スタートアップの新・必須科目!非市場戦略とパブリックアフェアーズ(講演録 第4回/全4回)

イベント

2023年8月16日(水)、つくばスタートアップパーク主催のSTAPA STARTUP TALKにて、「スタートアップの新・必須科目!非市場戦略とパブリックアフェアーズ」と題して、マカイラ株式会社代表取締役COOの高橋朗が講演しました。当日の講演内容の一部をご紹介いたします。
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最後にマカイラのご紹介をさせていただき、「非市場戦略/PAのススメ」についてお話しをさせてください。

マカイラのビジョン・ミッション・プリンシプル

私たちはマカイラは、「ホリスティックにアップデートし続ける社会」をビジョンに掲げています。アップデートを続けて目指すは、自由・公正・持続可能な社会。そんな社会づくりに資するような社会変革の担い手をスタートアップから大企業まで「社会変革の実装パートナー」として支援することをミッションにしている会社です。

特徴的なのは、プリンシプル=案件の判断基準です。会社Websiteでも「我々はお引き受けする仕事を”選ぶ”会社です」と明記していますが、3つのプリンシプルにそぐわないお仕事はお受けしないことがあります。

第一に「Innovation focus」、何らか変革によって社会を前に進めることを助けたい。第二に「Social Good」。どのようなことにも光と影があります。我々の視点で見た時に社会へのプラスインパクトがマイナスよりも差し引き多いと考えられる仕事しか受けないことにしています。第三に「No rent seeking」、独占的な利益作りにはくみさない、です。いわゆるFirst mover advantageはあってしかるべし、と思いますが、永続的に囲い込む利権作りには与さないと決めています。

こんなビジョン、ミッション、プリンシプルのもとで、提供サービスを、RULE(ロビイング等)、DEAL(自治体等との関係構築)、APPEAL(PRやブランディング)、REAL(事業開発支援)、IDEAL(シンクタンク)と、最後の「L」をとって「5L」と整理しています。

 

スタートアップこそ非市場戦略・PAを「必須科目」に!

さて、弊社のお客様は、もともとは外資の大手テック系企業がその大部分を占めていました。しかし、ここ2年ほどは日本のスタートアップ企業からのご相談が増えて、今ではお客様のほぼ半分が日本のスタートアップになっています。半数程度となっています。

スタートアップ企業からのご相談内容をみると、最近目立つのは、EarlyからMiddleステージあたり、いわゆるPMF(Product Market Fit)達成前後のスタートアップからのご相談です。

PMF達成後に、通常であれば、一般的なマーケティングとセールスに集中してマーケット獲得に動くのでしょうが、それだけでなく、競争する市場そのもの、いわば「土俵」そのものを変えて、一気に伸ばすことをお考えになって、ご相談にいらっしゃるスタートアップが増えてきたと感じています。

なお、反面、もう少し後のステージ、たとえば、IPO準備を意識し始めたスタートアップが、上場審査に備えて「うちの事業、法的にグレーゾーンかもしれないのでなんとかしたい」と駆け込み寺的にご相談いただくケースもあります。

事案によっては数年単位の時間を要するようなものもありますので、できるだけ早めにご相談いただくのが、その企業さんにとっても、社会ににとっても良いはずです。そんな考えもあって、こうした」スタートアップこそ非市場戦略・PAを!」という考えを広めたいと思っています。

 

私たちは、非市場戦略・パブリックアフェアーズを「スタートアップの新・必須科目」にしたい。

もちろん、企業によっては、本格的にコストやリソースを投入することは難しい、という結論に至るかもしれませんが、少なくとも、やっておくべきかどうか、やっておかないと数年後に大変なことにならないか、といった検討だけはしておいた方がよいでしょう。

なぜなら、Rule TakerよりRule Makerであるべきだからです。ルールが決められてそれを受け入れて勝負するよりも、自分たちに有利、かつ社会のためにもなるルールを作って事業を展開していったほうが、成長が早く、収益機会も多くなります。もちろん自分の利益だけを主張していても仲間は増やせませんので、「社会のため」という視点も、忘れてはなりません。

骨太の方針の中身もご紹介しましたが、非市場戦略を練り、公共部門と連携しながら社会課題に取り組んだ方が収益機会も多く、もたらす社会的インパクトも大きくいなると思います。ぜひ、非市場戦略やPAの観点から、スタートアップとして「なぜ、何をやりたいか」と自らに問うてみてください。

より大きな事業機会と社会課題が見つかるはずです。アタックする課題が大きいほど、政府・自治体や他の企業など、新しい連携相手・仲間を見つけて取り組む必要が出てきますし、だからこそ、より大きな社会的インパクトと収益が望めるはずです。

スタートアップ=CHANGEMAKER、のはず。CHANGEMAKERたる皆さんが構想する「インパクトの拡大再生産サイクル」を、弊社がお手伝いできる将来を楽しみにしています。

 

質疑応答・意見交換など

質問者:
電動キックボードの事例では、「敢えてわずか3年」という表現がありましたが、スタートアップや業界団体にとっては決して短くはない3年であったのではないかと想像します。改めて、どのような3年であったとみていらっしゃいますか?

高橋朗:
本案件を担当した弊社執行役員の城譲にも、最初から「このアクションを打って、次にこれを実現すれば法改正までたどり着く」と明確な道筋が見えていたわけではなかったと思います。

おそらく、「どうやら法改正が不可避。成長戦略に書き込んで、なんとか法改正に向かって進む」といった王道のイメージは持っていたと思いますが、まずは議連の立ち上げなど、できるだけ多くの関係者が集って議論をする場を作ることが先決、などと考えていたはず。

こうした議論を通じて、「次はどの実現目標を設定してどのように進むべきか」を各局面で考え続け、様々な方と対話するなかで修正して進んできたのではないでしょうか。

 

質問者:
各局面で、判断をする決め手や、判断材料にされていることは何でしょうか。

高橋朗:
その意味でも、マカイラのプリンシプル-案件選択のための三つの基準は、私たちの拠り所です。電動キックボードにも賛否両論があります。事故が増えるかもしれない、という安全性への心配もあります。また、道路という公共空間に新たに出現した移動手段であるわけですから、「公共空間をどう活用するのがフェアで、社会全体の利便性を上げるのか?」という観点でも考えなくてはなりません。

電動キックボードは、海外で先行事例が多く、利便性が高まった事例が多い反面、危ない社会実装になりかねないリスクもわかっていました。これらを参考に、「Innovation Focus」「Social Good」に適うようにするためには、どんなアクションをとって、どんな社会実装をすればいいか、を考えて進めてきました。

 

質問者:
電動キックボードの事例は、「3年は想定比早い」という感覚だったのか、それとも「計画通り3年」という認識だったのでしょうか。また、電動キックボードに関して、フランスやシンガポールなどの諸外国ではバッドレピテーションがあり、政治家も意識していたと思います。その点をどのように対応したのでしょうか。

高橋朗:
かなり早い展開でした。通常、法律は3年〜5年単位で見直すものです。官僚・政治家は、新しい法律ができたら、1年目は見守り、2年目にレビューして、3年目に調査・分析、議論して改正案を検討する、というプロセスを回しますので、3年で改正できたのは最短コースに乗せられたとみてよいと思います。

ちなみに、法律レベルになると3年で早いのですが、省令や府令、ガイドラインや通達といった対応で済む事案だと、その時の政府・主管官庁の方針に沿った筋が良いものであれば、もっと早く変えられることもあると思います。相談いただいて半年程度で何らかの通達が出た事例もありますので、全てが3年かかるわけではありません。

なお、安全対策や乗り捨てへの対策は、新事業特例での実証事業の段階で念入りに行っていました。せっかく海外事例があったので、できるだけ事前に備えを固めて、いわゆる「ツッコミどころ」が少ない状態をつくらないと、法改正まではたどり着けない、という意識で行っていました。

 

質問者:
電動キックボードのほかには、どんな分野の案件を支援してらっしゃるんでしょうか?医療関係など難しそうですが。また、お断りになるような分野はあるのでしょうか?
高橋朗:
電動キックボードに近い領域ですと、たとえば、同じく道路交通法の改正で実現した、自動配送ロボット(つくば市でも実証実験やってて走ってますね)についても、業界団体の事務局をマカイラが務めてます。

ただ、こうしたモビリティ関連だけでなく、取り扱い分野は様々です。医療も、個別製品の薬事承認に関わるような話は我々以上のプロが世の中にはいらっしゃるのでやりませんが、疾患啓発に関連したお話や患者団体のご支援、ヘルステック・デジタルヘルスのスタートアップ企業のご支援などは実績がありますね。

基本、プリンシプルの3つを満たしていれば、どんな領域でも勉強してお請けするようにしています。ただ、なんども独力でやろうとは思っていません。未知の領域でしたら、もちろん自分たちでも調べますが、その道のプロにチームにはいってもらって対応することが多いです。

ちなみに最近、「〇〇テック」とか「〇〇DX」、「〇〇 as as Service」という新しい言葉がどんどん出てきますよね。幸い、新しい「〇〇テック」という言葉を聞くと、たいがい半年くらい以内に、マカイラに相談が寄せられることが目立つ気がします。近年ですと、アグリテックとか、防災テックとか。詐欺防止系のテックなどのご相談も最近いただきました。

 

質問者:
PAは一社で進めるものなのでしょうかか、それとも他社を巻き込んだ方が良いのでしょうか。一社で頑張って商品を売ったとしても、他社に追い越されてしまわないでしょうか。また、非市場戦略が結局普通の市場戦略となることはないのでしょうか。
高橋朗:
1社単独で進めるより、他者を巻き込んだ方が実現可能性を高めると思います。政治家も官庁も「一社の利益誘導のために仕事をしてはならない」という意識が強いため、一社単独の要望だと対応に慎重になりがちです。

一方で、業界団体からの要望ならば安心して、まずはお話を聞くことができます。その観点からは、必要なら競合すら仲間に取り込んで一緒に進めるべきですね。サービスの質や価格など「競争領域」ではどんどん競争する傍ら、市場づくり・ルール作りを「非競争領域」として切り分けて、競争して土台作りをやっていけるといいと思います。

非競争領域を切り分ける考え方、スタートアップには受け入れることができる方が比較的多い気がしますが、逆に日本の伝統的な大企業のほうが受け入れ難いようです。「トップシェアの競合のほうが恩恵が大きいことになぜリソースをかけるのか」という社内の論理を突破できずに進まなかった、という経験はいくつもあります。非市場戦略・PAを、スタートアップのみならず、日本企業全体にとっての必須科目にしたいと考えています。

 

質問者:
大学では、産学連携イノベーションの社会実装に向けた取組が求められておりますが、大学にはどのようなことを期待されますか。また、「大学にはこういう人材を育ててほしい」という、人材に対するスキルの具体的な要求ポイントもあれば教えていただきたいです。
高橋 朗:
大学に期待することは二つあります。まず、ひとつめは、「議論の場を設ける」ことでの貢献です。実際、新しい技術の社会実装を目指す大学研究者が、様々な利害関係者を集めて議論を進捗させ、規制緩和等に至った事例もあります。

アカデミアの特徴は、利益追求のために各業者と競合する可能性が低く、中立性が高い存在であることだと思います。このため、競合同士を含む企業関係者や、行政関係者、市民団体などをまきこんだ議論の場を設定しやすい。これは大きな貢献になり得ると思います。

ふたつ目は、社会的インパクトに関する説得材料を作っていただくことです。電動キックボードは、安全性や利便性について業界が調査してデータを取っています。議論を前に進めるための説得的なエビデンスづくりに、大学には大変期待したいです。

大学に期待する人材育成としては、さきほどご説明したFITの概念を使ってお話しさせて下さい。願わくば、Feasibility、Impact、Trendの3つの観点から、社会を捉えられるような人材育成を期待しています。

例えば、公共政策大学院ならば、政策決定のプロセス論など、Feasiblityに関連する知識を教えているものと思います。

もちろん、実践的なプロセスは現場でないと学ぶことは難しいですが、基礎的な知識や考え方については会得できるでしょう。また、Trendは公共政策大学院の得意なところでしょう。政治・経済・社会・技術のメガトレンドについて、適切な、見方、調べ方、考え方を学ぶことができると思います。

難しいのは「Impact」かもしれません。一流の経営コンサルタントや実践の場を踏んだスタートアップ経営者、社会起業家でないと、「事業環境の何がどう変わると、自分の中期的な経営戦略にどう活かせそうか」というメカニズムを考えるのは容易ではないと思います。

この意味では、アントレプレナーシップを含むビジネススクール的なカリキュラムや、社会学的なコンテンツを教えて、その基礎的な素養を教えるのがいいかもしれません。まとめると、公共政策大学院でのFeasiblityとTrendに関するカリキュラム、ビジネススクールおよび社会起業家的な観点でのImpactを学べる環境があるといいな、と思います。

ただ、これら3つとも高いレベルで備えた人はめったにいません。どこか一つに秀でていて、かつ他のことも概ね理解している、もしくは、理解しようとする人材を求めてますし、実際、今のマカイラもそんな人材たちの組み合わせのチームじゃないか、と思います。

 

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