パブリックに関わるキャリアを考える 第3回【イベントレポート】- 官庁経験は事業企画にどう生きているのか? –

イベント

2021年4月16日(金)に、マカイラ株式会社の主催イベント「パブリックに関わるキャリアを考える 第3回」を開催しました。

今回ゲストとしてお迎えしたのは、freee株式会社の金融事業本部金融渉外部長の小泉美果さんです。小泉さんは、freee株式会社で事業開発の仕事をメインで行いつつ、その中で必要なパブリックアフェアーズを行うという形でパブリックアフェアーズに関わっていらっしゃいます。

イベント当日は、マカイラ株式会社コンサルタント・パブリックポリシーキャリア研究所 所長の草野百合子が進行を務め、幅広い参加者と様々な議論がなされました。今回はその一部、「小泉さんのこれまでのキャリア」「現在の仕事について」「現在の仕事に必要なスキル・経験」「転職にあたってUnlearnしたこと」について、ダイジェストでお届けします。

小泉美果さんプロフィール
freee株式会社金融事業本部金融渉外部長。総務省にて12年間デジタルガバメントや人事政策に携わる。総務省時代にアメリカに留学し、フランスにてOECDのインターンシップにも参加。2019年7月にfreee株式会社に入社。

 

これまでのキャリア、働き方

草野 百合子(以下、草野):まずは小泉さんに自己紹介をしていただきながら進めていけたらと思います。

小泉 美果(以下、小泉):私は山梨県の出身で、新卒で総務省に入りました。総務省では、デジタルガバメントや国家公務員全体の人事政策などに関わる行政管理の部署にいました。

私は入省して3年目で子どもを生んだので、ほとんどキャリア歴=子育て歴です。今日も後ろに小学校6年生の娘がいます。

総務省時代に子連れでアメリカに留学していて、大学院の夏休みにはOECDのインターンを行っていました。freeeにジョインしたのは、2年前です。金融のプラットフォーム開発と税制改正や業法規制に関わる政府渉外の2つを主に担当しています。

草野:ちなみにキャリア歴=子育て歴ということで、お子さんの年齢によって違いはあるかと思いますが、霞が関とfreeeとではどちらの方が子育てしやすい環境でしたか?

小泉:働いている時間数は正直そんなに変わらないですが、やっぱりfreeeの方が融通は効きますね。転職後は、娘が「ママが家に早く帰ってくるようになってすごく嬉しい」と言ってくれました。

昨年3月からずっと今まで、フルリモートで勤務しています。総務省時代もリモートワークはありましたがやはり物理的に霞が関にいなければいけない時間があったので、そこを比べるとやはり働きやすいと思います。

 

freeeでの現在の仕事について

提供:freee株式会社

 

草野:現在は、どのようなお仕事されていますか。

小泉:今はfreeeというクラウド会計の会社で働いています。「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションの下、会計の他にも人事労務、個人事業主が開業するときや法人を設立するときに活用できるプロダクトなども作っており、創業からIPOまであらゆるステージのスモールビジネスのバックオフィスの効率化や事業成長のサポートに取り組んでいます。

 

提供:freee株式会社

 

カルチャーにこだわる組織で、「マジ価値2原則」というものがあります。「社会の進化を担う責任感」「ムーブメント型チーム」という2つの原則は、政府渉外の仕事の根底にもあると思います。
自社の利益だけではなく世の中やユーザーにとって本質的に価値のあることを進めていこう、世の中の動きに合わせて舵を切っていける組織にしようという指針があります。

freeeの中には政府渉外の専門部署がないのですが、この原則に基づいて必要であればアドホックなチームが組織されます。スモールビジネスに携わる人の環境構築といったときに、サービス提供だけではなくて、制度改正への働きかけも含めてリソースや枠にとらわれずに発想しようという「理想ドリブン」という指針があって、そうした発想の中で、自然と取り組むべき課題が持ち上がりますね。

例えば、給付金シミュレーターという、自分が対象となりうる給付金や融資情報がわかるシュミレーターや、業法規制がある税理士事務所向けのリモートワーク就業規則のモデルテンプレートの作成・公開等を最近では行いました。

 

転職後に生きるスキル・経験

草野:今のfreeeの金融プロダクト事業開発のお仕事では、どんなスキルが必要だと思われますか?

小泉:まだ創業から9年ほどで、とにかく仮説検証を繰り返して、お客様の声を取り入れてプロダクトをどんどん改善し続けている会社のため、ユーザーの声を聞いて行動観察をして、それを企画に反映して実行していく力が必要だと思います。

草野:ちなみに、小泉さんはいつもどのくらいのゴール設定をしてどの領域をご自身のお仕事として担当されてるイメージでしょうか?

小泉:スモールビジネスの人たちが使いやすい金融サービスのプロジェクトオーナーの仕事を担っています。

霞が関との比較でいうと、役人時代はいわゆるジェネラリストといわれたりして、プロジェクトの企画や予算・国会対応から広報・ユーザ対応まで担当したりしていました。今はチーム内に職能別のスペシャリストがいて、ユーザ体験のデザイン、データ分析、マーケティング、カスタマーサクセス・・などそれぞれの分野の専門家がいます。

プロジェクトオーナーの役割では、ユーザリサーチに裏打ちされたプロダクトの提供価値を実現させるために、マーケット調査や今後の制度改革の見通しなどを金融庁との渉外を含めて企画し、やや難しいけれど実現できないわけではない目標を設定します。そしてマーケや営業・開発などのチームの中で目標達成のための短期的なゴールなどを決めて、ユーザーの声を聞きながら本当に長期的な価値提供に繋がっているのか検証し、プロダクトやサービスを運用・改善していくのが私の担当になります。

そこをつなぐためには、霞ヶ関で培った調整スキルが生きていると感じますね。一方で、0を1にする力が私はすごく弱くて。前職でも経験のないことだったので、得意な人に頼って、その分野の専門家と一緒にやっていくことで何とか乗り切っています。

草野:仮説検証をすることやユーザー行動を観察していくというところ自体、そもそも霞ヶ関だとなかなか機会も試す余地がないですよね。ユーザーとの距離が遠くてそこまで辿りつかないことが多いと思います。

そうした仮説検証などの考え方は、freeeに入られてから身につけていかれたんですか?

小泉:そうですね、民間に来て初めてユーザーの顔が見えたって感じです。

草野:freeeに入って金融のプロジェクトを担当するにあたって、前職のどのような経験やスキルが入社の際は評価されたと感じられますか?

小泉:伝統的な組織の中で何かを変えたという経験があったことです。eーLAWSやeーGovの法令検索など、霞ヶ関の中でもこうした改革やシステム改修を担当していたので、そこを評価してもらえたのかなと思います。

草野:それはfreeeがこれから事業を展開していく中で、伝統的な組織の変革に携わる機会があるだろうという想定があったということでしょうか。

小泉:そうですね。たとえば、銀行と関わる機会などが多いです。金融のビジネスはFintech企業だけじゃできなくて、銀行と一緒に作っていく必要があって。銀行も伝統的な組織なので、霞ヶ関が入省年次で語るように入行年次が重要だったり、ある程度言語が似てるというのは感じます。

 

「霞ヶ関の調整スキル」とは

草野:お話で出てきましたが、「調整スキル」って、具体的にはどんな仕事を通して身につけた、どんなスキルのことを指していますか?

小泉:落としどころっぽいものを見つけて、そこに向かって根回しや水面下の交渉をして、表立った約束を作っていくというスキルですかね。

freeeに入って1番最初の仕事は、銀行業界とFintech業界のオープンAPIに関する規制を乗り越えて、セキュアで安定したサービスを提供し続けるための仕事でした。

2017年に銀行法が改正されたのですが、そこで家計簿ソフトや会計ソフトなどから銀行のシステムにアクセスするには、ユーザ保護の観点から、API連携でも、表面上アクセスするだけのスクレイピングでも、銀行とFintech企業間で契約しなければならないことになりました。ですが、法律の施行期限が迫る中で、100以上ある銀行とどんな形で契約できるかが見えていないということが業界の課題としてあったんですね。

規制の対象となる電子決済等代行業という新しい業界団体で、銀行協会や金融庁などと協議し、契約の際に要求されるセキュリティ基準や契約の雛型を考えていきました。業界団体の動きに加え、個社としても、「契約してもいいよ」というファーストペンギンを見つけて、そこから横展開して業界全体に広めていけるように働きかけました。そこは霞ヶ関の考え方や経験が、なんとか結実した例だなと思います。

草野:では、その落としどころの見つけ方や、交渉に当たって相手の考え方や気にしていることを感じとる勘どころも含めて、調整スキルということなんですね。

 

転職にあたってUnlearnしたこと

草野:今の企画のお仕事をされるにあたって、意識的に忘れたほうが良かったことなどはありましたか?

小泉:マネジメントのスタイルは Unlearn できたかなと思っています。

freeeでは、マネージャーは管理職という位置付けてではなく「ジャーマネ」と呼ばれて、一人ひとりのメンバーをタレントに見立てて、その良さを引き出してあげるための環境を整えてあげる仕事という位置付けです。

霞ヶ関では個人があまり納得していないことも含めてやらなくちゃいけないことはやるという前提があったんですけれど、freeeではやはりみんな腹落ちしていないと手を動かしたり夢中になってプロジェクトに関われないので、ちゃんと社内を巻き込むためにビジョンを言語化して、伝えるように意識しています。

 

参加者からの質問

草野:では参加者の皆さまと、感想の共有、質問タイムを設けてみたいと思います。

参加者1:パブリックな場で仕事をしたいと考えている大学2年生です。今、新卒で霞ヶ関に行って良かったと思われますか?また霞ヶ関に行って良かったところはありますか?

小泉:私は、自分の性格的にファーストキャリアは霞ヶ関で良かったなと思ってます。腹落ちしないことでもやれる、逃げない覚悟みたいなのって新しい事業を作っていくときすごく重要になるので、そういう意味ではfreeeのぶっ飛んだ発想ができる人との差別化にはなっているかなと思ってます。

参加者2:小泉さんが国家公務員を辞めた理由と、freeeを選ばれた理由をお聞かせ願いたいです。

小泉:きっかけは、12年間働き課長補佐にもなって、一通り経験できたのでもう少し他のこともできるようになりたいと思ったことです。

あとは、結構ちゃんと自分で仕事できるようになったじゃんって思えたのがきっかけだったかもしれないです。子どもがある程度大きくなり、留学に行って外の視点も持って帰ってきて、自分の頭で考えられるようになって働けるようになったという自信がついたのがそのタイミングでした。総務省に育ててもらい、民間に卒業したという感じです。

その中でも、次はパブリック領域に関わりデジタルガバメントを進められるような企業がいいなと思っていました。

freeeに入ったのは、たまたまリファラルでカジュアルに話を聞いたのがきっかけです。よく調べてみると、行政のインターフェースになるような創業の登記ができるとか、確定申告ができるので総務省でやってきたことも生きそうだなと。また、親が山梨でスモールビジネスをやっており、親の経理や融資借入などの苦労を見ていたので、そうした原体験からもスモールビジネスの会計を効率化するfreeeに惹かれていました。

総務省に残るという選択肢と、もうひとつ内定をもらっていた企業とでめちゃくちゃ悩んで、最後はオファーされた条件とかじゃなくてやりたいことベースで選んだという感じです。ミッションやカルチャーに共感できるかなどで選ぶと、入社後のギャップも少なく楽しく働けると思います。

参加者3:これから、ビジネスパーソンとして、どんな方向に行きたいですか?もしくは民間で学んだ経験を活かすべく、霞ヶ関に戻るという選択肢はありますか?

小泉:これからもパブリックな仕事に関わりたいです。当面はfreeeというツールをつかって日本のデジタル化を進めたいなと思っています。

目標としては、今はアドホックな組織でガバメントリレーションをやってるので、ちゃんとトライセクター人材として長期的な戦略を持って世の中に貢献していく自分になるという個人的な野望があります。

霞ヶ関に戻るといういう選択肢も全然ありますが、freeeでやりたいことができていますし、どの組織に属していても垣根を超えて公益追求していきたいです。

草野:それでは、イベントは以上で終了となります。小泉さん、みなさま、本日はありがとうございました!

 

【参加申込】6/18「パブリックに関わるキャリアを考える」オンラインイベント 第4回

株式会社メルカリ会長室政策企画Director 吉川 徳明さんと、株式会社アンドパッド 上級執行役員法務部長兼アライアンス部長 岡本杏莉さんに、「事業会社におけるパブリックアフェアーズの魅力とやりがい」というテーマでお聞きします!

官僚と弁護士から事業会社へとそれぞれキャリアチェンジして活躍しているおふたりに、これまでのキャリアの葛藤や、キャリアを通じて得た経験やスキル、キャリアに対する考え方などを掘り下げて聞いていく予定です。

【開催概要】
日時:2021年6月18日(金)21:30〜23:00
形式:オンライン(Zoom)
お申し込みはこちらから:終了いたしました

 

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制作:PublicAffairsJP編集部

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