ユーザーの信頼を得て、“FinTechの顔”へ——マネーフォワードのパブリックアフェアーズ– 前編

事例

日本におけるFinTechビジネスの先駆者である株式会社マネーフォワード。同社は2012年設立のベンチャー企業でありながら、業界団体や官庁からも厚い信頼を得て、2020年現在もFinTech業界の中心的存在です。

業界の“顔”となるまで、同社はどのような戦略のもと、活動を展開してきたのでしょうか。今回は、マネーフォワードで公共政策コミュニケーションを担当する瀧俊雄さんに、パブリックアフェアーズの取り組みについてお話を伺いました。

パブリックアフェアーズに関するマネーフォワード社の活動

2012年 マネーフォワード社創業、12月にお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」をローンチ
2013年 会社の公式ブログにて、FinTechに関する最新情報の発信をはじめる
2013年 顧問弁護士を迎える
2014年 「マネーフォワード ME」のユーザー数が100万人を突破
2015年3月 金融庁から問い合わせを受ける。以後、FinTech領域のレクチャーなどを実施するように
2015年7月 「マネーフォワード Fintech 研究所(マネーフォワード Fintech 研究所ブログ)」立ち上げ
2017年 銀行法の改正が実現。ウェブ・スクレイピングに代わり、「オープンAPI(Application Programming Interface)」が制度化される

瀧俊雄さん プロフィール
株式会社マネーフォワード  取締役執行役員/マネーフォワード Fintech 研究所長
2004年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

創業からの拡大期にはユーザーベネフィットを追求。第二フェーズで法制を意識

――事業の成長もさることながら、官庁や業界団体からの信頼も厚く、マネーフォワード社のパブリックアフェアーズは、FinTech業界における一つのロールモデルになっていると感じます。社の設立時から参画している瀧さんは、渉外担当としてどのように取り組んでこられたのでしょうか。

瀧俊雄さん(以下、瀧):マネーフォワードの創業は2012年で、プロダクトローンチはその年の12月でした。以来7年半と、企業の歴史としてはまだまだ浅いほうですね。実は2015年頃までは、パブリックアフェアーズをそこまで意識していませんでした。

――そうだったんですね。

瀧:はい。今の状況から考えると意外に思われるかもしれませんが、レピュテーショナルリスクを踏まえて、あまり目立ちすぎないように気をつけていました。

まずは「100万ユーザーを達成する」という目標に向けてきちんとユーザーベネフィットを提示し、ある程度の数のユーザーからの支持を得て、存在感を示していく方針をとっていたんです。

――なるほど。2012年の創業から3年の間、代表の辻さんや瀧さんはどのような点をリスクだと考えていたのでしょうか。

:たとえば「マネーフォワード ME」のような個人資産管理サービスでは、自動でデータを取得する仕組みが、グレーゾーンと認識される可能性が当時は多少ありました。

▲個人向けに提供しているお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」(写真提供:株式会社マネーフォワード )

 

――それはどういうことですか?

:私たちのサービスでは、銀行やカード会社などの各金融機関に分散しているユーザーの資産情報を、ワンストップで管理できる利便性がユーザーにとってのベネフィットとなります。

当社が創業した2012年当時、それを実現するためにはユーザーが各金融機関に持っているIDやパスワードなどのログイン情報を、私たち企業が預かる必要がありました。ウェブ・スクレイピングという技術を用いて、ユーザーに代わって金融機関にアクセスし、口座の情報を参照する仕組みになっていたんです。

この方法について、全国銀行協会(全銀協)がガイドラインを2002年に出していたものの、アクセスを行っているサービスは大企業によるものが多く、現在のようなFinTech事業者を想定した文書ではありませんでした。企業として注目されることで、逆にセキュリティの観点から「リスクがある」と問題提起される可能性がゼロではないと考えていました。

ですから、私たちは「家計を大事にしたい」と考えるユーザー獲得に注力して市場をつくり、「安全に、便利に家計管理ができる」というユーザーの声を味方につける戦略をとってきたわけです。

――なるほど。まずはユーザーからのプロダクトへの信頼を得ることに注力されたのですね。

:そうです。しかし、2014年には100万ユーザーを達成し、次の目標として「1,000万ユーザーの達成」を掲げたときに、ガイドラインによる例外的な存在の許容という、いわば“お目こぼし”の中で立ち振る舞っているだけでは、なんらかの限界がくる未来も見えていました。また事業が成長するに従い、金融機関側から見たとき、業界に挑戦的なアプローチをとる新興勢力のように見えてしまうリスクもいずれ必ず出てくる。

その頃から、銀行法をはじめとする金融制度の中で、私たちのサービスのサステナビリティを獲得するにはどうしたらいいのか、ということを考えるようになってきました。

金融庁から突然のコンタクト。きっかけは自社ブログ

――「FinTech」という言葉が、日本の金融、テクノロジー両領域で盛んに取り沙汰されるようになったのも2015年頃でしょうか。業界全体としても大きなうねりが生まれる中、法制度や官庁に対する向き合い方は、具体的にどのように変わっていったのでしょうか。

:まずは、社内でリーガルオピニオンをしっかり整備しました。2013年頃には、資金調達額が5億円程度のベンチャーであった自分たちには分不相応なくらいの実績のある顧問弁護士に就任してもらっています。

全銀協の、ウェブ・スクレイピングに関するガイドラインが策定されたのは2002年。それからすでに10年以上の年月が経っていましたので、2013年時点で、現在の法制でそれらをどのように捉えてサービスを運用していくべきかは、しっかり検証していました。

官庁との関わりについて潮目が変わったのは、2015年3月のことです。いきなり、金融庁の方から当社宛にメールをいただいたんですよ。

――瀧さんが渉外担当としてアプローチしたのではなく、金融庁の方からアクションがあったんですね。

:はい。会社の問い合わせ窓口のアドレスに、「聞きたいことがあるから来てくれないか」と。

それを見て私と辻は、何か規制に引っかかるようなことをしてしまって怒られるんじゃないかと思ったんです(笑)。「僕たち、何か悪いことしましたっけ?」「いや、してないと思う」と話し合って……。

ビクビクしながら金融庁に出向き、会議室に入ると、金融庁の管理職の方々と金融研究センターの方々が待っていまして、彼らの前にはサンドイッチの包みがあり、私の席にはお重が用意されていて。「これはもしかして、取調室のカツ丼のようなものか?」と(笑)。

しかしいざお話をしてみると「FinTechについて講演をしてほしい」と依頼されました。そこではじめて、怒られるのではなく、歓迎されているのだということがわかったんです。

――そんな経緯があったのですか。

:実際にはお問い合わせをいただく前年の2014年から、金融庁では「決済業務等の高度化に関するスタディ・グループ」という金融審議会の分科会が立ち上がり、現行の法制度の見直しも含めて、決済サービスの高度化に向けた検討が始まっていました。

世界の情勢をリサーチするうち、「FinTech」という言葉が頻出することがわかり、さらに日本のFinTechの状況を調べていくうちに、当時、私が書いていたブログに行き着いたのだそうです。

――瀧さんご自身が書いていたブログですか?

:はい。2013年初め頃から、業界での露出を増やすことを目的に、「マネーフォワード公式ブログ(後の「マネーフォワード Fintech 研究所ブログ」)」で週に1回、記事を書いていました。

私は前職のシンクタンクで、新規サービスをリサーチし、社内に向けた提言をつくる業務に携わっていたんです。その要領で、忙しい中でも週に1時間だけ時間を必ず使い、FinTechに関する最新情報を調べ、そのリサーチをもとにブログを書いていました。

この情報が、金融庁の方にとっては有用な一次資料になっていたらしいんです。それで「このブロガーに話を聞こう」と、マネーフォワードにメールをくださったという経緯でした。

「FinTechのマスコットになれ」代表の後押しで業界の中心地へ

――なるほど、情報発信が業界でのプレゼンスを高める好例ですね。なかなか実現できることではないと感銘を受けます。その当時は、公式ブログをはじめとする情報発信、その他のパブリックアフェアーズの活動としては、どんなことを意識されていたのでしょうか。

:2015年の金融庁からの“呼び出し”を契機に、金融庁や経済産業省などの官庁から、「話を聞かせてほしい」と声をかけていただく機会が増えていきました。

そのうちに辻から「瀧さんは、FinTechのマスコットになれ」と言われまして(笑)。正直なところ、マネーフォワードで自分がロビイングを担当するつもりはありませんでしたので、3回断ったんです。

ただ辻も、僕の顔を見れば「で、いつからやるんですか?」としか言わない。そうこうしているうちに、2015年7月には、「Fintech 研究所(マネーフォワード Fintech 研究所ブログ)」が立ち上がり、僕が所長を務めることになりました。。

 

――図らずも、瀧さんが“FinTechの顔”になっていったのですね。

:もちろんやると決まったからには、企業価値を最大限に高めるのと同時に、単なる自社の宣伝に終始することなく、フェアな情報発信と政策提言に徹底して取り組みました。

2015年当時のFinTech領域では、ビットコインの台頭に伴った社会問題が明るみに出はじめており、「お金×テクノロジー」にネガティブなイメージを抱く人も少なくなかったんです。

そういった誤解が蔓延しないように、官庁でもメディアでも金融機関でも、どこでもいいので必ず顔を出して、FinTechの理解が間違って進まないように伝える活動を1年間は続けていましたね。

――FinTech業界のコアを担うように、瀧さんご自身が、積極的に関係省庁やメディアに対する情報発信を続けていったんですね。

: そうですね。「FinTech業界の動向を網羅している」という知識量だけでは、コンサルティング会社には叶わない。でも私たちには、実際のプロダクトをもつ事業会社であるという強みがありました。

やがて、よりFinTechに注目が集まり、業界のカオスマップがあちこちに出てくるようになると、私たちの名前が中央に位置するようになっていきました。実は当社は決済も融資も投資も扱っていませんから、厳密には市場のど真ん中にいるわけではないのですが……。

しかしそういったサービスを提供していない事業者だからこそ、中立的な提言ができるというアドバンテージもあるわけです。

――マネーフォワード社には、実際にFinTechのプロダクトを生み出し、100万人のユーザーから信頼を得てサービスを運営している実績があった。だからこそ瀧さんの発信する専門情報の価値が高まり、マネーフォワード社としての提言にも説得力が増していった。その経緯がよくわかりました。

 

後編に続く)

後編では、瀧さんご自身が考える、ベンチャー企業がパブリックアフェアーズ、ルールメイキングに向き合っていくうえで重要な姿勢についてお話いただきました。
※この取材は2020年4月に実施されました。記事内の情報はすべて取材時点のものです。
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トップ写真提供:株式会社マネーフォワード
構成:伊藤宏子/編集:大島悠(ほとりび)
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