2021年1月28日(木)、市民アドボカシー連盟が主催する『草の根ロビイング勉強会』にて、「公共戦略のWhy・What・Howと、企業が市民セクターに期待すること」をテーマにマカイラ株式会社の高橋朗がパブリックアフェアーズについてお話しました。当日の講演内容の一部をご紹介いたします。
<イベント概要>
主催:NPO法人 市民アドボカシー連盟
20代30代が中心となって結成。これからの社会課題解決、社会をより良くしていく手法として、ぜひ意識をしたい「ロビイング」をテーマに定期的に『草の根ロビイング勉強会』を開催している。
講師:高橋 朗(Akira Takahashi)
マカイラ株式会社 代表取締役 COO。日本銀行でエコノミスト、中小工具メーカーの企業再生、 楽天でグループ経営企画やネットメディア系の事業開発などを経て 、医療×ITのスタートップ企業Welbyに参画し、 同社のIPOに貢献。この間、 プロボノとしてNPO向けの寄付プラットフォームを立ち上げなど 非営利領域の活動のほか、グロービス・マネジメント・ スクールで思考系の講師として教壇に立つ。マカイラでは、 幅広い業界・ 領域に関する知見を活かしたコンサルティングを提供するとともに 、創業者の藤井宏一郎と共同の代表取締役COOに就任。
前編「パブリックアフェアーズの概要と事例」 パブリックアフェアーズ(PA)とは
高橋 朗(以下、高橋):まず、パブリックアフェアーズ(PA)の定義からお話しすると、概念としては、PR(パブリック・リレーションズ)と、GR(ガバメント・リレーションズ)の中間にあるのがPAです。
つまり、広く社会全体のあらゆるステイクホルダーと関係を構築するために情報発信するのがPR。一方、個別の行政機関や政治家と関係を構築するのがGR、いわゆる昔ながらのロビイングですね。これらの間にあるPAは、もう少し広く社会課題・公共課題に取り組むために、様々なステイクホルダーと関係構築することを指します。
もう少し噛み砕くと、「ある主体、企業や団体が、その戦略的な目的を実現するために好ましい環境を整えることを目指して、公共・非営利セクターや社会・世論に対して行う働きかけ」が「パブリックアフェアーズ(PA)」となります。ここで、「好ましい環境」には、法規制などのルールの形成もしくは緩和や、社会からの好感や支持などが含まれます。
さらに私なりに言い換えると、「自分自身のミッションの実現に向けて好ましい環境を整えるために、自分の社会的な主張を理解してくれて、できれば賛同、応援してくれる仲間を増やしていく活動」、これがPAだと考えております。
ここで気を付けたいのは「社会的な主張」というところです。世の中、自分だけの利益になるような主張をいくらしても、なかなか仲間を増やせません。そうではなく、相手や社会全体にとってのベネフィットをもたらすような主張に練り上げて、ここに賛同してくれるような仲間を増やしていくこと、これがPAだと思います。草の根ロビイングをやってらっしゃる皆さんも、実はこういうことをやってらっしゃるんじゃないかなと思います。
パブリックアフェアーズによるルール形成が重要な背景
高橋:なぜこういうPAが重要なのでしょうか。
日本のルール形成において、様々な企業や団体から要望が政治家や行政にあがります。でも要望があればそのまますぐにルールが形成されるわけではありません。様々なかたちで関係者の合意形成が行われて、その結果としてルールが形成されていきます。逆に言うと、ステークホルダーの合意形成ができていないと政治家や行政もルールを作れません。
さらに言えば、政治家も行政も、世の中の全てのことを分かっているわけではありません。分からないことだらけの中で、いろんな人の話を聞いて、それらの合意形成を踏まえたうえで、ルールを作りたいのです。
そうすると、1社1団体の利益のための話をいくら聞かされても、それだけではルール形成はできません。社会全体にこういうベネフィットをもたらす話であり、かつ、こんな多くの方が「仲間」として賛同しています、と訴えてもらうほうが、ルール形成がしやすいのです。
企業・団体によるパブリックアフェアーズの Why-What-How
高橋:それでは、パブリックアフェアーズを具体的にはどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。マカイラが支援する際には、そもそもどんな目的のために(Why)、どんな環境を(What)、どのように実現するのか(How)、というWhy-What-Howアプローチに沿って、「非市場戦略」を検討・立案し、そのうえで実行していきます。
最初に考えるべきが「Why・目的」です。まず、組織自体の目的は? 何のためにやってるんですか? などの根源的な問いについて考える必要があります。その上で、その目的に照らして、どのような外部環境が、なぜ望ましいのか、ここを考えるののがスタートとなります。
その上で「What・目標」を具体化します。その「好ましい外部環境」を整えるために、具体的に何をどう変えればいいのか、たとえば、どの法令、政令、省令の何条をどう変えるべきなのか、あるいは、漠然と社会からの支持が必要というのではなく、社会の中のどういう人からどのように評価されることを狙いたいのか、など、実現したいことを具体化します。
目標が具体的に定まったら、「How・実行」です。そもそもステイクホルダーとしてどんな人・組織がいて、誰とどんな合意をとりつけるべきなのかを調査する。合意をとりつけるためには、どんな内容のメッセージや情報を、どんな方法で届けるのがいいのか、を調べ、考えて、実行していきます。
このWhy・目的ーWhat・目標ーHow・方法の順番を誤らずに、しっかり戦略を立てたうえで進めることが重要です。
Why&What:非市場戦略と市場戦略
高橋:ここで、ビジネススクールでよくみるフレームワークである、3C(Customer、Consumer、Company)を市場戦略、PEST(Politics、Economy、Society、Technology)を非市場戦略と見立ててみましょう。つまり、PESTという外部環境すなわち非市場に、3Cという市場戦略の世界が乗っかっていると考えてみます。
これまでは、外部環境である非市場部分、すなわちPESTはあくまで所与の前提条件。PESTの変化に関する情報をいかに早く掴むことが渉外の仕事で、その上で3C=市場戦略側を迅速に修正して、目的実現を目指すことが企業戦略の在り方だったかと思います。
しかし、これからは(世の中にない新しいサービスの社会実装や新たな社会課題解決策の実現を目指すスタートアップ企業やNPOにとっては特に)、外部環境は所与の与えられた前提ではなくて、好ましい方向に変えられる、整えることが出来る対象と考えるべきです。そのような、どういった環境に整えるかを構想するのが「非市場戦略」です。
このように、外部環境は可変であることを前提に、そもそも自分たちはなぜ、何を目指しているのか、いわゆるミッションやパーパスと言われるレベルから深掘り、その目的にはどのような環境が、なぜ、好ましいのかを考えます【Why(目的)】。
そのうえで、「好ましい環境」を具体化します【What(目標)】。例えば、どの法令のどのあたりがどのようになれば良いのか、社会のどの層からどのような支持が得られると望ましい環境になるのか、を考えます。
私達はコンサルティングでご支援しているのは、基本的にはこういうクライアントばかりです。今までなかったようなサービスもしくはイノベーションを持ってきて、日本で社会実装していくためには、そもそも外部環境を整えないと話にならない。こんな企業や団体をご支援していることが多いので、こんなアプローチをしています。このように非市場戦略について十分検討・立案した上で、次は実行になります。
What&How:パブリックアフェアーズの「3L」
高橋:上記で構想した非市場戦略をどのように実現していくのか【How・実行】、実行フェーズの様々な活動を、「Rule」「Deal」「Appeal」の「3L」と整理しています。
まず、「Rule」とは、主に法令など、まさにルールの形成・変更を目指す活動です。政策や法制度に関して調査し、あるべき姿をプラン、政策提言の形でまとめるなどして、実現を目指します。その過程で、様々なステークホルダーや政治家・官僚の方々に情報を提供して議論し、提言をブラッシュアップして行ったり、党や行政機関でさらに深い検討をお願いしたりすることもあります。
「Deal」は、自治体など行政機関との個別の合意の取り付けです。たとえば、企業と自治体が連携協定を結んで新たな取り組みを進める、自治体と企業、さらにはNPOも参加して実証事業を行うスキームをつくる、など、トライセクター・コーディネーションといわれる連携のコーディネーションやサポートを行っています。
「Appeal」は、主に社会から好感・支持を得るための活動です。政策イシューに関するシンポジウムを開く、メディアに取り上げてもらう、あるいはSNS等で発信する、などによって、社会のターゲット層の理解や好感・支持を獲得することを狙います。さらに踏み込んで、社会からの認知・理解を改めるブランディングサポートまでさせていただくこともあります。
いくつか、事例をお話しましょう(詳細は割愛)。
- 規制緩和で市場拡大のための阻害要因を解消-フィンテック業界:オンライン本人確認の実現
- 社会の支持を得て過度な規制を回避-フリマ事業者:古物営業法の規制強化回避
- 新サービスの社会実装を狙った環境整備-マイクロモビリティ:電動キックボードの普及に向けた規制緩和・ルール整備
- 事業活動の基盤そのものを法制化で強化-全国フードバンク推進協議会:食品ロス削減推進法を成立
- NPOや自治体と連携し、社会の好感・支持獲得を狙う-AR(拡張現実)サービス
*【講演レポート 後編】に続く。
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制作:PublicAffairsJP編集部