属の国会議員であれば誰でも参加・発言ができます。とはいえ、発言できる回数には限りがありますので、いかに自分がいいたいことを発言できるのか、参加する国会議員にとってタイミングの見極めが重要だと言えます。
11月中下旬に自民党税制調査会の総会が開催されキックオフとなりますが、その後各部会のヒアリング(小委)や、正副、小委といった会合を経て、12月中旬に税制改正大綱として取りまとめられます。
与党税制改正大綱が決まり、それをベースとして政府の税制改正の大綱が閣議決定された後は、政府は改正内容を法案に落とし込み、国会で成立させる必要があります。
参考:政府税制調査会
税制調査会には、与党税制調査会とは別に、政府税制調査会があります。
政府税制調査会は、内閣総理大臣の諮問に応じ、租税制度に関する基本的事項を調査審議し、意見を述べることがその役割とされています(内閣府本府組織令)。
例えば、令和3年11月12日に、岸田内閣総理大臣から、「人口減少・少子高齢化、働き方やライフコースの多様化、グローバル化の進展、経済のデジタル化等の経済社会の構造変化を踏まえ、成長と分配の好循環を実現するとともに、コロナ後の新しい社会を開拓していくことをコンセプトとして、新しい資本主義を目指していく。こうした観点から、持続的かつ包摂的な経済成長の実現と財政健全化の達成を両立させるため、公平かつ働き方等に中立的で、新たな時代の動きに適切に対応した、あるべき税制の具体化に向け、包括的な審議を求める。」との諮問がなされています。
これについて、有識者へのヒアリング等を行い、令和5年6月30日に「わが国の税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方」と題して答申が提出されました。このように、中長期的な目線から税制のあり方を検討することが、政府税制調査会の役割です。
2:各省庁の役割
秋からの税制改正に向けて、各省庁は夏から本格的に動き始めています。国税は財務省、地方税は総務省が(要望を聞く側の)担当省庁として、例年8月末日でとりまとめた各省庁の税制改正要望について、順次ヒアリングを実施します。財務省・総務省は、概ね9月、10月にかけてヒアリングを実施した後、各要望への対応方針について検討を行います。
各省庁とも、所管分野や業界を抱えていますので、各省庁の意向としての要望内容もあれば、そのバックに控えている業界の意向を反映させたものも含まれているでしょう。与党税制調査会がキックオフされる11月中下旬に向け、要望を聞く側の財務省・総務省と、要望側の省庁の間でのやりとりが続くのです。
一方、自民党の各部会、団体総局においても、各種団体等から税制改正要望が多数提出され、11月初〜中旬には、税制改正における要望項目をとりまとめ、政務調査会に提出します。政務調査会に提出された要望項目の一覧をベースに、その後の税制調査会の議論が進められます。
当初の対応方針が税制調査会の場でひっくり返ることもありますし、ひっくり返すために発言する国会議員もヒートアップし、盛り上がりを見せます。例年、高度に政治的な案件もあり、まさに喧喧諤諤の議論が展開されます。
閣議決定内容を踏まえ、政府は税制改正のための法案の準備を開始します(国税は財務省、地方税は総務省が法案作成)。1月末頃には国会に提出することになることから、税制改正の大綱の閣議決定の後、法案作成の担当者は、正月返上での作業にとりかかるのが通例です。このように、税制改正は政治の場で決着されるものですが、夏から秋にかけては、事前に省庁間での地道な準備が進み、法案作成においても大変な労力がかかっていることも理解する必要があります。
以上、税制改正の進むプロセスについて、概要を見てきました。国民にとっては大変大きな影響のあるプロセスであり、政治家、官僚、各種団体など、多くのステークホルダーを巻き込んだ議論があちこちで展開されているのです。ぜひこの記事の内容を踏まえて見てみると、日々のニュースが少し違った視点で見えてくるかもしれません。
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制作:PublicAffairsJP編集部 / 横山 啓(マカイラ株式会社 シニアコンサルタント)