スタートアップの新・必須科目!非市場戦略とパブリックアフェアーズ(講演録 第2回/全4回)

イベント

2023年8月16日(水)、つくばスタートアップパーク主催のSTAPA STARTUP TALKにて、「スタートアップの新・必須科目!非市場戦略とパブリックアフェアーズ」と題して、マカイラ株式会社代表取締役COOの高橋朗が講演しました。当日の講演内容の一部をご紹介いたします。【全4回のうちの第2回 /#1に戻る/ #3 #4に続く】

こうした非市場戦略やPAがなぜ重要なのでしょうか。私見として、二点挙げさせていただきます。

 

非市場戦略とPAで新市場を創出

まず一つ目、日本は「新市場の創出」を必要としています。左のグラフは、経済産業省さんの資料から拝借してきました。財務省の法人企業統計でみた、この10年間の日本の全産業の売上と純利益の推移です。

この10年間、売上が1割程度の増加に留まっている一方、純利益は四. 九倍に増えています。つまり、全日本企業は、この10年間、売上をさほど伸ばせないなか、主にコストを削って利益を捻出してきたわけです。コスト削減や既存市場で差別化を図りシェアを奪取して利益成長を目指す考え方は、もはや限界ではないかと思います。

これを解決するひとつのヒントが非市場戦略です。例えば、時代に合わなくなった法規制を今の社会が求めるものに変えて、新しい市場を生み出す。あるいは、社会の潮流に合わせて新しい規格や標準、業界ガイドラインの制定をリードし、新たな市場を創っていく。こうした新たな思考=非市場戦略とPAによって、新しい市場を創り出していくことが重要だと考えています。

 

社会課題こそフロンティア・事業機会

二点目、「社会課題こそ成長のフロンティア」だと考えるからです。いわゆるSDGsに代表されるような、世界の環境や社会にかかわる課題解決ニーズはたくさんあります。

また、少子高齢化、地方衰退、長期デフレ、デジタル化の遅れといった日本特有の課題もあります。近年、ウクライナ紛争によって如実に表れた通り、国際秩序も新たな局面に入ってきました。その結果、経済安全保障などの新しい概念も出てきました。さらに、今年はAIが台頭し、データや個人の権利の扱いも変わってくるでしょう。このような課題を解決することこそが、スタートアップを含む、様々なプレーヤーにとっての事業機会になり得るのです。

「骨太の方針」と呼ばれる、政府が毎年出している政策方針を読むと、こうした事業機会が満載であることが分かります。たとえば、岸田政権が提唱している「新しい資本主義」という考え方は「社会課題の解決に向けた取り組み、それ自体を成長のエンジンに変える」「これにより、官と民が共同して社会課題を解決しながらそれを成長のエンジンとして持続的な成長に結びつけていく」とされています。

 

「骨太の方針」にみるスタートアップの事業機会

今年の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)」の目次から、キーワードを拾って整理してみました。注目いただきたいのは、青字にしたスタートアップの事業機会として関係しそうな項目です。

「第Ⅱ章.新しい資本主義の加速」では、まず、「リスキリング」「労働移動の円滑化」などが挙げられてます。関係しそうなサービスをやっているスタートアップは、政府がどんな取り組みを考えているのか、要注目です。

また、「GX」「DX」「AI」などは、まさにスタートアップこそがリードしてほしい分野。「インパクト投資」というキーワードが初めて載ったのも注目点。他にも「量子技術」「健康・医療」「フュージョンエネルギー」「バイオ」「宇宙」「海洋」も。「子ども子育て支援」や「女性活躍」「孤独・孤立」なども関係企業は見ておいた方がいいですね。「地域・中小企業の活性化」という切り口で、「空飛ぶクルマ」「ドローン」「自動運転」「交通のリデザイン」「物流の革新」が登場します。これらも様々なスタートアップが参画しいる領域ですね。

第Ⅲ章でも、「経済安全保障」「エネルギー・食料安全保障」「農林水産業」「防災・減災」「サイバーセキュリティ」「食品安全」「悪質商法対策」「食品ロス」「花粉症」などのキーワードが。このあたりも、「〇〇テック」「〇〇 as a Service」と新たに呼ばれるようになった領域のスタートアップが思い浮かぶところです。

第Ⅳ章も同じく、「医療DX/健康づくり」「予防・重症化予防」「創薬」となどのバイオベンチャーやデジタルヘルスのスタートアップの取り組み領域。「インフラDX」「空き家対策」「教育DX」「GIGAスクール」「多様な学びの場」などにも取り組むスタートアップが何社も想起されるところです。

このように、政府方針には、これからの社会にとって大事なテーマが挙げられ、「政府も投資をするし、スタートアップを含む民間をサポートしたい」という考えが込められています。

スタートアップ企業も、政府がどんな取り組みを考えているのか、それが本当に社会課題の解決につながるのか、最前線の情報を活かして政府の取り組みを促したり、政府のサポートを受けて連携しながら事業を進めることで、自らの事業成長と社会課題解決を加速させることが可能になってくるんだと思います。

 

PAの方法論:Why-What-Howアプローチ

ここからは、実際どのように非市場戦略を構想し実行するのか、事例等を交えながら、方法論について具体的にお話していきたいと思います。

最初に概念論についてです。私たちマカイラでは、非市場戦略の構想と実行を「Why-What-Howアプローチ」という考え方で行っています。

まず、いわゆるミッションやパーパスと呼ばれるレベルで、「そもそも、なぜ、何を目指しているのか」「そのためにどのような事業環境が望ましいか」の言語化を試みます【Why・目的】。そして、そうした望ましい事業環境とは、具体的に何が実現されている状態なのか、仮置きします【What・目標】。

それは、もしかしたら、法制度・ルールを変えることかもしれませんし、政府が何らかのアクションを起こしてくれることや、社会のあるセグメントから評価・応援されている状況を作ることかもしれません。

このように、What 目標を設定した上で、「誰に、どのようなメッセージを、どんな方法で伝えれば実現に近づくか」、具体的な実現方法について考えます【How・方法】。

さらに【How・方法】を実践的にみていきましょう。Why・目的を言語化し、What・目標を仮設定した後、初期調査に基づいて戦略を立てます。まずは、法令がどうなっているか、政府でどんな議論がなされているか、現場ではどんなことが問題になっているか、などを調査します。

同時に、関係しそうな政治・行政・業界のステークホルダーのスタンスをマッピングしたうえで、どんなことを実現するとよさそうか/実現できそうか、具体的な目標を設定します。目標を実現させるために、どんな根拠に基づく、どんなメッセージを、誰に、どんな順番で働きかけていくか、アウトリーチ計画を考えます。

ここまでの戦略・計画を立ててから実際に働きかけを始めるわけですが、いろんな方と話し合うと、上がらしい情報が得られ、メッセージの言いぶりを修正したり、働きかける順番(アウトリーチ計画)を変更したり、ときには実現目標そのものを修正・変更したりして、最終的な目的に適う目標に近づいていきます。

こうした「実現目標」には、様々な候補があります。スライドで示しているのは、弊社で整理を試みている「打ち手メニュー」の一部です。

まず、非市場戦略・PAすなわち外部環境マネジメントを、法令・法制度に関する環境を整える「リーガルマネジメント」と、評判や組織間の関係などの環境を整える「レピュテーションマネジメント」とに、目標を大きく分類しています。

リーガルマネジメントの目標もさらに4つに分類されます。

まず、①脱クロ、つまり、現行法令では違法になってしまい事業化できない状況を脱することを目標にすること。

続いて、②脱グレー、たとえば、既存の法令が新たなサービスを想定していないために適法か違法か曖昧になってしまう状況を脱すること、もあります。

また、現在は事業ができているが、法規制が代わって事業展開を阻害するリスクを低下させるための、③予防的アクションもあります。

さらに、現在、ルールが存在しない領域で新たな法令づくりを仕掛ける④積極的ルールメイキングを目標とするときもあります。

また、レピュテーション・マネジメントのほうも、⑤攻め、と、⑥守りを狙った関係構築に分類されます。

こうした中分類の目標を実現していくため、さらに小分類の実現事項・アクションがあります。法律や省令の変更から、所管官庁の課長通達等の発出まで、その難度、効果はさまざまです。

そうした法令上のアクションの前段階として、与党(自民党)部会に呼ばれてプレゼンしたり、議員連盟を創設して官庁の検討課題とするよう働きかけたり、もっと小さなところでは省庁主催のイベントに参加してまず関係を構築する、といった実現項目なども考えられます。

中分類のそれぞれの目標に応じて、小分類の実現項目のなかから、まず、どれを実現目標として設定し働きかけ、実現したらさらに次の目標を設定して実現させ、徐々に、大きな成果に向かって、適切な打ち手を講じ続けるプロセスがPAの取り組みなのです。

#3/全4回に続く)

タイトルとURLをコピーしました