issues 廣田達宣さん:テクノロジーを活用して政策提言を可能に。PoliTechのこれから

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テクノロジーの力を活用して、産業に新たな価値をもたらすX-Tech。その波が、パブリックアフェアーズの領域にも少しずつ押し寄せています。政策とテクノロジーを融合させた「ポリテック(PoliTech)」です。

この新たな領域に挑むのが、株式会社issuesの代表・廣田達宣さん。2019年3月、生活者の声を政治家に届ける「issues」をローンチしました。Webサイト上で政策に関する有権者の声を集め、地元の政治家と双方向のやり取りができるようにするWebサービスです。

「ポリテック」は、パブリックアフェアーズの仕事をどう変えるのか。廣田さんにうかがいました。

 

廣田達宣さんプロフィール
株式会社issues代表取締役/1988年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業。大学卒業と同時に株式会社マナボ(現:SATT AI ラボ株式会社)を取締役として創業。ベネッセ・Z会などと提携し、スマホ家庭教師manabo事業の立ち上げに5年間従事(同社は駿台予備校グループに売却)。

仕事熱心な妻へのプロポーズの1ヶ月前に「保育園落ちた日本死ね」という記事を読んだ事がきっかけで「未来の自分たち夫婦の課題を解決する事業を立ち上げる」事を決意。その後、保育領域を学ぶため認定NPO法人フローレンスに転職。文京区・子育て支援課職員らと共に、官民連携事業「こども宅食」の立ち上げに従事。

2018年に同団体を退職後に株式会社issuesを創業。保育領域を含めた様々な社会課題の当事者の声を地元の政治家に届け、解決につなげる「issues –くらしの悩みをみんなで解決-」の立ち上げに従事している。

政治×テクノロジーによって可視化される、声なき声

──そもそも「ポリテック」とは、どんなものなのでしょうか? 日本では、まだ馴染みが薄いですよね。

廣田達宣さん(以下、廣田):ポリテックとは、政治(Politics)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。テクノロジーを政治に活用すると、政治家や公共セクターで働く職員の業務を効率化したり、選挙での得票数をより正確に予測できたり、パブリックアフェアーズ活動の際に提言内容と相性のいい議員を割り出したりできます。

中でも私たちが取り組んでいるのは、政策形成の領域。インターネットを活用して、生活者の声を政治家に届けるお手伝いをしています。

──どのように、声が届けられるのでしょう?

廣田:「小学校の欠席連絡を、オンラインで出せるようにしてほしい」「喫煙所を整備して分煙を進めてほしい」など、事務局でさまざまな基礎自治体の政策課題を選定。Webサイト上で公開し、ユーザーから意見を募ります。

その内容は地元の区議・市議に「要望」として届き、それを入り口に、政治家と有権者の間で1対1の非公開メッセージのやり取りがスタートします。各議員が共感する政策に取り組んでもらい、その進捗状況や実績を、地元住民に随時ご報告いただく仕組みです。

ユーザーは、20〜40代の無党派層が約8割。口コミで徐々に広がっています。

──これまでの取り組みで、実際に政策が実現した事例はありますか?

廣田:issuesの前身となるプロトタイプのサービスを運営していた時のことです。あるときダウン症のお子さんを持つ女性から「障害を理由に、3歳の春で保育園を退所しなければいけない」と相談を受けました。

保育行政は、0歳児から2歳児の低年齢児と、3歳児から5歳児の高年齢児で別々の運用がされていることが多いです。その自治体は障害のある低年齢児の受け入れ体制は整っていたのですが、高年齢児は整っていませんでした。

この女性は、子どもの世界を広げるために、障害のない子どもたちとの関わりを望んで保育園に通わせていました。しかしこのままでは、子どもが退所に追い込まれ、自宅で介護せざるを得ない。ご夫婦のどちらかがお仕事を辞める必要もあるでしょうし、何よりお子さんの世界が閉じたものにならないか、不安を抱えていらっしゃいました。

調べてみると、同じ悩みを抱えている家庭が他にも存在することがわかりました。半年ほど無償で活動をサポートし、今issuesでやっているのと同じように、問題意識に共感してくれる地元住民の声をもとに政策提言をした結果、受け入れ体制が整い、次年度以降も保育園に通えることになったのです。

──声なき声が可視化されたことで、生活者の心に寄り添った政策が実現したんですね。

廣田:尽力してくださった首長・議員・職員の方々、なにより粘り強く活動を続けてきた当事者のみなさんの努力の賜物ですが、第一報を聞いたときは大きな達成感と喜びがありました。

正式版をリリースしてからも、ユーザーの声をもとに政治家が議会に要望書を提出するなど、実現に向けて動いている事例も出てきています。

特別な人脈やノウハウなどがなくても、政策決定の現場に声を届け、暮らしやすい世の中を作ることができる。テクノロジーの力でそういう仕組みを作っていきたいです。

Webサービス「issues」

政策を変えるインパクトを肌で感じ、パブリックアフェアーズの世界へ

──そもそもなぜ、廣田さんは政策形成の領域でサービスを作ろうと思ったのですか?

廣田:以前勤めていた、認定NPO法人フローレンスでの経験が大きいです。

結婚を機に、日本の保育園不足に課題意識を持つようになったんです。我が家は子どもはこれからですが、いずれ自分たちにも降りかかる身近な問題だと感じました。

待機児童の解消に貢献できないかと考え、子育てを取り巻く社会課題の解決を目指すフローレンスに転職。実際に入社してみると、かなり政策提言に力を入れている団体だとわかりました。

パブリックアフェアーズによって制度を変え、課題解決に貢献する事業の展開に関われたことは、非常に印象深かったです。

──印象に残っている事例はありますか?

廣田:医療的ケアが必要な子どものための保育事業の展開です。例えば摂食機能が弱く、胃に穴を開けて通したチューブを使って食事を摂る必要がある子どもは、特別なケアが必要。保育園では、受け入れを断られるケースも多いです。

安全な保育を行うためには、医療機器や専門性の高い人員などの整備をする必要がある。しかし少し前まで、そのための適切な制度が整備されていなかったんです。

このままでは、障害のある子どもたちの発達の機会も失われますし、親御さんも介護のために常勤で働くことが難しくなる。

この現状を変えようと、フローレンスでは既存の制度や寄付を組み合わせ、実証実験のような形で障害児向けの保育事業を開始。賛同者を募り、実績も出てきたタイミングで補助金の拡充などを政府に提言しました。

一連の活動の結果、法律が変わり、助成制度ができて、同様の事業が全国のさまざまな事業者に広がっていく素地ができてきたんです。政策を変えることのインパクトを肌で感じましたね。こういった事例に触れた経験を通して、政策形成の分野での起業を決めました。

──その中でなぜ、テクノロジーに着目したのでしょうか?

廣田:学生時代に起業したEdTech(教育×テクノロジー)のスタートアップで、個人と個人をつなぐインターネットの力を感じたからです。

当時は、スマホアプリを活用し、中高生が勉強していてわからない問題をオンラインで家庭教師に質問できるサービスを展開していました。地方に住んでいる中高生は、都市部の難関大学に通う家庭教師に出会うことが難しい。その問題をインターネットで解決することができました。

人々をダイレクトにつなぎ、価値を生み出す。政策形成の領域にインターネットを持ち込めば、生活者と政治家のあいだにつながりを生み出し、一人ひとりの声を届けられるはずだと考えたのです。

この先10年で浸透する。押し寄せる、ポリテックの波

──特別なコネクションがなくても、生活者の声を政治に反映できる可能性が広がると感じました。今、日本のポリテックはどんな状況なのでしょう?

廣田:日本国内では比較的新しい分野で、まだまだプレイヤーが少ない状況です。官公庁や政治の現場では、国会や議会にパソコンを持ち込めないなど、アナログな慣習が根強く残っているからです。

とはいえ、テクノロジーの波はいずれ全ての業界に押し寄せるはず。インターネットが普及して約20年、広告、メディア、コマースなど、テクノロジーとの相性が良く、感度が高いプレイヤーが多い業界が、はじめにオンライン化しました。医療や教育など、比較的レガシーといえる業界にも、その波は来つつあります。政治の分野にも、あと10年ほどで浸透するのではないでしょうか。

──海外のポリテックの動きはいかがですか?

廣田:海外では、すでにポリテックの活用が進んでいます。特にアメリカやヨーロッパでは盛んです。代表的なのは、政策提言を行う企業や団体向けの情報プラットフォームを運営する、アメリカのフィスカルノート(FiscalNote)。ビッグデータを活用し、過去の投票履歴などから提言の内容とマッチする議員をレコメンドするプロダクトなどを開発しています。

──ビッグデータですか。まさに先端テクノロジーとの融合を体現していますね。

廣田:これまで、政策提言にあたりどの議員に向けてアプローチを行うべきかは、パブリックアフェアーズ担当者が持つ情報や人脈から、職人芸的に割り出す必要がありました。同社のテクノロジーにより、そのための日頃の情報収集の手間が省け、業務効率化にもつながります。

同社のプロダクトには、適切な議員を選び個別最適化したダイレクトメッセージを送れるものもあります。以前は議員とのコネクションがなければアプローチが難しかった。ですがテクノロジーによって、労働集約型のパブリックアフェアーズ活動に新たな武器が加わり、チャンスが広がるんです。フィスカルノートの事例は、私たちもかなり参考にしています。

テクノロジーの活用で、政治家の目線が変わる

──今後、ポリテックの浸透によって、日本の政治はどう変わると思いますか?

廣田:大きな変化を遂げそうですね。支持する政党はないものの、いい政策をやってほしいと考える「積極的無党派層」の声が可視化され、影響力が強まるのではないでしょうか。

インターネットに慣れ親しんだミレニアル世代以下の有権者は、10年後には4,000万人近くにのぼり、積極的無党派層は3分の1を占めるとも言われています。

この層をいかに取り込むかは、各党にとっての重要課題です。issuesはテクノロジーの力を活用し、彼らが望む政策と、投票行動の関係を可視化していきます。各党も、この層の声を更にマニフェストに取り入れるようになるでしょう。

可視化されていない声が届くことで、より若い世代の声が反映された政治が行われるでしょうね。

──企業と公共セクターの関係も変わっていくのでしょうか。

廣田:企業も、ポリテックを活用するようになると思います。私たちも2019年の10月から、ある教育系スタートアップの基礎自治体向け政策提言をサポートする取り組みをはじめました。教員の働き方改革を進めるために、ICTによる業務効率化を進めてほしいという要望です。

同社は教員の残業時間を1日につき2時間も減らせるような、素晴らしいプロダクトを提供しています。しかし公立小中学校のICT化を進める場合、全国1,700以上の基礎自治体に個別にアプローチをしなければいけません。

スタートアップは急激な成長を求められるので、リソースを考慮すると労働集約的なやり方はかなり厳しい。しかし、テクノロジーの力を活用すれば、大きなレバレッジを効かせることができるんです。

個人や企業の要望が可視化され、届けるべき人に届き、政策に反映される。自分の声によって政策が変われば、より多くの人が政治に関心を持ち、民意に沿った政策が行われる世の中になるでしょう。

パブリックアフェアーズの領域では、今後テクノロジーの融合が進み、良い循環が生まれていくと私は信じています。

──最後に、ポリテックやパブリックアフェアーズの領域に興味をもつ若手の方に、アドバイスをいただけますか。廣田さんご自身は、どんなキャリアを重ねるのが理想的だとお考えですか?

廣田:パブリックアフェアーズ領域でコンサルティングなどを手がけるなら、専門性があった方がいいですよね。官僚出身の方が起業するルートなんて、最強だと思います。

でもスタートアップ起業家としてサービスをつくるなら、キャリアはあまり関係ないのではないでしょうか。先ほどご紹介したフィスカルノートの創業者も、学生起業ですよ。サービスが伸びるかどうかは、本当に顧客のニーズに合うものを作れるか、適切なタイミングで勝負を仕掛けられるかが一番大切です。

だからポリテック領域でビジネスをしたいなら、時代の波を捉えた素晴らしいアイディアがあるのであればすぐにはじめるのもありですし、政策形成のプロフェッショナルとしての経験を積んでから参入することもできる。どちらの道もあると思います。

私は自分の経験もあるので、とにかくやってみて、もがく中で学んでいくのが早いんじゃないか——と、お伝えすることが多いですね。

 

 

構成:藤原梨香/撮影:内田麻美/編集:大島悠(ほとりび)

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